東日本大震災の復興支援を目的に、2013年より開催されている自転車イベント「ツール・ド・東北」。約4,000人もの参加者が集い、大勢のライダーたちが海岸線を颯爽と駆け抜けていく風景は今や"東北の風物詩"とも言える。しかし、今年は新型コロナウイルスの影響によって開催の中止を余儀なくされてしまった。
その代わりに、今年は自宅で楽しめる「ツール・ド・東北」として「オンライン応“縁”フェス」が行われるという。自転車イベントをオンラインで……? 果たしてどのようなイベントなのか、またどのような想いで企画されたものなのか、主催者に話を伺ってみた。
中止を惜しむ多くの声がオンライン開催のきっかけに
ここ2年にわたってイベント取材をさせてもらっていた私としては、中止の発表はとても寂しく感じた。私同様、開催を待ち望んでいたライダーたちの惜しむ声がSNSでも数多く見られた。それもそのはず、この「ツール・ド・東北」は、他のサイクリングイベントとは異なり、東北の復興支援が目的。地元の方々をはじめライダーやボランティア、運営スタッフなどイベントに関わる大勢の人々との温かな交流も大きな魅力なのだ。サイクリングの楽しみだけでなく、そんな"縁"を求めて、毎年イベントに参加するライダーも大勢いる。だからこそ、中止を惜しむ声が多く見られたのだろう。
9月2日、開催が発表された「オンライン応“縁”フェス」は、そんな大会の醍醐味とも言える"人とのつながり"を意識した企画になっている。
「今年は、新型コロナウイルスの影響を受けて、大会は残念ながら中止となりましたが、『ツール・ド・東北』が1年に一度は東北に思いをはせる"きっかけ"を提供したいという思いが、大会開催時からありました。今年は実際には東北に訪問できないけれども、全国から集まるライダーやボランティア、『ツール・ド・東北』に関わる人すべてが、それぞれの場所から、東北へ思いをはせたり、また何かアクションをする"きっかけ"に繋げたくオンラインイベントを実施することにしました」
今年は「何もしない」という選択肢ももちろんあったかと思うが、オンラインでの開催は、イベントを待ち望んでいたファンたちの声もきっかけになったという。
「SNSで中止の発表をした際に、『来年笑顔で会いましょう』『来年は今年の分も東北を盛り上げましょう』『寂しいけど、気持ちは東北にありますよ』など、あたたかいコメントが多数寄せられました。支えてくださっている企業や、ツール・ド・東北フレンズの方からは、『何かできることがあれば言ってください』など協力的なコメントいただき、今回の企画実施に繋がりました」
オンラインで楽しめる3つの"縁"で東北を応援
「オンライン応“縁”フェス」は9月2日から9月30日まで開催され、コンテンツは大きく下記の3つとなっている。
「聞いて応“縁”」
大会公式テーマソングを5人組ロックバンド、ORANGE RANGEが書き下ろし。
「今年の大会テーマソングとして、大会会場で皆さんに聴いてもらう予定で制作を進めていました。今回は、震災直後から被災地支援活動をして、実際にツール・ド・東北のコースやエイドステーションの場所をご存じであるORANGE RANGEが手掛けた書き下ろしの新曲です。制作の中心を担ってくださったORANGE RANGEのYOHさんのインタビュー記事は、沖縄出身の彼らがなぜ東北を支援し、ツール・ド・東北に協力くださるのかなど、丁寧に答えてくれたので、ぜひ見てほしいです。また、ツール・ド・東北の美しい舞台である東北の風景や、地元の方々のあたたかい笑顔や待ってくださっている地元の方のコメントが入ったPVなので、みんなで口ずさんで前向きな気持ちになってくれたらうれしいです」
「走って応“縁”」
オンライン上の 仮想空間で、本格的なトレーニングやレースができる「Zwift」を使用したバーチャルサイクリングイベント。
「自分の足で被災地を巡り、東北の魅力や現状、復興への道のりを感じてもらうことで東北への応援につなげたい、という思いで『ツール・ド・東北』を毎年開催してきました。今年は開催中止となりましたが、応援の気持ちを繋げるため、また大会をきっかけに生まれた“縁”を繋げるため、オンラインバーチャルライドイベントをZwiftのツールを使って行います。実際の「女川・雄勝」フォンドと近い約68㎞のコースを設定したので、「ツール・ド・東北 ジャージ」を着用したアバターで、大会当日の雰囲気を味わってほしいです。新型コロナウイルス感染症の一日も早い収束と、来年東北で再会できることを願って、気持ちを一つにしてライドリーダーでツール・ド・東北フレンズの別府始さんと一緒に走りましょう」
日時:2020年9月19日14時スタート
参加費:無料
※参加方法など詳細はホームページを参照
「買って・食べて応“縁”」
現地に行けなくても、東北の方々が作る「いいもの・おいしいもの」を買って食べられる通販モール。
「自転車に乗らなくても、東北の復興は『買って・食べる』ことで支援できます。ツール・ド・東北の舞台の宮城県を中心に、福島県や岩手県の「いいもの、おいしいもの」をインターネット通販モール『エールマーケット』でご紹介します。実際に提供されているエイド食を意識した商品などもあり、ツール・ド・東北に行ったつもりで、東北のものを「買って・食べて」みて、東北を応援していただきたいです」
こんなときだからこそ"縁"を大切にしてほしい
3つのコンテンツはいずれも、現地に行けなくても「ツール・ド・東北」や東北の魅力を感じられる充実した内容になっている。その背景には「1年に一度は東北に思いをはせる"きっかけ"を提供したい」というイベントの想いが込められているそうだ。
「『ツール・ド・東北』の魅力のひとつとして、『走る人、支える人、応援する人』があります。オンラインでもこれらのコンセプトを失わないように、それぞれ楽しめるような企画を用意しました。『聞いて』『走って』『買って・食べて』とあるように、どれかに楽しんで参加することで、東北への想いを寄せるきっかけになります。コロナ禍で人が集まらない(密にならない)ように、『ツール・ド・東北』が持っているあたたかみを生かせる企画となっていると思います。人と人とのつながりやコミュニケーションが新型コロナの影響で少なくなってきていますが、こんなときだからこそ"縁"を大切にしてほしいと考えています」
ちなみに、おすすめの楽しみ方を聞いてみたところ「究極の楽しみ方としては、9月19日にORANGE RANGEの新曲を聴きながら、Zwiftでオンラインライドイベントに参加し、走り終わった後に『エールマーケット』で買った東北の食を味わって『バーチャル ツール・ド・東北』を楽しんでいただくことです」とのこと。
今年、自宅で「オンライン応“縁”フェス」に参加することで、より来年のリアルでのイベント開催への期待感も高まることだろう。最後に、来年度についての意気込みも伺ってみた。
「また来年は震災から10年という非常に大切な年なので、どんな形でもリアルな大会をやりたいと思っています。新しい大会の在り方や、新しい価値が何か創出できないかなど、今からいろいろと考えていますので、来年を楽しみにお待ちください」
震災から節目の年となる2021年。これまで紡いできた"縁"とともに、復興した東北の地を自転車で駆け抜けられることを願いたい。