時代の変化とともに、会社から与えられた仕事をこなせば評価される時代は終わり、イノベーションを起こすきかっけになるような、「発想力」の重要性が増しています。「他人が思いつかないアイデアを生み出せる人」になるには、どうすればいいのでしょうか?

発売間もなくベストセラーとなっている『「考える技術」と「地頭力」がいっきに身につく 東大思考』(東洋経済新報社)の著者である現役東大生の西岡壱誠さんに話を伺うと、「まったく新しいアイデアを生み出せる人はほとんどいない」と語り、それどころか「アイデアはパクりでいい」ともいいます。その言葉の真意はどういうものでしょう。

■発想力が豊かな人は、持っている「立場」が豊か

AIの登場などにより、これまでは人が行っていた多くの業務のオートメーション化が進むなか、AIにはできない、「新たなアイデアを生む」ことこそがビジネスパーソンの重要な仕事だといわれています。これからは、「発想力」を磨くことがビジネスパーソンにとっての大きな課題なのです。

ただ、「発想力を磨く」というと、それこそどこからかアイデアが湧いてくるような「インスピレーションを磨く」といったイメージを持ちがちですが、本当の意味で「発想力を磨く」ことは、そういうことではありません。持つ思考、頭の使い方次第で磨かれるのが発想力なのだとわたしは思っています。

でも、実際には、それこそインスピレーションが降りてくるように次々とアイデアを生んでいるように見える人もいます。でも、そういう人は、ただその人個人の思考からアイデアを生んでいるのではなく、いろいろな「立場」を持っていて、そのなかからアイデアを生んでいるのだとわたしは推測します。

自分自身として考えることはもちろんのこと、自分とはまったく別のパーソナリティーを持っている人の「立場」からも考えているのです。実際、発想力が豊かだといわれる人は、「目のつけどころがちがう」というふうにいわれますよね? まさにそのとおりです。つまり、ひとつのものごとをいろいろな角度から見ているということ。すると、見える風景がちがうのですから、そこから受ける印象も浮かぶアイデアもちがってくるというわけです。

極端な表現をすれば、「アイデアはパクりでいい」とすらわたしは思っています。世界的な発明家として誰もが知るエジソンのノートにびっしりと書かれていたのは、他人のアイデアだったそう。それこそ「パクりノート」です(笑)。でも、エジソンはそのアイデアをそのまま使うようなことはしませんでした。元のアイデアを生んだ人とはまったくちがう場で、「ここであの人のアイデアは使えないか?」とつねに考えていたといいます。まさに、数多くの「立場」からものごとを見ることで多くの発明をしたのがエジソンなのです。

■読書を通じて、多角的に考えるための「立場」を増やす

そう考えると、「他人が思いつかないアイデアを生み出せる人」になるには、ものごとを見る「立場」をどんどん増やしていくことが大切です。

そのために有効なのは、やはり読書でしょう。東大生は本当によく本を読みます。彼ら彼女らがなにをしているかというと、本を読みながら、著者の立場を取り込んでいる。東大生の会話には、「ちょっと○○先生的なことをいうけどさ」といった言葉がよく出てきます。本を読むことで著者の立場を取り込み、多角的に考えるための人格を自分のなかに増やしているのです。

とはいえ、そうするにはやはり時間が必要になる。多角的に考えるための人格は、本来なら長い読書習慣のなかでこそ増えていくものだからです。でも、手っ取り早く他人の考えを取り込む方法もあります。それは、「アイデアの事例集」に触れるということ。

古今東西の科学技術、芸術、文学、哲学などにおけるアイデアとその発想法を集めた『アイデア大全』(フォレスト出版)など、ビジネスにも応用可能なアイデアを網羅した書籍がたくさん出版されています。あるいは、大きな成果を出した成功者のアイデアをまとめた書籍もある。それらに触れれば、短時間で一気に他人の考えを取り込むこともできるでしょう。

■あたりまえのものと新しいものを組み合わせる

「他人が思いつかないアイデアを生み出せる人」になるためにもうひとつおすすめしたいのが、「異なるものを組み合わせる発想を持つ」ことです。たとえば、「むかしのものと新しいものを組み合わせること」もそのひとつでしょう。

先にもお伝えしましたが、まったくのゼロの状態から生まれる新たなアイデアというものはほとんどありません。新しく見えても、すでに誰もが知っているようなあたりまえのものと、いまこの時代に流行しているような新しいものとの組み合わせによって生み出されているアイデアも数多くあります。

最近、わたしが気に入っているのが、「TAMA-KYU」というカプセルトイブランドの商品です。たとえば、「自己主張バッジ」という商品は、一見するとただの名札に過ぎません。それこそ新しくもなんともない。でも、名札をよく見てみると、そこに書かれているのは、「ガチ勢」だとか「陰の者」「ニワカ」といった比較的新しめのネットスラングなのです。それを組み合わせただけで面白い商品になる。いわばこれは、温故知新ですね。

こういう発想は、仕事においてもさまざまな場で使えるはずです。日常のなかに完全に定着していて、ふつうの人はただ通り過ぎているもののなかにも、なにか別のものとの組み合わせ次第で化学反応が起き、新しいアイデアといわれるものに生まれ変わる可能性を持ったものはいくらでもあるのだと思います。

そして、このカプセルトイのような商品や、先にお伝えした『アイデア大全』のような事例集に積極的に触れていれば、「自分だったらこうする」といった発想も生まれてくるでしょう。もちろん、それはまったくのゼロの状態から生まれた新たなアイデアというわけではありませんが、間違いなくあなたが生んだオリジナルのアイデアであるはずです。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹