本記事では「朝令暮改」という言葉について、詳しい意味や由来、類語、対義語、英語表現などについて解説します。一般的に、批判の意図があって使われていることが多い言葉ですが、良い意味でも使えるのか、使用時の注意点や例文もご紹介します。

  • 朝令暮改の意味とは

    古代中国で生まれた「朝令暮改」という言葉。その言葉について徹底解説します

朝令暮改とは

まずは朝令暮改の基本的な意味や読み方を見ていきましょう。

朝令暮改の意味は命令や方針、法律がコロコロと変わること

朝令暮改の「令」とは、古代中国の法律を意味します。朝令暮改は、朝に法律を出し、暮れ、つまり夕方には法律を改める、という意味です。そこから転じて命令や方針が頻繁に変わっていくことを指します。

例えば朝と夕方で言っていることが違う人や、物事が頻繁に変更されることを指して使うことができます。

朝令暮改の読み方は「ちょうれいぼかい」

朝令暮改は「ちょうれいぼかい」と読みます。

朝令暮改の語源・由来は中国の故事にあり

  • 朝令暮改の語源・由来

    朝令暮改の由来を知ると、意味もより深く理解できるでしょう

朝令暮改という言葉の語源は中国の故事にあります。

「朝令暮改」は『漢書・食貨志』に出てくる言葉です。紀元前180年、文帝は、有能な臣下たちを重んじる皇帝となり、前漢時代の繁栄を支える基礎を築きました。

文帝の臣下の一人、晁錯(ちょうそ)は、名文家で名高く、文帝にしばしば提言を行っていました。ある時、晁錯はこのような上奏文を文帝に送ります。

勤苦如此 尚復水旱之災 急政暴賦 賦斂不時 朝令而暮改

【大意】
(農民の暮らしは)このように苦しいのに、その上、水害や干ばつにも見舞われ、必要以上の租税を課せられ、臨時に取り立てられて、朝に出された法律が夜には改められています。

法律が頻繁に変わることで、民は振り回され、苦しめられている、と進言したのです。文帝はこうした重臣たちの献策を取り入れて、減税や改革を行い、国家を立て直していきました。

この話が収められている書物は、後漢に入って前漢時代の歴史をまとめた『漢書』です。食物や貨幣に関する歴史をまとめた『食貨志』の中に収録され、今日まで残ることになりました。

朝令暮改は良い意味? 悪い意味?

さて由来からするとなんとなく悪いイメージの朝令暮改という言葉ですが、良い意味でも使えるのでしょうか?

  • 朝令暮改は良い意味で使えるのか?

    「朝令暮改」という言葉に対する人々のイメージは、現代では異なってきているのかもしれません

本来は批判的な意味だった

「令」という言葉が意味する法律は、多くの人が従い、影響を受けるものであるだけに、明確な理由がない限りは変わらないものです。本来、変わってはならないのに、法律を出す側の都合で簡単に変わってしまう、変わってしまうことで、多くの人が被害を受ける、というニュアンスが、この言葉には込められています。

法律ではなくとも、会社で方針が二転三転してしまう状況や、計画が頻繁に変わり、多くの人が振り回されるような状況で、批判的に使われます。

最近では肯定的に使われることも

ところが、世の中が急速に変化していく時代となった今、“変わっていくこと”を肯定的に捉える傾向もあります。

例えば、JINSのCEO田中仁氏は、ブログの中でこのようにつづっています。

しかしこれだけ変化の激しいビジネスの世界です。時代や潮流に乗るだけでなく、それらを創造しようとするのなら、朝令暮改、いや朝令朝改ともいえるスピード感で動き続ける必要があります。(「朝令暮改の正体」2019年5月29日のブログより)

時代の移り変わりとともに、言葉の受け止められ方やニュアンスが変わる好例といえます。

ビジネスシーンで朝令暮改を使う時の注意点

前述のように、朝令暮改は肯定的な意味で使われるようにもなっているものの、本来は批判的なニュアンスの強い言葉です。そのため、ポジティブな意味として朝令暮改を使用したとしても、ネガティブに受け取られる可能性があります。

ビジネスにおいては「臨機応変」を使うなど、場面に応じた使い方をすることが重要です。

「朝令暮改」と「朝三暮四」の違い

朝令暮改とよく似た言葉に朝三暮四という言葉があります。しかし、この言葉は意味も由来もまったく異なるものです。

朝三暮四とは紀元前400年ごろの戦国時代の『列子』に出てくる以下の話に由来しています。

春秋時代、宋の国に狙公(そこう)というサルをたくさん飼っている人がいました。そのサルに、栃の実(とちのみ)を与えるのに、朝3つ、暮れに4つとしたところ、サルたちは少ないと言って怒りました。そこで狙公が朝に4つ、暮れに3つとしたら、サルたちは喜んだ、という逸話です。

上記の話が転じて「目の前の違いにばかりこだわって、同じ結果になることに気が付かないこと」という意味となり、朝三暮四という言葉として今なお使われています。

朝令暮改の使い方・例文

  • 朝令暮改の使い方

    変化のスピードが早い現代で生き残るために、あえて「朝令暮改」の考えを重視する企業もあるようです

朝令暮改は前述の通り、批判的、ネガティブな意味で使われるケースの多い言葉です。ここでは、本来の意味であるネガティブな使い方と、ポジティブな使い方の例文をご紹介します。

ネガティブな使い方の例文

・あの上司の指示は朝令暮改だから信用してはいけない

・朝令暮改な指示が多すぎてビジョンが見えない

ポジティブな使い方の例文

・PDCAを高速で回すには、むしろ朝令暮改の精神で取り組むべきだ

朝令暮改の類語・言い換え表現

  • 朝令暮改の類語

    朝令暮改の言い換え表現も併せて覚えておきましょう

次に、「朝令暮改」と同様の意味を持つ言葉を見ていきましょう。

朝改暮変(ちょうかいぼへん)

「朝に改め夕方にまた変える」という意味で、「朝令暮改」と同様の意味です。

例文:社長の対応ぶりは朝改暮変というほかない

朝種暮穫(ちょうしゅぼかく)

「朝種をまいて、夕方に刈り取る」という意味で、方針が定まらない、あわただしい、という意味になります。

例文:教育方針が朝取暮獲であってはならない

二転三転(にてんさんてん)

「朝令暮改」の不安定さの面に焦点を当てた同義語として、「二転三転」があります。

例文:審議は二転三転した

右顧左眄(うこさべん)

同じく「朝令暮改」のような不安定さの面での同義語に「右顧左眄」があります。ただし「朝令暮改」があわただしく何かをしては引っ込め、また別の何かをして、周囲を振り回す、というニュアンスがあるのに対し、「右顧左眄」は逆に、周囲の状況をうかがってばかりで、何も決定できないでいるという意味です。

例文:彼の態度は右顧左眄するばかりで、責任ある発言をしようとはしない

朝令暮改の反対語

「朝令暮改」と反対の意味を持つ言葉を見ていきましょう。

首尾一貫(しゅびいっかん)

考え方や態度などが始めから最後まで変わらないことを指しています。「終始一貫」という同様の言葉もあります。

例文:彼の反対の姿勢は首尾一貫していた

確乎不抜/確固不抜(かっこふばつ)

信念や意志がしっかりして何ものにも動かされない様子を指しています。

例文:議長の確乎不抜のスピーチは、多くの人々の胸を打った

朝令暮改を英語にすると?

「朝令暮改」の英訳は

Orders or laws being revised often with no guiding principles
(指針がないまま頻繁に改定される規則や法)

などが一般的に当てはまります。

また、英語の同様のことわざに、次のものがあります。

The law is not the same at morning and at night.
(法律は朝と夜では同じではない)

これは17世紀イギリスの詩人であるジョージ・ハーバートの警句からきています。

もっと一般的な言い方では、「方針や態度が定まらない」という意味で、「inconsistent policy(一貫性のないポリシー)」が使われます。

例文:Worsening the relationship between two countries has been the administration's inconsistent policy.
(両国の関係を悪化させたのは、政権の一貫性のない政策である。)

朝令暮改という言葉の意味や成り立ちを理解し、ビジネスシーンで使いこなそう

本記事では「朝令暮改」について、意味や由来、よく似た「朝三暮四」との違い、同義語や対義語、英語訳などについて説明しました。

「朝令暮改」は2,000年以上の時を経て、今日も使われている言葉です。農民の苦しみを表すための言葉として用いられた「朝令暮改」も、今日では否定的な文脈だけでなく、肯定的にも使われるようになっています。しかし肯定的な意味を表したいのなら、誤解を避けるために、現代段階ではまだ「臨機応変」などを使った方が無難かもしれません。