わたしたちの生活様式を大きく変えた新型コロナウイルス。もちろん、その変化の影響はさまざまな産業に及びます。なかでも、わたしたちにとって身近な存在である「飲食業界」への打撃は深刻。よく通っていたレストランやバー、居酒屋などが閉店してしまった……と嘆いている人もいるはずです。

  • ビジネス2.0~アフターコロナを生きる ~デリバリー市場の拡大は止められない。新たな局面に入る「飲食業界」/連続起業家・小林慎和

「アフターコロナ」の世界では、飲食業界はどのように変化していくのでしょうか。連続起業家である小林慎和さんが、飲食業界の今後を占います。

多くの飲食店がデリバリーを開始

新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年2〜3月頃から外出自粛がはじまり、飲食店の営業自粛や営業時間短縮などの動きが見られました。店舗によっては、要請に従い営業時間を短縮し、換気や消毒に気をつけながら営業していたものの、通行人から「クラスター(集団感染)を引き起こすつもりか!」「そこまでしてお金を稼ぎたいのか!」などといった心無い非難を受け、営業がままならず閉店の道を選ばざるを得なかったお店もあったようです。

そんな状況に置かれた飲食店の多くで、「デリバリー」をはじめることでどうにかサバイバルしようという動きが活発化しました。

ここで、アフターコロナの新世界において飲食業界がどうなっていくのかを考える前に、そもそも日本における食市場についておさらいします。

食市場は大きく3つに分類することができます。

その分類は、「外食」「中食」「内食」です。外食はご存じの通りレストランや居酒屋など外のお店で食べること。内食とはスーパーで食材を買ってきて、家で料理をして食べること。そのあいだにある中食とは、コンビニやスーパーで買うお弁当やお惣菜など、調理されたものを購入し持ち帰って食べる形式のことです。

食全体の市場規模は71兆円で、外食市場が25兆6561億円、中食市場が10兆555億円、内食市場が35兆3281億円という状況です(「惣菜白書」2019年版より)。今回、たくさんの飲食店が生き残りのためにどうにか活路を見出そうとしたデリバリー市場は外食市場のなかに集計され、2018年時点で約4000億円の規模となっています(「エヌピーディー・ジャパン」調べ)。

デリバリー専門店が駅近の飲食店を駆逐

デリバリー市場は、黒船のウーバーイーツ(Uber Eats)の参入などもあり、ここ数年は拡大傾向にありました。とはいえ、外食市場全体から考えた場合、わずかに1.6%(2018年参考)を占めるに過ぎません。

外食産業の営業自粛が仮に4カ月続いたとすれば、市場へのインパクトは約8兆円。営業時間が半分に短縮されたとするならば、約4兆円の市場がなくなる可能性があります。これは、現状のデリバリー市場の10倍の規模に相当する数字です。よって、通常営業が困難になった飲食店の多くがデリバリーに挑んでいくのは当然の流れでしょう。

ちなみに、飲食店営業許可を持っていればそのままデリバリーも可能であり、既存の飲食店舗がデリバリーを開始するかどうかは、お店側の営業努力次第。障壁は高くありません。

コロナ以降、フードデリバリーの恩恵に与った消費者は多かったはずです。とくに都市部に住む人たちにとってデリバリーは新たな習慣となります。これから、新型コロナウイルスの第2波、第3波が襲ってくることを想定した場合、対面での接客や料理の提供がむずかしくなることはいうまでもありません。よって、デリバリーの市場規模は数兆円規模になるとも予想できます。

これまではレストランや居酒屋というシンプルな形態を取っていた飲食店がデリバリーをはじめることに加え、デリバリー専門の業態が現れるのも当然のことです。デリバリー専門業者が増加してくるという視点から飲食業界をとらえると、どういう未来が見えてくるのでしょうか?

まず、日本には、全国に約61万9700の飲食店舗があります。そのうち東京都内には約8万3800店舗、大阪には約5万900店舗が存在します(「平成26年経済センサス-基礎調査」調べ)。

とくに東京の赤坂地区などは密集するかたちで飲食店が並び、店舗の密度は世界最大級だとされるほどです。赤坂は日本を代表するオフィス街ですが、まさにこれまでの飲食業における最重要課題は立地でした。駅から、あるいはオフィス街からどれだけ近いかが勝負の分かれ目。もちろん、駅から離れていても人気の店舗は存在しますが、それはかなりのレアケースです。

これからデリバリー市場が拡大し数兆円規模に育つようなら、外食市場の1割から2割がそれらに取って代わられることになります。そうなると、62万近くある店舗は過剰な状態です。いまよりも、5万店舗から10万店舗が閉店していく可能性があるでしょう。そして、もし新型コロナウイルスが完全に終息したとしても、しばらくのあいだは景気も冷え込みますし、デリバリーの便利さに気づいた人はたくさんいます。すると、都心にあるような24時間営業店舗も縮小の道をたどると考えられます。

デリバリー専門店との価格競争に、駅近のテナント料が高い飲食店は負けていくのです。

もちろん、デリバリーは単価が安いので数をさばく勝負になりますが、立地をそれほど選ばないという利点はやはり大きいでしょう。

「キッチンシェアリング」の需要が拡大する?

1991年のバブル絶頂期には、日本全国で約80万店舗もの飲食店が存在しました。そこからこれまで、約30年で約18万店舗がなくなったことになります。そのあいだに増えたのはコンビニで、現在、日本全国に約5万5000店舗存在します。

デリバリー専門店が増えていく場合、その立地は駅から徒歩20分などでも構いません。安い立地で、地理的にデリバリー効率の高い場所が選ばれることになります。全国に広がったコンビニやスーパーの敷地内に、デリバリーフード用のセントラルキッチンが増設される。または、スーパーなどに商材をおろすというような連携策も必ず出てきます。

食市場は、外食、中食、内食の3つから構成されると最初に述べましたが、近い将来、外食、中食、内食、そして配食(デリバリー)の4つの分類で市場が語られるのではないでしょうか。

ただし、ここで気をつけるべきは食中毒。とくに日本の夏場は高温多湿で蒸し暑いことで有名です。急ごしらえでデリバリーの展開をはじめた飲食店などには、デリバリーする 料理の選別やオペレーションが不十分な店舗もあるでしょう。そこは懸念される部分です。

また、現在は飲食店営業許可でデリバリーすることが可能ですが、デリバリー市場の拡大に伴いデリバリー専門の許認可制度が整備されることになるのではないでしょうか。わたしはそう見ています。

リアルに集客可能な店舗を構え、料理提供をする飲食店舗の新しい活路についても触れておきます。

アフターコロナの世界ではテレワークがどんどん進歩しますから、リアルで会うことの価値がこれまでとは激変します。リアルで会うことの価値が高まり、リアルで会うことそのものが希少化します。

そんななかで、「キッチンシェアリング」の需要が拡大することが予測されます。単に外食をともにするのではなく、河原にバーベキューに行く感覚で市街の飲食店のキッチンをレンタルし、そこでポットラック(料理の持ち寄り)をしつつ、みんなで食事を楽しむ新しい外食のかたちです。バーベキューピットのレンタル、ダイニングキッチンのレンタルなど、リアルな場の出会いをより盛り上げるニーズが高まっていくのではないでしょうか。

カフェのあり方も変わっていくでしょう。コーヒーチェーン店でリモートワークする人はここ数年多く見かけるようになりました。しかしそこにはほかの利用者もたくさんいて、快適にオンラインミーティングができる環境ではありませんでした。それ以前に、通話を禁止している店舗も存在します。

しかし、これからはそうはいかない。ワイファイ(Wi-Fi)を提供していないお店は論外でしょうし、オンラインミーティングがその場で行われることを前提にした店内の内装のつくり込みも必要となってきます。現在でも一部のコーヒーチェーン店には「ひとり席」を完備しているところがありますが、そうした内装がスタンダードになります。

料金体系を月額のサブスクリプションモデルにしても、需要は大きいでしょう。これからの企業はリモートワークの推奨やオフィス規模の縮小の観点から、従業員の自宅からオフィスのあいだに点在するカフェやコワーキングスペースの状態を把握し、そこを従業員が有効活用できるようなサポートをすることが求められます。

カフェ側もそうした企業の動きに合わせ、積極的に客を取り込む料金プランを考えることが求められますし、それがビジネスチャンスにつながるはずです。

※今コラムは、『人類2.0 アフターコロナの生き方』(プレジデント社)より抜粋し構成したものです。

構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム)