第2局で敗れた渡辺棋聖が自身の敗戦譜から改良手順を披露。果たして歴史が変わる一日となるか

17歳の藤井聡太七段が初タイトルを獲得するのか、それとも渡辺明棋聖がフルセットに持ち込むのか。大注目の第91期ヒューリック杯棋聖戦(主催:産経新聞社)五番勝負第4局が、本日7月16日に関西将棋会館で行われています。

渡辺棋聖が先手番の第4局。戦型は何になるのかが注目されていました。第3局で勝利した角換わりか、それとも藤井七段が中盤まで劣勢に立たされた王位戦第2局と同じく相掛かりか。筆者の予想はこのどちらかでした。第1・2局で渡辺棋聖が敗れた矢倉は指しにくいだろうな。そのように考えていました。

ところがふたを開けてみれば、渡辺棋聖の戦型選択は矢倉。予想が外れたなと思いつつ進行を見ていると、途中細かい手順の違いはあれど、なんと第2局と全く同じ形になりました。

第2局は藤井七段の完勝と言ってもいい将棋でした。渡辺棋聖の先手番米長流急戦に対し、新手△5四金からカウンターで優位に立ちます。さらに渡辺棋聖の反撃には、妙防△3一銀を披露。以下完封勝ちでした。

この敗戦後、渡辺棋聖は自身のブログを更新。
「△31銀は全く浮かんでいませんでしたが、受け一方の手なので、他の手が上手くいかないから選んだ手なんだろうというのが第一感でした。50分、58分、29分、23分という時間の使い方と△31銀という手の感触からは先手がいいだろう、と。(中略)感想戦では△31銀の場面は控室でも先手の代案無しということでしたし、控室でも同じように意表を突かれたと聞いて、そりゃそうだよなと納得したんですが、いつ不利になったのか分からないまま、気が付いたら敗勢、という将棋でした。」(渡辺明ブログより)

このお手上げとも取れるようなブログの内容があったからこそ、矢倉はないだろうと予想したのです。ところがどっこい、まさかその第2局と同一局面に誘導するとは! 渡辺棋聖の深い、深い研究がうかがえます。

一方の藤井七段としては完璧な内容で制した将棋の再現。手を変える必要もなく、淡々と前例を踏襲していきます。

そうして迎えた31手目、ついに渡辺棋聖が変化。第2局では▲4五歩と仕掛けた局面で、じっと▲9六歩と端歩を突いて前例から離れました。この手はのちの後手からの攻めに備えた手です。第2局では後手に攻め込まれてからやむなく▲9六歩と突いていたので、あらかじめ備えておこうという意味でしょう。

この手に対し、藤井七段も△1四歩と突いて自玉の懐を広げます。そして、渡辺棋聖は第2局と同様、▲4五歩と突いて開戦。ただし、今回は3筋の突き捨ても加え、攻めの幅を広げる工夫も加えています。

渡辺棋聖が飛車先の歩を交換し、飛車を▲2九飛と深く引き揚げた局面で、藤井七段は手を止めています。第2局ではここで△5四金が指されました。第2局と第4局との違いを改めてまとめておきましょう。

・▲9六歩と△1四歩の交換が入っている
第2局では△8七歩と打たれた局面で、先手は▲9六歩と受けざるを得なかった。第2局と同様に進んだ場合、先手にとっては間違いなくプラスの手。
一方、後手は第2局の展開では端に玉が行くことなく勝利しているため、同様の展開だとプラスとは言えない。

・3筋の突き捨てが入っている
第2局でも先手は▲3五歩と突いた。しかし、もはや▲3五歩~▲3四歩が間に合う局面ではなく、後手に無視されて攻め込まれてしまった。
第4局では早いタイミングで突いたので、後手は△3五同歩と応じるしかなかった。突き捨てが入ったことで、▲3三歩の叩きなどが生じている。3筋を絡めた攻めが予想されるため、後手は3筋の守備力が減少する△5四金とは指しにくい。

渡辺棋聖の改良手順によって、第2局と同様に進めると後手に不利な条件が多いということが分かります。岐路を迎えた藤井七段は26分考え、第2局とは逆サイドに金を上がる、△3四金を着手。3筋の突き捨てを逆用した一手です。

この手の直接的な狙いは、△5四金と同じく4五桂を取ろうというもの。当然先手はみすみす桂を取らせるわけがないので、早速突き捨てを生かして▲3三歩と打ち込んでいきました。桂交換が行われ、ひとまず局面がすっきりとしました。ここから攻めの第2波をどのように先手が繰り出すのかが注目です。

渡辺棋聖の工夫によって、第2局とは異なる展開となった第4局。藤井七段が17歳最後のタイトル戦対局を制して、史上最年少でタイトルを獲得するのか。それとも用意周到な作戦選択が功を奏し、渡辺棋聖が2勝2敗のタイに持ち込むのか。これからの指し手から目が離せません。

本局対局開始時の様子(提供:日本将棋連盟)
本局対局開始時の様子(提供:日本将棋連盟)