ますます長くなるアスリートの選手生命

金子 「スポーツ選手の選手寿命は、かつてと比べると近年はずいぶん長くなってきています。これにはスポーツ医学の進歩が寄与していると考えています。たとえば、石井さんが経験された第5中足骨の疲労骨折にはビタミンD欠乏が関係していることがわかってきましたから、そういう栄養学的な知見を取り入れることで、今後はより効果的に予防できるようになると思われます。また、最近の遺伝子研究の成果を取り入れると、そもそも個人に適したスポーツの種目が、ある程度までわかるようになってきています。これについては西尾先生からご説明いただけますか」。

  • 西尾 啓史先生 順天堂大学医学部整形外科学講座 スポーツ健康科学部スポーツ科学科 2011年順天堂大学医学部卒業。専門分野は膝関節外科、スポーツ医学

西尾 「本学のスポーツ健康科学部のグループが発表していますが、たとえば筋肉には、持続・持久力に関係する遅筋と、瞬発力に関係する速筋の2つがあるのですが、その割合は個人ごとで異なり、それは遺伝子により規定されていることがわかっています。したがって、あらかじめ遺伝子検査を行って、遅筋と速筋の割合を調べれば、その人に適したスポーツの種類や練習内容が決められる可能性が示唆されています。また、石井さんも経験された肉離れは、実は男性に比べて女性のアスリートでは圧倒的に少ないのですが、女性ホルモンのエストロゲンが関与していることも明らかにされつつあります。エストロゲンの受容体の遺伝子の違いが筋肉の硬さ(スティフネス)に影響することが示されており、これは遺伝子検査により事前に知ることが可能なわけです。こうした知見を取り入れることで、今後は、個々の選手に合わせたオーダーメイドの練習やリハビリの方法が考えられるようになっていくのではないかと考えています」。

障害予防のためにはトレーニング方法にも工夫を

金子 「石井さんは、怪我を予防するために、練習ではどんなことに気を付けておられますか」。

石井 「私は左足を何回も捻挫していて、左足首の靭帯を痛めているので、常にテーピングをしています。ですから、左足のコンディションを良好に保つために、バランス系のエクササイズをしたり、また、バレーボールは空中姿勢が大切なので、事前に腹式呼吸でバランスを整えたりしています。練習前にはトレーナーさんに指導してもらって体幹トレーニングを行い、練習後もストレッチ体操を欠かさないようにしています」。

金子 「林先生はスポーツ障害防止のためにスポーツ用具やサポーターの開発にも力を入れておられますが、それはどのようなものなのですか」。

「1992年のバルセロナオリンピックの世界予選があったときに、日本男子チームのセッターが足首を捻挫し、靭帯損傷を起こしてしまったのです。このときに、一般の医療用足首サポーターを改良して、その大型の選手の足首にフィットするサポーターを作りました。それが、私がサポーターの開発に取り組むようになったきっかけです。これを、捻挫を起こしてからではなく予防用にと推奨したところ、その後、プロ、アマを問わず、多くのバレーボール選手が使用してくれるようになっていきました。現在では足首だけではなく、膝や手首にも予防用サポーターをする選手が多くなっています」。

金子 「バレーボールの攻撃の戦術は結局、いかに相手を前後左右に揺さぶり、ボールを受け止められないようにするかということだと思いますので、戦術が多彩になるほど防御側はジャンプした後の着地が難しくなりますね」。

「ジャンプしたら片足ではなく両足で着地するのが理想で、そうしたら捻挫なども少なくなるのですが、それを心がけようとしても、実際に実践するのはなかなか難しいようです」。

金子 「最後に石井さんに、オリンピックに向けての抱負をお聞きしたいと思います。

石井 日本のバレーボール界のためにもという気持ちもありますが、まずはこれまでバレーボールに打ち込んできた自分自身のために、東京2020オリンピックでメダルを獲れるように頑張りたいと思います」。

金子 「『火の鳥NIPPON』と石井選手の大いなるご活躍を期待しております」。

※本記事は「久光製薬スポーツ座談会 トップアスリートが向き合うスポーツ障害から学ぶーバレーボール選手に多い怪我と予防法ー」より転載しました。