早起きが大の苦手で、「なんでこんなに自分はだらしないのだろう……」と悩んでいる人もいるでしょう。でもそれは、だらしないことが理由ではないかもしれません。なぜなら、「クロノタイプ」というもののちがいによって、遺伝的に「早起きが苦手」な人が存在するからです。
17の企業の産業医として活躍し、睡眠を専門のひとつとする穂積桜先生に、クロノタイプについて詳しく教えてもらいました。
パフォーマンスを発揮できる時間帯には個人差がある
「クロノタイプ」とは、いわゆる「朝型」「夜型」のことです。みなさんも、「自分は朝のほうが仕事に集中できる」「午前中はどうも仕事がはかどらない」というふうに、自分の睡眠習慣とパフォーマンスの関連性をなんとなく自覚しているはずです。
それは、思い込みでもなんでもありません。睡眠習慣とパフォーマンスのあいだには、さまざまな研究結果に基づいた明確な関連性があるからです。
生き物には、体内で刻む独自のリズムが存在します。みなさんもよくご存じの「体内時計」のことです。それに従って、わたしたちの体は体温を上げたり下げたり、ホルモンの分泌をはじめたり終えたりと、さまざまな生命活動を行っているのです。
じつは、こうしたサイクルがはじまる時間や終わる時間は、各個人で大きく異なります。すると、身体能力や仕事の処理能力といったパフォーマンスがもっとも上がる「ゴールデンタイム」も個人によってちがってくることになる。自分のクロノタイプを知ることは、自分のゴールデンタイムを知ることでもあり、仕事でしっかりパフォーマンスを発揮するための要因となります。
加えて、もうひとつ重要なことがあります。それは、クロノタイプは基本的に「遺伝」によって50%がすでに決まっているということ。生まれつき夜型の人の場合、どんなに朝型になりたいと思ってもそれはなかなか難しいことなのです。
その事実を知って、「ぜひ、自分のクロノタイプを知りたい!」と思った人も多いでしょう。国立精神・神経医療研究センターのホームページでは、ウェブ上でクロノタイプを判定できます。下記のページにある「朝型夜型質問紙」「ミュンヘンクロノタイプ質問紙」で判定してみてください。
国立精神・神経医療研究センター「睡眠に関するセルフチェック」
朝型は勤勉で粘り強く、夜型はアクティブで衝動的
判定結果はどうでしたか? クロノタイプは、基本的に「強い朝型」「朝型」「中間型」「夜型」「強い夜型」の5つに分類されます。2010年に日本人1170人のクロノタイプを調査した研究報告によれば、41%でもっとも多かったのが中間型でした。そして、強い夜型と夜型を合わせた数字が31.1%と続き、強い朝型と朝型を合わせた数字が27.9%となっています。
中間型とは、文字通り朝型と夜型の中間に位置するタイプです。中間型の人は、基本的には自分のコントロール次第で朝型にも夜型にもなり得ます。「クロノタイプは遺伝で決まっている」とお伝えしましたが、じつは遺伝以外にもクロノタイプを決める外的要因がいくつかあり、その代表的なものが「光」です。
午前中に浴びる光が強く、その量が多いほど朝型化します。でも、いまは夜でも強い光があふれている時代です。スマホやパソコン、コンビニの電灯など、夜でも強い光を浴びるような生活をしていれば夜型化が進むのです。
そのため、中間型の人の場合、本当は朝型でいたいとしても、仕事で夜遅くなるような生活を続けていると夜型になってしまうわけです。中間型の人は、朝型・夜型どちらのタイプにもなり得るからこそ、自分のライフスタイルに合わせてしっかり自己管理することが求められます。仕事上、朝型でいなければならないのに、「ちょっと小腹が空いたな」と、真夜中にコンビニへ行くようなことはNGですよ。
また、面白いことに、クロノタイプは性格傾向とも関連していることがわかっています。朝型に見られる傾向としては、「内向的」「勤勉でほがらか」「粘り強い」「学校の成績がよい」「女性に多い」といったもの。
一方の夜型には、「外交的でリスクをいとわず新たな刺激を好む」「柔軟で変化に強い」「落ち込みやすく、だるさや眠気を感じやすい」「太りやすい」「男性に多い」といった性格傾向があります。
もちろん個人差はありますが、端的にいえば、朝型は勤勉で粘り強く、夜型はアクティブで衝動的といったところでしょうか。国立精神・神経医療研究センターのホームページでクロノタイプを判定してみた人のなかには、「そのとおり!」と思った人も多いのでは?
クロノタイプに合わせた働き方を考える
このように、なんとなく対照的であるように見える朝型と夜型ですが、じつは朝型よりも夜型はちょっと損をしています。世の中の学校や会社の大半は、朝からはじまりますよね。朝型の人は出勤してすぐにしっかり力を発揮できますが、夜型の人はそうはいきません。たとえ本来の能力が同等であっても、朝型の人のほうが周囲から評価されやすいわけです。
でも、いまは少し時流が変わってきている時期かもしれません。職種にもよりますが、新型コロナウイルスの影響により、在宅ワークが広まっています。会社に決められた時間にあたりまえのように出勤していたこれまでと比べれば、仕事をする時間をある程度自由に決められるようになったのではないでしょうか。
そのなかで、自分のパフォーマンスを発揮できる時間帯をなんとなく自覚し、働き方について考えたという人もいるはずです。このことは、自分のキャリアをよりよいものにするためにとても大切ですし、素晴らしいことだと思います。でも、せっかくなら、「なんとなく」ではなく、自分のクロノタイプを知っていたほうがいいですよね。
パフォーマンスをしっかり発揮できる働き方を続けられるか否かで、評価され続けるか否かをわけることになります。働き方を考えるとき、クロノタイプという要素を取り入れることで、人生はまったくの別物になるかもしれません。
また、とくに若い読者のみなさんには、年齢に応じてライフスタイルを変えていくことも考えてほしいですね。遺伝以外にもクロノタイプを決める外的要因があるとお伝えしましたが、年齢もそのひとつなのです。持って生まれたクロノタイプはちがっても、誰もが20歳前後にもっとも夜型化し、そのあとは年を重ねるごとに朝型化することがわかっています。
夜型の人は20歳前後にはより強い夜型になり、朝型の人であってもその頃には人生のうちでもっとも夜型になるわけです。
大学を卒業して間もない頃は、ピークこそ過ぎているものの、人生のうちでは夜型化している時期に該当します。すると、夜は何時まででも起きていられる反面、毎朝早くから働くことがつらいと感じる時期です。
しかも、この時期は、働きはじめて間もないために仕事に関して多くの悩みを抱えがちな頃。そういうことと相まって、早起きがつらいと感じることで、「自分は社会人失格かもしれない……」とまで思い詰める人もいるようなのです。
でも、年齢を重ねるにつれ自然と朝型化していきますから、変に悩むことなく安心してください。その変化のなかで、たとえば朝に勉強や運動をはじめてみるといったことも考えてみるのもいいですよね。そうすることで、人生のステージそれぞれで充実した働き方や生活を実現できるのではないでしょうか。
構成/岩川悟(合同会社スリップストリーム) 取材・文/清家茂樹 写真/櫻井健司