「幸せになりたい」とは誰もが願うことです。人によっては、夢や目標をかなえることかもしれないし、大切なパートナーと静かに過ごすことなのかもしれません。いま「幸せ」について、科学的にもさまざまな分析が行われています。いったいどんな要素が、あなたの幸せを左右するのでしょうか? 

幸福感が高い状態で、夢や目標に近づいていくために大切な考え方と方法を、作家・ビジネスコンサルタントとして活躍する星渉さんに聞きました。

なにがあなたの「幸福感」を決めるのか

わたしは、幸せとは「自分で決めることができる」状態だと考えています。たとえば、「この仕事をする、しない」「会議に出る、出ない」「これを買う、買わない」。そんな、日常生活のあらゆる要素について、自分で決められることが幸せな状態だととらえています。

では、一般的に、幸せになるためにはどんな考え方と行動が必要なのでしょうか? じつは「幸福感」に影響を与える3つの要素が、科学的にあきらかになっています。

1「自尊心」の大小
2 個人的な成長」の実感
3「ネガティブ感情」の多寡

まず、1は抽象的に感じるかもしれませんが、この「自尊心」を持つために必要な姿勢が、 「心は強化できる!? メンタルを強くする⼼理学」で紹介した「自己理解」です。つまり、「どれだけ自分のことを知っているか」ということ。自分のことをよく理解していれば、「いろいろな人や考え方があるけれど、自分は自分でいい」と自然に思えるようになります。それが「自尊心」を育んでいくのです。

2は、自分が決めた目標に「近づいている」と感じることです。じつは、人間のやる気がもっとも高まり幸福感が上がるのは、目標を達成したときではなく、「目標を決めてそこへ向かって進んでいる過程」です。たとえば、ある実験では、旅行当日や旅行後より、旅行に行く前のほうが幸福度は高まることがあきらかになりました。幸せになるためには、自分の目標を定めて、そこに近づいている実感を持つことがとても大切なのです。

3は、ものごとをどれだけ楽天的に考えられるか。要は、ピンチにおちいっても、「どうにかなるさ」と思えるようになることです。ただ、そうなるためには、結局のところ、自分がいま置かれている状況も含めて「自分のこと」をよく知る必要があります。つまり、自分のことをよく知っているからこそ、自分が目標に近づいている実感を持つことができるし、その実感の積み重ねることによって「どうにかなる」と思えるようになるのです。

「幸福感」を楽に高める3つの方法

幸福感を高めるためには、即効性があり、かつ毎日実践しやすいシンプルな方法もいくつかあるので紹介しましょう。

1 新しいことに取り組む
2 友だちの数ではなく種類(タイプ)を増やす
3 1日5膳

1は、日常のなかでなるべく「新しいこと」に取り組むようにしてみてください。たとえば、ランチは新しいお店に行くようにしたり、家であれば毎日ちがう銘柄のビールを買ったりする。どんな小さなことでも構いません。脳は新しい刺激に対してよろこびを感じるので、続けるほどに幸福感が高まっていきます。

2については、友だちの種類(タイプ)が多い人のほうが、数だけが多い人よりも幸福感が高いとする実験があります。そこで、同じ会社の同期だけでなく、年齢や性別や職業など、さまざまな友だちを増やすように意識してみてください。新しい情報や多様な価値観に触れることが、脳をポジティブなかたちで刺激してくれます。

3は、よく「1日1膳」と言われますが、じつは週1回、「1日5膳」のほうが幸福感は高まります。なぜなら、せっかく人に道を教えたり、エレベーターのボタン押してあげたりと、よいことをしていても、「1日1膳」ではすっかり忘れてしまうからです。でも、「1日5膳」だと、ポジティブな気持ちが記憶にしっかりと残ります。そこで、「水曜は1日5膳の日」というふうに自分で曜日を決めるのもいいと思います。「今日はいいことをする日だ」と思って1日をはじめると、もうそのように決まっているわけなので、たとえ嫌なことがあってもイライラをコントロールしやすくなります。結果、幸福感が続きやすくなるのです。

目標は「距離感」「規模感」を正しく設定する

先に、自分が決めた目標に「近づいている」と感じることが、幸福感に大きく影響すると書きました。ただ、多くの人の相談に乗っていると、ときどき目標の「設定」自体がずれているのかな? と感じる人がいます。「がんばっているのに目標を実現できない人」のなかには、目標設定自体を間違っている人が意外とたくさんいるようです。

まず、目標には「距離感」と「規模感」というふたつの要素があります。このふたつは、人によってまったくちがうことを知っておきましょう。ひとつめの「距離感」というのは、目標を達成するために見据えるべき時間のこと。よく「1年後の目標を考えよう」とか「10年後を見据えて行動しよう」などと、さまざまいわれますが、大切なのは「自分がもっともやる気が出る距離感」で考えることです。

ふたつめの「規模感」はより重要。ポイントは、目標の達成可能確率を「フィフティ・フィフティ」に設定することです。つまり、「できるかもしれないし、できないかもしれない」という規模感がちょうどいい。なぜなら、人は目標がむずかし過ぎるとやる気をなくし、逆に簡単過ぎると行動に駆られない性質があるからです。

ソフトバンクグループの代表取締役会長兼社長である孫正義さんは、まだアルバイトがふたりしかいないときから、「豆腐屋の心意気で、1兆、2兆と売上を数えるようなビジネスをする!」といっていたそうです。世の中には、そんな野心的な規模感の目標でやる気が出る人もいるわけです。ちなみにわたしの場合は、1〜3年くらいの距離感で、「フィフティ・フィフティ」の規模感をクリアしていくのが楽しいタイプだと自覚しています。

いずれにせよ、この目標設定のふたつの要素を認識していなければ、間違った夢を追いかけてしまう可能性があるのです。

夢や目標は「忘れない」ことがすべて

最後に、自分の夢や目標を実現して幸せに生きるために、すべての土台となる姿勢についてお伝えします。それは自分の夢や目標を「忘れない」ようにする大切さです。

夢や目標は、覚えているからこそ、それに向かって行動することができます。夢や目標を持っている人は多いのですが、24時間365日意識して行動している人は、残念ながらかなり少数です。

でも、自分がどこに向かっているかをつねに「忘れない」ようにしていれば、毎日の行動と選択が変わります。夢や目標をかなえている人たちは、それを「忘れないように」細かい工夫をたくさんしているのです。 

わたしの場合は、自社が目標とする事業規模や書くべき本の冊数などの目標を、書斎の壁に貼ってつねに目に入るようにしています。もちろん、頭のなかにしっかり刻み込んではいますが、やはり油断はできません。人は油断すると、すぐにサボってしまいますからね……(笑)。

飛行機でも、目的地がつねに明確だからこそ、そこにたどり着けます。夢や目標だって同じこと。聞かれたら答えられるというレベルではなく、誰に聞かれなくてもつねに思っているかどうか――そのくらい本気で思っていれば、僕は誰でも必ず目的地にたどり着けると信じています。

構成/岩川悟(slipstream) 取材・文/辻本圭介 写真/塚原孝顕