林とは、正月に放送された木村拓哉主演のスペシャルドラマ『教場』が初めての仕事だったが、「やたら面白いんです。何をやってもいろんな引き出しがあるようで、器用なようで不器用でもあるという両方の要素があり、底知れない不思議な魅力がある。『なんだこの男!?』って驚きましたね」
今作で脚本を担当する水橋文美江氏が、朝ドラ『スカーレット』(NHK)で林の魅力を感じていたこともあって、「“林遣都で1人3役やったら面白い”ということで最初から私と水橋さんで意見が一致していたので、彼が受けてくれなかったらここまで進められなかったかもしれません」という、まさに“林遣都ありき”の企画。最初に編成に企画を話したときには、すでに林の名前を挙げていたという。
そんな林に対して、どんな演出を付けたかを聞くと、「実はあまり言ってないんです。今回はほとんどお任せです」と回答。
「打ち合わせはリモートでやったんですけれど、『どうやってるの?』と聞いたら『落語みたいにセリフ合わせしているんですけれど、いいですかね?』とか、『この部分はこうしようと思っているんですけれど、どうですか?』と聞いてくるのに対して、ほぼ『いいよ、いいよ』と言ってました。劇中で、ラーメン屋さんのポーズが出てくるんですが、それも任せました(笑)。もう“林遣都劇場”を、僕が楽しもうと思ったんです」
■自主制作映画のような現場「すごく楽しかった」
「ソーシャルディスタンスドラマ」を掲げる今作は、出演者だけでなく、スタッフも最小限の人数で撮影した。
通常は、4~5台のカメラに1人ずつカメラマンとアシスタントが付くが、据え置きにし、アシスタントもなし。他にも、照明や音声のスタッフなど、すべての部署で人数を減らした結果、通常に比べ、半分以下の少ない規模で撮影が行われたというが、それが「すごく楽しかったんです」と振り返る。
「距離を十分とっているんですけど、人数が少ないので、一言話したら全員に聞こえるし、会話もしやすいので、すごく機動力が良くて、コミュニケーションがとりやすいんです。役者も林さんだけなので、他の役者さんと芝居が合わなかったら…という心配もないですしね」
こうした小規模の撮影は、中江氏が助監督時代、深夜ドラマの現場などで経験したそう。「今回も本当に自主制作映画みたいな現場で、楽しかったんですよ。だから、懐かしさもありました」と目を細めた。分業化が進むドラマや映画の制作現場は、昔に比べてスタッフの人数が増えているそうで、今回の撮影で原点を思い出し、コンパクトな撮影のメリットを実感したようだ。