ズキズキと歯が痛んだり、冷たいものを飲むと歯がしみたりする……。このような症状を呈する虫歯は、子どもはもちろん、大人も嫌がる歯の疾患の一つだ。歯にできる黒い穴は虫歯の「サイン」として広く知られているが、「穴」まではいかなくても黒い「点」のようなものが確認できたときも、既に虫歯(初期虫歯)に苛まれている可能性が高い。

本稿では、口腔外科専門医の梯裕恵医師の解説のもと、通常の虫歯よりも見つけにくい初期虫歯の検査法や治療法などを紹介していく。

  • 初期虫歯ができやすい場所とは

虫歯ができるメカニズム

虫歯は口の中に生息している細菌が、食べ物や飲み物に含まれる糖質をもとに作る「酸」によって歯が溶かされることで生じる。酸を作る「細菌」「酸に溶けやすい歯質」、そして細菌のエサとなる「糖質」という3つの条件が重なり、時間が経過することで虫歯になると梯医師は指摘する。

「口の中に糖質(主に砂糖)があると、虫歯の主な原因菌であるミュータンス菌は、これをエサにして粘着性多糖である『グルカン』という物質をつくり、食べかすや他の口腔細菌を巻きこんで歯垢(プラーク)を形成し、歯の表面に付着します。プラークの中でミュータンス菌は砂糖を分解して『酸』をつくります。この酸によって歯の表面のカルシウムが溶け出し(脱灰)、虫歯が進行するのです」

一般的な虫歯の症状

虫歯の症状は、その進行の程度やできる場所によって異なる。目で見てわかる虫歯は、歯の外側の最も硬い部分であるエナメル質が溶け、その内側の象牙質まで進んだ虫歯が多いと考えられる。

「このようなケースでは、冷たい食べ物や飲み物がしみることがあります。もっと進行が進んで歯の神経である歯髄(しずい)までいくと、激しい痛みを感じることが多いです。この状態で放置すると神経が死んでしまい、痛みを感じない場合もあります。さらに進行して歯ぐきの上の歯がほとんど崩壊し、歯の根っこだけ残った状態になると、やはり神経が死んでしまい痛みがなくなるケースがあります」

「痛みがなくなったからもう大丈夫だろう」などと思って放置していると、歯の根の先に膿がたまってしまう。こうなると痛みの出現はもちろんのこと、顔が腫れることもあり、嚢胞(のうほう)という膿の袋が大きくなれば全身麻酔での摘出手術になるケースもあるとのこと。

初期虫歯の特徴

上述の一般的な虫歯とは異なり、歯と歯の間や奥歯のかみ合わせの溝などのエナメル質にできる虫歯が初期虫歯と呼ばれている。エナメル質のミネラル成分が脱灰してできる初期虫歯は、歯に穴は開かないものの、カルシウム分が少なくつやがなくなるため、白く濁って見えたり、薄い茶色や黒色に見えたりするという。場所が場所だけに、視認しづらいという特徴を持つのも厄介だ。

「歯周病や加齢によって歯ぐきが下がると、エナメル質で覆われていないセメント質や象牙質が露出してきます。これらはエナメル質よりもやわらかく酸に溶けやすいため、虫歯になりやすいです。歯の根元の部分にプラークや歯石が付いたままでいると、虫歯のリスクはさらに高くなります」

これらの初期虫歯や歯の根元にできた虫歯の場合、ほとんど痛みを感じないケースがあるので注意が必要となる。

視認しづらい虫歯の検査法や治療法

丁寧に歯を磨いたり、歯の色調を日頃からチェックしたり、フロスを使って引っかかりがないか確認したりしても、個人で確認・判断するには限界がある。そこで、こういった初期虫歯のリスクを回避するため、梯医師は定期的な検診を推奨する。

「一般的な検診では虫歯や歯周病の検査、歯石の除去などが行われます。歯科医が歯の状態を見たり、エックス線検査を行って虫歯があるかをチェックしたりします」

酸に伴い歯からカルシウムイオンなどが溶け出す「脱灰」が虫歯の原因となるのは上述の通りだが、一方でこれらの溶けだしたカルシウムイオンなどを再度、歯に定着させている現象がある。それが「再石灰化」だ。この再石灰化には唾液が重大な役割を果たしており、唾液は毎日の歯の修復にとって重要な存在となっている。

ごく初期の虫歯は、脱灰により失われたカルシウムやミネラル成分が唾液によって補充され、修復されている。だが、プラークや歯石が付いているとこの再石灰化がうまく行われないため、日々の口腔ケアが大切になってくるというわけだ。

「また、初期虫歯であれば、フッ素をうまく使うことによりある程度健康な歯に戻すことができます。フッ素には歯の質を強くし、酸によって溶けたカルシウム分を再び歯に戻す再石灰化を促進し、細菌の働きを弱める働きがあります。フッ素配合歯みがき剤や洗口剤、また歯科医院で塗布してもらうフッ素など、状態に合わせて各種あります」

段階ごとの虫歯の治療法

きわめて初期の虫歯ならば、フッ素配合製品の活用や再石灰化の働きなどで健康な歯に戻せる可能性もある。だが、一定以上のレベルにまで虫歯の症状が進行してしまえば、きちんとした治療が必要となってくる。各種進行具合とその治療法を以下にまとめた。

■歯の表面の虫歯(エナメル質が溶けて穴が開いた虫歯)

「虫歯の部分を削り、修復材を詰める簡単な治療で、麻酔を使わないですむ場合もあります。光で固まるレジンを詰めることが多く、型取りをする必要はないので1回で終わります。歯に近い色なので目立ちませんが、年月とともに多少変色が見られます」

■神経に近い虫歯(象牙質まで溶けて穴が開いた虫歯)

「症状によっては局所麻酔を使用して虫歯の部分を削ります。削った部分が大きい場合は、型取りをしてインレーという部分的な詰め物を入れます。削る範囲が大きかったり、1つの歯に何カ所か虫歯ができていたりする場合には、クラウンという歯全体に被せる治療になることがあります。保険診療か自費診療かで素材はさまざまです」

■神経まで進んだ虫歯(歯髄が露出した虫歯)

「神経を取り除く治療(根管治療)が必要になる場合があります。針の形をした専用の器具で治療を行い、虫歯の進行状態によりますが、治療期間が長くかかることもあります。神経を取って炎症が治まった後は、薬を入れて歯の土台を入れ、クラウンなどの被せものを入れます」

■歯ぐきの上の歯が崩壊し、根っこだけ残った虫歯)

「根っこの治療をした後に被せものを入れるか、やむをえない場合は抜歯を行います。その後は、ブリッジや部分入れ歯、またはインプラントの治療を行います」


虫歯は症状が進行するに伴い治療に時間を要するようになり、最悪のケースは抜歯にまで至る可能性もある。

厚生労働省と日本歯科医師会はかねてより、80歳になっても20本以上自分の歯を保つことを目指す「8020運動」を提唱している。「おいしいものを自らの歯で食べる」という行為が、加齢によって当たり前ではなくなる日がいつか来る。その日を一日でも先延ばしにできるよう、「転ばぬ先の杖」ということで、歯の定期検診を心がけるようにしよう。

梯裕恵(かけはしひろえ)

歯学博士、口腔外科専門医。専門は骨吸収抑制薬関連顎骨壊死、顎関節症。福岡県出身、九州大学卒。大学病院での口腔外科診療のほか、学生や研修医の指導も行う。趣味はワイン、海外旅行、エアロビクス、スペイン語。女性ならではの視点での診療を心がけています。En女医会所属。

En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら