――一時期、「オンラインのやりとりがあれば、リアルイベントはなくてもいいのでは?」という議論が同人界隈でもありましたが、ここ数年、逆にむしろ「モノからコトへ」のような流れで、リアルイベントの重要性がすごく高まってきました。その中でコミケへの注目度も変わってきましたし、ブシロードさんはまさに、そうした変化に着目することで会社を大きくされてきた。
木谷:うちは本当にそうで、音楽ライブがあって、プロレスがあって、舞台もやっている。カードゲームもそうですよ。大小ありますが、会社のポートフォリオの中の6割から7割に何かしらの影響がある状況です。さきほどもお話したとおり、夏には高温多湿と紫外線が強くなることで少し感染の勢いが落ち着くとは思いますが、だからといって、そこでどこまでのイベントができるのか……。
筆谷:最初に自粛を解く大きなイベントは、注目を浴びますよね。
木谷:僕はおそらく、Jリーグの無観客試合だと読んでいます。ポツポツとであればお客を入れても大丈夫でしょうし、スタジアムは会場の上も開いていて、換気もいいですから。次は野球でしょう。ライブもお客さんの距離があればできると思うんですよね。コミケも会場がスカスカだったら……は、無理でしょうし(苦笑)。
■開催可能でも、それが「コミケの理念」か
筆谷:うーん(苦笑)。さすがに「コミケの会場は意外と混んでいない」と言い切るのは……。どうしても人が集中しているエリアは生まれますからね。ビッグサイトのシャッターを全開すれば、換気は想像されているよりもできていますが……。
木谷:入場制限や、時間帯を分けることは、理論的には可能ですよね?
筆谷:作れます。ただ難しいのは、コミケは誰でも、いつでも、来たいときに参加できるというのも、理念的な柱としてあるわけです。最初から人数を制限するとか、来場を予約制にするとかいうのは、ちょっとまた違っちゃうな……と。会場をブラブラしていて、売っているものとの偶然の出会いがあるのがコミケの良いところでもあるので、こちらでルールや制限を作ってしまうのはあまり良くない。ただ、この状況がいつまで続くのかわからないのが、厄介なところなんですよね。
木谷:理論的に可能であっても、コンセプトにそぐうかどうか……うーん……難しいですね。
筆谷:僕たちの世代はイベントの楽しさを知っているから、まだいいんです。問題は、そうこうしているうちに、せっかく若い人たちのあいだで育った、リアルで集まるイベントやライブを楽しむ習慣の芽が潰れてしまうこと。ここでまた流れが変わってしまうのが、ちょっと怖いです。
木谷:ただその点は、今回の事態でネットの回線帯域に意外と余裕がなかったことが明らかになり、また、配信も数が増えすぎると意外と飽きが来ることが見えて来つつもあるので、僕はそこまで悲観的ではありません。
なおのことアナログの価値、ライブの価値、イベントの価値は僕は上がっていると感じています。このあいだ、中国が少し外出制限を解除したら、ものすごい数の人が観光地に行っていたわけですし。反動がすごいのではないでしょうか。
筆谷:なるほど。しかし全ては会場次第なんですよね。その点だと、われわれにとってはオリンピックが延期になったという問題もあります。ビッグサイト側も先が読めず、予定が立てられない状態で、当然、コミケも読める状態ではないわけです。この状況が、また、なんともいえない。
木谷:準備期間のあまりかからないものだったら、「来月の予定が空いてますよ」で開催できるんですけどね。コミケは準備期間がかかるじゃないですか。
筆谷:最低4か月は必要です。これも、かなりギリギリで見積もった数字で、実際はかなり厳しい。
木谷:そうなると、4か月でまたどう状況が動くかわからない。4か月は「やっぱりやめてください」みたいなこともあり得るわけですからね。