――「自分たちの会社がどうなるかという心配は、議論の中心ではなかった」とおっしゃっていましたが、とはいえ、中止によってどのくらいの規模の損害が発生されたのかも気になるところです。
筆谷:コミックマーケット準備会は3,000人のスタッフがいる組織で、開催にあたっては集会が何回も開催されます。くわえて、20以上のセクションがあって、その各セクションごとの集会もあるんです。それらはすべて自前の会議室があるわけではないので、集会所を借りるんですね。そのレンタル代が、かなりの金額ですね。参加者の交通費は手弁当なのですが……。
木谷:組織の規模が大きくなると、なかなか目に見えないところにかかるコストがいろいろあるんですよね。
筆谷:はい。それ以外だと、コミケカタログの作業も進んでいました。まだ売り始めたところ(注:取材日は4月17日)なのでなんともいえませんが……困ったのが、取り扱ってくださっている書店さんが、どんどん休店になっているんですよね。
木谷:ああ、そうか……。
――つまり、コミケが開催されることを前提に進められていた事前準備のための費用が丸まる赤字になっている……。
木谷:メットライフドームのライブ公演を例に出すと、開催するために数億円の費用がかかっています。これが、もしもっと直前でキャンセルしていたら、その70%~80%程度の規模の費用がかかった可能性がある。これに関しては本当に、会場はもちろん誰が悪いとかではなく、イベントを作っていってそれが無くなるとどうしてもかかってしまう費用です。
筆谷:厳しいですね……。コミケは、会場の東京ビッグサイトのキャンセル費が東京都によって全額保障されたことで、少し助かったんです。ただ、我々が中止を決めたときには、この決定はまだされていなくて、最悪、億単位の赤字をかぶって何とかして行く覚悟もしていました。
■費用だけでない中止の影響
木谷:コミケを開催する予算の中では、会場費の割合がやっぱり大きいですか?
筆谷:大きいです。あと、中止までの経緯で付け加えるのであれば、1か月前に中止を決めたのは、各企業ブースの造作がそのあたりから始まることも気にしていました。その作業が始まってからキャンセルとなると、やはり企業の方に与える影響も大きい。それも1か月前がリミットになった理由のひとつだったんです。
木谷:わかります。じつはそれがあったから、ブシロードは「AnimeJapan2020」(今年3月開催予定だった日本最大級のアニメイベント)の運営が開催中止を決める前に、出展中止を決めたんです。1か月前を割り込んでくると、止めたときのダメージが大きいんですよね。
――なるほど。
木谷:あともうひとつ。金銭的な面もですが、やっぱり「いいブースにしよう」とか「いいステージにしよう」と頑張っている人がいっぱいいるわけじゃないですか。設計図の段階でやめるのであれば、気持ちの上では「仕方ないですね」で済むんです。でも、造作が進んで、モノを実際に作ったあとでイベントが行われないというのは、スタッフに精神的なダメージが結構来てしまうんです。
筆谷:それは事務方もそうです。事務作業だって、「今やっているこの作業は、最後に花開くのだろうか?」と不安を感じながら作業をするのは、気持ちとしてかなりつらいはずです。我々は3月半ばまで開催するつもりでいたので、代表も含めて全スタッフやる気で、誰ひとりテンションは下がっていなかった。3月上旬にスタッフの登録集会をやったんですが、そこでも800人ぐらいのボランティアスタッフのみなさんが登録に来てくれて、すごく元気をもらいました。コミケって、こういう人たちに支えられているんだな……と。中止というつらい発表するはめになるとは思いませんでした。