新型コロナウイルスによる各業界の影響が本格化するなか、オタクコンテンツ業界においては、ゴールデンウィークに開催を予定していた「コミックマーケット98」の中止、そして「BanG Dream!(バンドリ!)」のメットライフドーム公演「BanG Dream! Special LIVE Girls Band Party! 2020」の延期が、大規模イベントの苦渋の決断として業界内外の各所に衝撃を与えた。

  • 左:筆谷芳行氏、右:木谷高明氏

そこで今回は、コミックマーケット準備会の共同代表・筆谷芳行氏とブシロード取締役の木谷高明氏に決断を行った当事者として、中止・延期までに至った経緯や。混迷の時代のなかでの未来への展望を聞いた(取材は一定の距離を設け、密閉、密集、密接の3密に配慮した上で行ったものです)。

注…「BanG Dream!(バンドリ!)」……ブシロードが企画した、アニメ、ゲーム、コミック、声優によるリアルライブなど様々なメディアミックスを展開する次世代ガールズバンドプロジェクト。

――新型コロナウイルス禍の今、コミックマーケット中止や「BanG Dream!」のメットライフドーム公演延期など、大規模イベントは大変な状況を迎えることになりました。

木谷:コミックマーケットが中止になるほどの事態ですからね。それがどれだけとんでもないことか、一般の方はあまりわかっていないのかもしれない。これは歴史的事件なんです。

コミックマーケットは小規模の手弁当から始まり、45年をかけてここまで大きくなった。その間、中止になったことはなかったわけです。ここからは筆谷さんにぜひ、コミケが誕生した経緯と合わせて語っていただきたい。

■コミケ45年の歩み

筆谷:わかりました。コミックマーケットは今年(2020年)で45周年、つまり1975年にスタートしました。

僕の場合は高校1年生の時に開催されたコミックマーケット16(1980年開催)に一般参加したのが、コミケとの関わりの始まりです。その時点でも参加者は約7,000人いたので、高校生から見ると、ものすごく規模の大きいイベントでした。

当時、学校に行っても漫画やアニメのことを話せる仲間は数人なんですよね。それがコミケに行ったら、何十人、何百人、何千人と、自分と同じものが好きな仲間がいる。それがとにかくうれしかった。それと同じような思いを持っている人間が、コミケに来てはやめられなくなり、どんどん仲間が広がって、45年のあいだに5万人、10万人、20万人……と、気がつけばものすごい参加人数のイベントになった。

もちろん、昔は参加していたけれども「卒業」した人もいます。でもそうした人たちも、好きだった場だから、何かあったときには守ってあげよう、コミケの仲間たちを信じてあげよう……みたいに、外周から守ってくれる。そうした元仲間がいろいろなところにいるんですよね。

木谷:わかります。

筆谷:あと、親は引退しているけれど、その子供が漫画やアニメが好きで、親の知らないうちにコミケに参加するようになった……というケースも増えています。全体として、かなり社会の認知度は高くなってきているのではないかと感じています。

この5、6年くらいでしょうか。テレビのニュースで取り上げられるときにも、もう「コミケとは?」という説明がなくなったんですよね。「コミックマーケットとは、漫画の愛好者が集まる同人誌の即売会である」というような説明を入れずに、コミケ、コミックマーケットという名詞が通用している。そこにいちばん、時代の変化を感じますね。

  • 2019年末に行われたコミックマーケット97の様子

――そうした社会的認知度が高まったことで生じている誤解もあるかと思いますが、運営体制も、基本的なところは変わってらっしゃらないわけですよね?

筆谷:変わっていないですね。一応、長い歴史の中で、理念を文章化して、サークル参加申込書の中にも書いています。しかし基本的には、好きなものを自分たちの手作りでやっていく、カッコいい言い方をすれば、「運営はいない。サークル参加者も、一般参加者も、コスプレ参加者も、企業の参加者も、そして、スタッフ参加者も、みんなコミックマーケットという場が好きなのだから、ルールを守って協力的に同じ祭りを、ハレの日を作り上げていこう」というスタンスに変わりはありません。

運営体制に関しては、会場を借りるためであるとか、税金の問題であるとか、売り上げの管理をするために有限会社コミケットという法人格はありますが、基本はボランティアベースです。準備会では3,000人を超えるスタッフがいますが、社員は10人弱で、それを除けばみんな、ほかに本業を持っている社会人や学生がボランティアで関わっています。

木谷:海外のアニメ・コンベンションも全部そうなんですが、最初は好きな人同士で集まってやっていたんだけど、ある程度大きくなると、会社組織にしないと参加者の規模に見合った大会場を借りられなくなるんです。くわえて、それだけの規模になると警備を頼む必要も生まれてくるのですが、その際、個人では相手が受けられない。

筆谷:そうなんです。特に首都圏での大きな問題は、東京ビッグサイトや幕張メッセは法人じゃないと借りられないことです。つまり、一般的にイメージされるような「利益を出すために会社にする」わけではないんです。

そうした理念があるから、コミケは入場料を取らない形でやってきた。これはコミックマーケット準備会の先代代表であった米沢嘉博にいわせれば、「デパートに入るのに入場料を取らないでしょ?」ということです。言い方を換えれば、僕たちがやっているのは、あくまで場を作ることだけなんです。

――現在は前々回から始まった、事前に販売されるコミケットカタログに付属するリストバンドが、事実上の参加証のような役割になっていますね。

筆谷:リストバンド型参加証を付けたのは東京オリンピックとの兼ね合いで、この期間はコミケットが管理しなくてはいけない面積が増えてしまい、警備員の増員を始め、いろいろなところにお金がかかるようになってしまったからです。