フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』のチーフプロデューサーを務めた張江泰之氏(52)が、19年6月に同局を退社し、動画制作会社「Hariver」を立ち上げて半年が経過した。

17年に放送された『人殺しの息子と呼ばれて…』では、02年に発覚した北九州連続監禁殺人事件の犯人の息子を初めてインタビューして大きな話題を集めるなど、順風満帆なテレビマン生活を歩んできた同氏。50歳を過ぎてなぜ、新興メディアの世界に飛び込んだのか――。

  • 「Hariver」代表取締役の張江泰之氏

    「Hariver」代表取締役の張江泰之氏

■定年の恐怖とテレビの危機感

『ザ・ノンフィクション』は視聴率面でも好調に推移し、周囲から「なんで辞めるんだ」と次々に疑問に思われたという張江氏。このタイミングでフジを退社したことについて、2つの理由があると語る。

「まず1つは、僕は所詮サラリーマンだということ。人生100年時代と言われているのに、これまで旗振って番組を作ってきた僕が、60歳という定年が近づいてくるとどうなってしまうんだろう…と恐怖というか、いろんなことを考えてしまったわけです。それならば、番組の調子が良いときにバトンを譲って、自分がやりたいことをまた1からやってもいいんじゃないかっていうのを、49歳くらいから考えていました」

もう1つの理由は、テレビというメディアへの危機感だ。「もちろん、生命を預かる災害報道や人々を熱狂させるスポーツ中継とか、大事な役割を果たしているんですけど、若者や子供たちを中心にテレビが見られなくなっている。向こうから降ってこられるコンテンツより、自分で取りに行くのが当たり前になっていくのが避けがたいことになっているじゃないですか。そうなったときに、スマホという新しいメディアが出てきた以上、そこで自分の可能性をぶつけたみたいと思ったんです」と決意した。

■女性タレントに芸人、格闘家も

そうして飛び出した先のフィールドの1つが、YouTube。テレビマン時代に培った人脈を生かし、芸能事務所とコラボレーションしてタレントをYouTuber化する事業を進めている。『ザ・ノンフィクション』で美容整形を公表して大きな話題となった有村藍里が、ただただ散歩している様子を映し出した「おさんぽ あいり ちゃんねる」(毎週月曜19時更新)は、すでに登録者数1万人を超えた。

  • 有村藍里=「おさんぽ あいり ちゃんねる」より

今後も、インスタグラムでフォロワー60万人に迫る女性タレントや、高学歴のお笑い芸人、格闘家などを計画しており、「カジサックさん(キングコング・梶原雄太)を筆頭に、2019年は芸能人のYouTuber化が進んだように、芸能事務所さんとしても、今がこれからの生き方を考える大きな転換点になっているんです。そういうタイミングで相談が来るので、みんなで面白いことをやっていきたいですね」と意欲を示す。

また、未来のYouTuberを育てていく試みも。自らシングルマザーの道を選んだ23歳の元タレントの卵・りぃにゅん、芸人・アキテリヤキによる東京五輪を意識した英語による東京リポートなどを展開していく。

さらに、企業からも動画制作のオファーが舞い込んできているそうで、「動画の制作会社はたくさんあるんですが、言われたことをやるだけで面白みもクリエイティブ性もない会社が少なくないということなので、ありがたいことにたくさん依頼が来ています」と事業としての手応えを明かした。

  • “シンママ妊婦tuber”のりぃにゅん

■BSテレ東で半年ぶりテレビ復帰

このように、エンタメ系、企業系コンテンツを手掛ける中、自ら出演する『BUZZドキュ』は、張江氏の原点であるドキュメンタリージャンルのチャンネルだ。第1弾では、『人殺しの息子と呼ばれて…』でインタビューした北九州連続監禁殺人事件の犯人の息子に、再び張江氏が直撃している。

このチャンネルの狙いについては「やっぱり自分の1つの“支柱”であるものを残しておきたいということ。それと今、ドキュメンタリーをやってる制作者にとって、テレビ局のドキュメンタリー枠が減り続けてしまっているので、こういうチャンネルを育てることで、いろんなことができるんじゃないかと思って、トライアルでやっているんです」と説明。

「『人殺しの息子と呼ばれて…』の放送のときに感じたのは、ネットとドキュメンタリーというのがすごく親和性が高いということ。西成の日雇い業者に潜入するYouTuberがいたり、架空請求業者を成敗するYouTuberもいたりするので、諦めずにコツコツやっていきたいですね」

  • 『THE名門校 日本全国すごい学校名鑑』に出演する(左から)角谷暁子アナ、登坂淳一、伊沢拓司、育児・教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏

一方で、テレビの世界へ半年ぶりに復帰することも決定。BSテレ東からオファーがあり、新たな情報ドキュメンタリー特番『THE名門校 日本全国すごい学校名鑑』(1月5日19:00~20:54)を制作する。

フリーアナウンサーの登坂淳一を案内役に、38年連続で東大合格者数日本一を誇る開成高校をはじめ、古豪から新興勢力まで、全国のさまざまな名門高校の秘密を紹介していく番組で、「テレビはもうやらないつもりで飛び出したんですけど(笑)、この切り口はテレ東さんらしくて面白いなと思い、受けることにしました」と、“来る者は拒まず”の精神で取り組んでいる。