今年10月末の発表によると、電気自動車(EV)大手「テスラ」の今年7~9月の決算が3四半期ぶりに黒字になったのだそうだ。その理由は、今回乗ったテスラの主力車種「モデル3」の量産が軌道に乗り、同時期の生産台数が9万6,000台に達したからだ。このペースでいくと、カリフォルニア州フリーモントにある工場での2019年の生産台数は40万台近くに達する。さらに、中国・上海で稼働を開始したとされる新工場において生産中の中国向けモデル3が加われば、なかなかの台数が世の中を走り出すことになる。どんなクルマなのか、試乗してきた。

  • テスラ「モデル3」

    テスラ「モデル3」(本稿の写真は原アキラが撮影)

走りが成熟、完成度を増したテスラ車

スポーツカーの「ロードスター」、大型セダンの「モデルS」、SUVの「モデルX」に続くテスラの新型車「モデル3」は、2016年に世界デビューし、日本では今年9月に発売となった小型の5人乗りセダンだ。外観はオーソドックスな3ボックスのセダンスタイルで奇をてらったところはなく、グリルレスである点だけがEVであることを主張している。

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    外観はオーソドックスな3ボックスセダン

ボディサイズは全長4,695mm、全幅1,850mm、全高1,445mmで、カテゴリーとしてはメルセデス・ベンツ「Cクラス」やBMW「3シリーズ」などが属するDセグメントに分類できる。これなら、日本で乗るにも問題のないサイズだ。断然、室内も広い。インパネはステアリングと15インチの横置きディスプレイだけというシンプルな造形。「豪華なしつらえを望むのであれば、ほかのモデルをどうぞ」という考え方だ。その潔さに慣れると、全く気にならなくなる。

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    いわゆるDセグメントのボディサイズは、日本で乗る場合でも持て余すことはなさそうだ

走りもまた然り。最新のEVモデルであるジャガー「I-PACE」やメルセデス「EQC」もそうだが、静かで速いのが当たり前なのである。加減速の仕方やブレーキ制御のやり方にはそれぞれのメーカーの考え方が反映されていて、乗り味に異なる点はあるのだが、静かさと速さはEVの絶対領域である。

試乗したモデル3(グレードは「パフォーマンス」)は、テスラのこれまでのモデルに比べてボディーが軽量(1,810キロ)なので、重いものが強引に加速していく感じではなく、軽いものがピュンと動き出す感覚が伝わってくる。ちょっと新鮮な動きだ。

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    これまでのテスラ車よりも軽い「モデル3」は出足が軽快だ

例えば今回の試乗中は、神宮外苑から首都高上り線に合流する際、大きなライトハンダーを乗り越えて坂を降りながら本線に入るシーンがあったのだが、その時にアクセルを深く踏み込むと、流れるクルマの隙間を狙って矢印をズバリと差し込んでいくような動作で、一瞬で作業が完了した。ゼロヒャク加速(停止状態から時速100キロまでの加速に要する時間)3.4秒というスーパーカー並みの加速を誇るだけのことはある。

ステアリング右のシフトレバーをトントンと2回押し下げると「ACC」(アダプティブ・クルーズ・コントロール、レベル2のオートクルーズ)が作動する。正確に車線を維持しつつ前走車を追従するだけでなく、ディスプレイ右側に周囲を走るクルマやバイク、自転車などをそのままの形状で表示してくれるのは、見ていて楽しい。そして、とても親切だ。車線変更も、ウインカーレバーを操作してステアリングにきっかけを作るだけで、短時間で行ってくれる。

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    周囲を走っている車両の種類が視覚的に把握できるようになっているセンターディスプレイ

車速はセンター画面右上に表示されているので、わずかな視線移動が必要となる。ドライバー正面ではなくセンターディスプレイに情報を集約したのはなぜか。いずれは自動運転がデフォルトになり、道路標識を認識してクルマが車速を管理するので、ドライバーが把握する必要はないという考え方を表しているのではないか。そんなうがった見方をしてしまうほど、新しいレイアウトは新鮮だった。

モデルSの発売当初には「??」と感じたクルマの走り自体も、様変わりといった印象。車速が上がるにつれてどっしりと安定してくる走りは、ACCと組み合わせればどこまでも疲れ知らずで連れて行ってくれそうだ(ただ、航続距離は気になるが)。聞けば、足回りやボディー剛性などについては、最近は有名メーカーから多くの技術者が入ってくることでレベルが向上し、クルマとしての完成度も非常に高レベルになっているという。

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    足回りや剛性などの進化を感じ取ることができた

出そろいつつある高級EV、どうやって売る?

さて、このように三拍子そろったクルマとして、その出来栄えのよさはすでに当たり前になりつつある各社の高級EVモデルたちだが、問題は、どうしたら日本で売れるのかである。その点については、同乗してくれたテスラ シニアマーケティングマネージャーの前田謙一郎氏が面白いことをいっていた。

「考えてみてください。近所のスーパーにある充電スペースで、国産EVの後ろにテスラ やメルセデス、ジャガー、ポルシェなどのEVが並んで充電待ちする姿が想像できますか?」

日本の急速充電システム「CHAdeMO」(チャデモ)でも追いつかないほどの大容量高性能バッテリーを搭載しているという技術的な問題はさておき、確かに、これらのクルマのオーナーたちは、あまりそうした場所には出向かないような気がする。

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    ボディー左後部の充電口

であれば、富裕層やアーリーアダプターたちが集まる場所に、専用充電器を備えたステーションを設置する方がいいのでは、というのである。間もなく新型EV「タイカン」をデビューさせるポルシェも、六本木ヒルズなどで専用充電スペースの設置を始めているらしく、前田氏は「その考え方は大正解です。テスラも同じ考え方で、江東区東雲に専用スーパーチャージャーを8基備えた『テスラ東京ベイ スーパーチャージャーステーション』をオープンしました」と教えてくれた。

EVの充電には、ガソリンの給油に比べて時間がかかる。その時間をどう過ごすかについて前田氏は、「テスラのディスプレイには隠しコマンドがあって、画面を見ながらクルマを操作して楽しむゲームモードや、イーロン・マスクが行くことを願っている火星モードなど、充電中でも楽しめるコンテンツがたくさんあります」と話していた。このあたりに、老舗メーカーにはないアイデアが盛り込まれているのだ。ソフトウェアはスマホ同様、随時、最新のものにアップデートされる。

  • テスラ「モデル3」

    センターディスプレイでがゲームなどのコンテンツが楽しめる

テスラのモデル3、恐るべし。新型EVを開発する既存の自動車メーカーは、そう思っているに違いない。

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著者情報:原アキラ(ハラ・アキラ)

1983年、某通信社写真部に入社。カメラマン、デスクを経験後、デジタル部門で自動車を担当。週1本、年間50本の試乗記を約5年間執筆。現在フリーで各メディアに記事を発表中。試乗会、発表会に関わらず、自ら写真を撮影することを信条とする。