唯一無二の「599+1」|フェラーリ・デイトナSP3、最後の特別な一台がRMオークションに出品

2018年に始動したフェラーリの「イコーナ・シリーズ」は、最先端のエンジニアリングと、フェラーリが誇るレーシングカーのデザインDNAを融合させた、少量生産の特別モデル群である。いずれもフェラーリと深い関係を築くVIPクライアントのみに提供されてきた。

【画像】限定599台の生産で知られるフェラーリ・デイトナ SP3シリーズにおいて、唯一追加された一台(写真10点)

その第一弾として登場したのが、1950年代のオープンコクピット・レーサー、たとえば166MMや750モンツァなどに着想を得た伝統的バルケッタスタイルの「モンツァSP1」と「SP2」である。フロントにV型12気筒エンジンを搭載し、後輪駆動とした構成は極めて純粋でありながらも現代的なパフォーマンスを実現し、1950年代のスポーツカーレースが持つ荒々しくも情熱的な機械美を見事に体現していた。

2021年、そのイコーナ・シリーズに待望の第三弾が加わることとなる。「フェラーリ・デイトナSP3」である。本モデルはシリーズ初のクローズドボディを採用し、1960年代の耐久レースを席巻したフェラーリの伝説的スポーツ・プロトタイプ、特に330 P3/4を思わせるフォルムを纏って登場した。1967年のデイトナ24時間レースで成し遂げた1-2-3フィニッシュという栄光の瞬間を象徴する一台といえる。

搭載されるのは、ミドにマウントされた自然吸気6.5リッターV型12気筒エンジンで、ハイブリッドを用いることなく829馬力という圧巻の出力を誇る。トランスミッションは7速デュアルクラッチ式で、高速シフトに対応。エアロダイナミクスはアクティブ機構に頼ることなく、パッシブな構造のみで最大限の効率を追求。アンダーボディから低圧空気を排出する「チムニー」などを備え、登場時点においてフェラーリ史上もっとも空力性能に優れたモデルとされた。こうした技術の結晶により、0-100km/h加速は2.85秒、0-200km/h加速は7.4秒という驚異的な数値を実現している。

2025年8月、モントレーカーウィークにおいて開催されるRMサザビーズのオークションに、極めて特別な一台が出品される。『フェラーリ・デイトナ SP3 Tailor Made ”599+1”』と名付けられたその個体は、限定599台の生産で知られるデイトナ SP3シリーズにおいて、唯一追加された一台であり、まさにコレクションの掉尾を飾る存在である。フェラーリによる公式なチャリティ目的での特別製作車であり、収益の全額はフェラーリ財団を通じて教育支援活動に寄付される予定だ。

その存在を際立たせるのは、外観からも一目で伝わる大胆なビジュアルである。露出したカーボンファイバーのボディにジアッロ・モデナ(フェラーリ伝統のイエロー)を組み合わせたツートーンカラーは、1970年代のレーシングプロトタイプへのオマージュとしてデザインされたもの。ボディ全体にはフェラーリの跳ね馬ロゴが繰り返し配置され、ブランドの誇りを力強く主張している。テールセクションには”1 of 599+1”の文字が刻まれ、正規生産台数に含まれない特別な存在であることが明示されている。

インテリアにもテーラーメイドならではの拘りが凝縮されている。リサイクルタイヤを再利用した環境配慮型素材がシートやフロアに用いられ、フェラーリF1マシンと同様の高剛性カーボンファイバーがインストゥルメントパネルやステアリングコラムに使用されている。カラーリングは外装と呼応するジアッロ・モデナがアクセントとして効いており、視覚的にも一貫した美学が貫かれている。さらにシートベルトやヘッドレストの跳ね馬刺繍にもイエローが用いられ、随所に統一感が漂う。

ステアリングホイールはアルカンターラ仕上げで、F1スタイルのアルミ製パドルシフトが備わる。計器類にはF1カー由来の特殊カーボンを使用し、チェッカーフラッグ柄のモチーフをあしらうことで、モータースポーツとの深いつながりを想起させる意匠となっている。なお、この個体には”599+1”の特別銘板が装着され、唯一無二の存在であることを明確に物語る。

注目すべきは、この車両が単なる展示目的のコンセプトモデルではなく、正真正銘の公道走行可能なフェラーリであるという点だ。オーナーには正規の取扱説明書やオーナーズマニュアルのほか、工具キット、バッテリーコンディショナー、車体カバー、そしてジアッロ・モデナとカーボンファイバーを組み合わせた専用クラッチバッグなどが付属する。クラッチバッグは「マラネッロ・クラッチ」と呼ばれ、フェラーリのシルエットをモチーフにデザインされた一点物である。ウルトラスエードのライニングと調整可能なチェーンストラップが施され、ラグジュアリーと遊び心が共存する仕上がりとなっている。

落札予想価格は350万ドル以上、日本円にしておよそ5億250万円。これはデイトナ SP3の中でもトップクラスのプレミアムがついた金額であり、フェラーリが公式に関与したテーラーメイド車両としては過去最高水準の評価と言ってよいだろう。コレクターズアイテムとしての価値はもちろん、ブランドの社会貢献活動への理解と支持という文脈を含めて、単なる”高級車”という枠では語り尽くせない存在である。

なお、今回のオークションで得られる収益はすべて、米国の公益財団法人「フェラーリ財団」に寄付される。同財団は、教育分野を中心に様々な慈善活動を展開しており、最近ではセーブ・ザ・チルドレンとの共同プロジェクトとして、カリフォルニア州アルタデナにあるアヴェソン・チャーター・スクールの再建支援に貢献している。校舎は今年初め、イートン山火事により壊滅的被害を受けたが、フェラーリの支援によって新たな未来へと歩み始めている。

オークションの舞台となるのは、世界中の富裕層と車愛好家が集うモントレーカーウィーク。その中でもRMサザビーズはもっとも注目度の高いオークションハウスの一つであり、本個体がどのようなドラマと共に落札されるのか、多くの視線が注がれている。

この一台に込められた情熱と哲学、そして未来へのまなざし。フェラーリが描くビジョンとその具現化を、我々はまもなく目の当たりにすることになるだろう。