江戸時代「加賀百万石」とも言われた加賀藩があった金沢。文化と伝統に色付くこの町で、最も長い歴史を持つ老舗の酒蔵「福光屋」を訪ねた。

  • 金沢の老舗酒蔵「福光屋」

創業は、1625年(寛永二年)と実に400年近い歴史を誇る。米と水だけで造る「純米蔵」にこだわり、現在では日本酒という枠組みを越え、スキンケアや乳酸菌ドリンクなど幅広い製品展開を行っている。今回、福光屋の第13代当主、代表取締役社長の福光松太郎氏に話を聞いてきた。

  • 福光屋の代表取締役社長・福光松太郎

「清酒というのは、消費数量のピークには928万6千石(1石=一升瓶100本)もありましたが、長期衰退傾向にあります。現在の石高では上位20位くらのメーカーは大手の酒造メーカーで、そこからは地方の銘柄が続きます。福光屋では、現在1万1千石ほど製造しており、北陸を代表する酒造メーカーといったところです」

酒造業界は1975年(昭和50年)のピークを境に衰退の一途をたどっている。1882年(明治15年)には全国に2万5千以上あった酒造メーカーも、2015年(平成28年)には約1600と大幅に数を減らし、石川県内では実に36にまで減少した。

「戦後はナイターがテレビ中継が始まり、晩酌にはビールが定番になりました。それから焼酎やウイスキー、ワインなどもマスマーケティングをうまく取り入れ台頭し、日本酒の消費を減らしました」と説明する福光社長。他のアルコール飲料の攻勢が激しくなり、マスマーケティングに対抗できない日本酒メーカーの業界構造があらわになったという。

そこで福光屋では、中高年がメインターゲットであった日本酒を女性にも日本酒を楽しんでもらおうと、1990年(平成2年)に女性市場への参入を画策する。女性市場に向けた革新として、「味の変革」「マルチブランド政策」「純米蔵宣言」「直営店の展開」「デザイン力強化」の5つのテーマを掲げ、市場での生き残りを図った。

福光社長は次のように語る。「かつてはお米が獲れるとろこには、たくさん酒造メーカーがありました。30年前頃に日本酒の需要不信というのがあり、とくに中高年男性市場の行き先の不安がありました。中高年男性に頼っていてはダメなんだなと思い、これは女性にも日本酒を飲んでもらうしかないと。女性市場に何かタッチアップできないかと思いました。お酒はお米からできるアミノ酸の塊で、非常に細胞を活性化し美肌を作るので、女性に何かアプローチできないかと色々考えました」

女性市場に着目した福光屋では、これまで同社のメインブランド「福正宗」に加え、マルチブランド化を図ることで、さまざまな消費者ニーズに対応した。

  • 1625年創業の老舗酒造、金沢「福光屋」社長に日本酒の今について聞いてきた
  • 加賀藩江戸屋敷お抱えの大名火消しをモチーフとした「加賀鳶」。福光屋の主力ブランドのひとつ

  • 長期熟成酒の「百々登勢」。"濃熟"をテーマにしたブランドで、詩人・高橋睦郎氏が名付けたという

さらに、マルチブランド化により、福光屋の商品のみを提供する直営店の展開が可能となり、地元金沢だけでなく、東京ミッドタウンや松屋銀座、丸の内 帝劇ビル、玉川高島屋S・Cなど東京でも店舗を展開。これら店舗は酒の販路拡大だけでなく、福光屋ブランド認知の向上やターゲットである女性層に日本酒文化を啓蒙する場としても役立っているという。

日本酒とは別に、米発酵を活用した基礎化粧品や機能性食品などの開発にも力を入れているという。昨今、化粧品を提供する酒蔵は多いが、もともと女性をターゲットとしている福光屋は早くからこの分野にも注力しており、大学や経済産業省、厚生労働省と産学連携で商品を開発するなど、様々な取り組みを行っている。

  • コメ発酵液を主成分とした基礎化粧品などを展開

  • 米醗酵技術から生まれた美容成分「コメ発酵液FRS-01」を活用した「アミノリセ」シリーズ

  • 「飲む点滴」と言われる、やさしい甘さの糀甘酒

女性市場への注力やマルチブランド化、化粧品・機能性食品の提供など、歴史ある酒蔵でありながら、様々な革新的な取り組みを行う福光屋。1625年から酒造りを続ける酒蔵ではあるが、時代の変化にあわせてそのあり方は変わる。福光社長は「その代その代で新たに事業を創業しているようなもの」と説明する。福光屋の革新的な取り組みが、未来の福光屋の伝統となる日も近いだろう。


福光屋の酒造工程を学ぶ

福光屋では蔵内の見学を行っており、酒造の工程を学ぶことができる。今回は、杜氏の板谷氏に案内いただいた。板谷氏は30年間酒作りに関わり、「寿蔵」の杜氏となって8年目となる。

  • 「寿蔵」の4代目杜氏、板谷氏

  • 酒蔵の上階には社があり、酒造り際にはお参りを欠かさない

福光屋の仕込み水は、白山の麓に降った雨が100年の歳月をかけて、蔵の地下150メートルから湧き出てくる「百年水」。適度にミネラルを含んだこの水が、上質な日本酒の元になる。

  • 蔵の地下から湧き出る「百年水」

酒作りに欠かせない「麹(こうじ)」を見せていただく。麹室で蒸した米に種麹を振りかけ、麹菌が繁殖した麹は口にすると甘く、また手に擦り込むと酵素の作用で驚くほどスベスベになる。

  • 麹は麹室で約2日間かけてでき上がる

百年水と蒸米、米麹の中で清酒酵母を高密度に培養させる。この酒母(しゅぼ)造りは、お酒の骨格つくりとなる重要な作業だ。

  • 酒母の状況を見ながら櫂入れを行う

三段仕込みによって、醪を徐々に増やしながら約20日間かけてゆっくりと発酵させていく。そして醪を搾り、調整を行い新酒が完成する。

  • 三段仕込みで、アルコール発酵がすすんでいく

  • まだ色が残る、搾りたての無濾過の生原酒

アンテナショップの福光屋・金沢店では日本酒をはじめ、コスメ製品や機能食品やスイーツや食材、地元金沢の酒器なども購入できる。

  • SAKE SHOP 福光屋・金沢店。福光屋の純米酒や酒器、地元の酒肴などが揃う

■ SAKE SHOP 福光屋 金沢店
住所:石川県金沢市石引二丁目8-3
電話番号:076-223-1117
営業時間:10:00-18:00 定休日年末年始