私たちが生きていくうえで毎日の食事は欠かせないが、その食事スピードは人によって異なる。例えばランチ。休み時間をいっぱい使ってランチブレイクを取るのが理想だろうが、ランチを5分で済ませて仕事に打ち込まざるをえない多忙なビジネスパーソンがいるのも事実だ。「早飯も芸の内」ということわざもあるように、素早くご飯を食べることがその人にとってプラスに働くような場合もあるだろう。

そこで、管理栄養士の真野稔子さんの解説のもと、早食いをすることのメリット・デメリットを栄養学の観点からまとめてみたので、本稿で紹介していこう。

  • 早食いのメリット・デメリットって?

    早食いのメリット・デメリットって?

早食いのメリット

量をたくさん食べることができる

脳の満腹中枢が刺激され、私たちが満腹感を得るには一定の時間が必要となる。満腹中枢は咀嚼回数と密接に関連しており、噛(か)む回数が多くなる(食事時間が長くなる)と満腹感を覚えやすくなる。一般的に人は満腹感を得るまで食べるので、咀嚼回数が少ない早食いの人は満腹感が得られにくく、結果として多くの量の食事を摂(と)ることができる。

食事のための時間を他のことに充てられる

忙しい人や時間に追われている人などは、食事を早く済ませた分だけ、他のことに時間を充てられるため、早食いに対してメリットを感じているかもしれない。

早食いのデメリット

胃腸に負担がかかる

「よく噛まずに食べると、唾液の分泌が少なくなります。唾液にはでんぷんを分解し、消化吸収を助けるアミラーゼという消化酵素が含まれますが、この働きが少なくなります。食べ物が十分に咀嚼されていない状態で胃に入り、腸へと送られるため、胃腸は消化・吸収をするのにより多く働かなければならないので負担がかかります」

虫歯になりやすい

早食いで噛む回数が少ないと唾液の分泌が少なくなる。唾液には口の中の細菌を洗い流す「自浄作用」と呼ばれる力があるが、分泌が少なくなれば当然、その力が弱くなり、口臭の原因や虫歯、歯周病になりやすくなる。

脳の働きが鈍くなる

よく噛むことは脳を活性化させるが、早食いであまり噛まない場合は脳の働きが鈍くなる可能性が高まる。

太りやすくなる

「早食いは太る」という言葉を聞いたことがある人も多いだろう。上述のように脳が満腹感を覚えるまでには一定の時間を要すため、咀嚼回数が少ない早食いでは満腹感を得られるまでに摂取する量(カロリー)が必然的に多くなり、太りやすくなるというわけだ。

「食べ物を食べると血液中のブドウ糖の量が増え、血糖値が上がります。一方で脂肪細胞からはレプチンが分泌され、満腹中枢がそれらの刺激を受けて『もう食べなくていいよ』と体に伝えます。満腹中枢が血糖値の上昇と脂肪細胞からのレプチンによる刺激を受けるには、食事を始めてから20分ほど必要になります。レプチンは食欲を抑え、エネルギーを消費するように働きかけるので体脂肪を減少させます。早食いの人は、十分なレプチンが分泌されないため、体が満腹を感じる前に必要以上に食べる量が多くなっていまいがちになります」

早食いを防止するための方法

「多くの量を食べられる」「食事以外のことに時間を費やせる」といったメリットは、体を大きくする必要がある一部のアスリートや超多忙なビジネスパーソンらにとってはありがたい点かもしれない。ただ、一般的な社会人にとっては「太りやすくなる」「虫歯になりやすい」などの早食いによるデメリット面の方がやはり気になるところだろう。

では、早食いを防止するためにはどうしたらよいのだろうか。今日から誰でも実践できる簡単な対策を真野さんに教えてもらったので最後に紹介しよう。

食物繊維の豊富な食品を食べる

根菜類(ごぼうやれんこんなど)、さつま芋、きのこ類(エリンギ)などの食物繊維の豊富なものを食べれば、自然と咀嚼回数が増えて早食い防止につながる。

噛みづらいものを食べる

たこ、いか、こんにゃくなどの食品は噛むのに顎の力を要する。食物繊維の豊富な食品同様、嚥下するためには何度も咀嚼しなければならないため、これらの食品を食卓に並べるのも早食い防止策として有効だ。

調理を工夫する

「ご家庭で調理をされる際、食材は大きく厚めに切り、噛みごたえがある状態にしましょう。乱切りや一口大にすると噛む回数が増えますよ。加熱調理をするのであれば、時間を短くするといいですね。煮込む場合も時間を短縮して食材の硬さを調整し、噛む回数を増やしましょう」

一口で30回噛む

人の脳はよく噛むほど、満腹感を覚える。一口につき30回は噛むクセをつけるようにし、それが常態化されれば早食いはしなくなるだろう。

一口ごとにお箸を置く

咀嚼以外で強制的に食事に時間をかけるようにするのも、早食いを防ぐために活用したい手段。一口食べ物を口に入れたら、箸を一度置いて味わうことに集中してみよう。

※写真と本文は関係ありません