ダイハツ工業「ロッキー」/トヨタ自動車「ライズ」という5ナンバー枠の小型SUVが新たに発売となった。小さくてもSUVの特性を備えたクルマであるのか、排気量1.0リッターのエンジンでSUVは軽快に走るのかなど、いろいろと気になる点があったので、試乗して確かめた。
小さなクルマで培ったダイハツのノウハウを活用
ダイハツとトヨタは以前、「ビーゴ/ラッシュ」という、やはり5ナンバーの小型SUVを販売していたことがある。このクルマは2016年、モデルチェンジを迎えることなく生産を終えた。今回のロッキー/ライズは、かつてのビーゴ/ラッシュの後継ではなく、両社が全く新しく企画した車種である。開発の基礎となったのは、ダイハツの「DNGA」(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)だ。
DNGAとは、ダイハツが長年にわたる軽自動車の開発で培った技術を基に、より早く、より性能の高い製品を、適正な価格で提供するために打ち出した開発指針である。その第1弾が、夏に発売となった新型「タント」だ。ロッキーとライズは小型の登録車だが、DNGAの第2弾にあたる。DNGAはトヨタの「TNGA」(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)に似た開発手法の名称ではあるが、あくまで軽自動車を主体とし、「良品廉価」「最小単位を極める」「先進技術を皆のために」を目指すダイハツ独自の取り組みである。
トヨタの完全子会社となったダイハツは、登録車のうちコンパクトクラスの開発をトヨタから任されており、東南アジアなど新興国向けの車種開発も含め、そこにDNGAを活用していく。
ロッキー/ライズの開発責任者であるダイハツの大野宣彦エグゼクティブ・チーフ・エンジニア(ECE)は、「軽自動車で培った良品廉価の知見を登録車のコンパクトカーにいかせば、安価かつ軽量な部品で車両を開発できる」と語る。ロッキー/ライズについては、「DNGAに着手した当初から、タントと共に考えてきた企画だ」とした。開発の背景には、昨今のSUV人気がある。
ダイハツによると、2010年から2019年までの10年間、国内の乗用車市場は販売台数が伸びていない一方で、SUVは全ての販売台数に対する占有率を22%に伸ばしている。また、コンパクトカー利用者の16%が「SUVに乗ってみたい」という考えを持っているとの調査結果もあるそうだ。SUVを購入したユーザーを対象とする調査では、SUVという車種に対するいくつかの不満点が浮き彫りになったという。それは例えば、「価格が高い」「荷室の広さが足りない」といったような点だ。ロッキー/ライズの開発では、そういった不満の解消を狙ったというのが大野ECEの説明だ。
開発で苦労したのは、外観の造形だという。
「5ナンバー車で、多くの荷物を乗せられるSUVにしようとすると、どうしても四角い形のクルマになってしまう。しかし、ぶさいくにはしたくなかった。カーデザイナーは苦労したと思うが、その甲斐あって、がっしりとした力強い顔を作ることができて安心した」
こう内心を打ち明けた大野ECEだが、「パッと見て『あっ!』と思える顔、ショールームでも使えそうだと思ってもらえる荷室、座ってみて良さそうだと感じられる室内など、企画の意図や魅力をしっかり出せた」と、ライズ/ロッキーの仕上がりに自信をのぞかせた。
ロッキーは「第46回 東京モーターショー」の会場に展示されていた。大野ECEがショールームで実感できるようにしたと語った3つの特徴は、会場に飾られたロッキーを見てすぐに実感できた。
存在感があり、SUVらしく力強い印象を目に訴えかけてくるロッキー。ドアを開けて室内をのぞくと、内装からは質の良い仕立てであることが伝わってくる。この内装は、女性担当者が粘り強く作り上げたものだそうだ。イマドキのクルマらしく、ダッシュボードの中央には大画面のディスプレイオーディオが設置されている。リアハッチゲートを開け、荷室の床を跳ね上げると、その下にかなりの容量を備えたスペースが現れ、まさしくたくさんの荷物を積み込めそうに感じる。そして何より、運転してみたいという気持ちにさせられたのであった。
1.0リッターでも加速は壮快、後席には十分すぎるゆとり
ロッキー/ライズでは4輪駆動車も選べるが、今回の試乗では2輪駆動のFF(前輪駆動)車に乗った。エンジンや変速機には、グレードの違いによる差がない。エンジンは排気量1.0リッターのガソリンターボで、変速機は新型タントから採用を始めたギア駆動を併用するCVT(ベルト式無段変速機)である。
わずか1.0リッターのエンジンでありながら、ギア比の助けを得られる新開発のCVTにより、ロッキー/ライズはビュンと勢いよく発進した。そこから先は、ターボチャージャーの過給により出力が一気に増し、のびやかに速度を上げていく。なかなか気持ちのいい、壮快な走りを味わうことができた。
郊外での試乗だったこともあり、道幅は狭かったが、ロッキー/ライズは5ナンバー枠のSUVであるため車両感覚をつかみやすく、手の内にあるクルマという安心感があった。それでいて、後席は足元に十分すぎるほどのゆとりがあり、座席も体を預けられ、安らぎを覚えさせた。ただ、前後のシートはどちらも、座面のクッションがやや短めである気がする。
座席の乗り降り、ことに降車の際に、地面にすぐ足を着けられるのもコンパクトカーの利点だ。これであれば、体への負担は少ないだろう。身長や年齢などにかかわらず、乗降性において身近なクルマであることが分かる。
SUVといえば昨今、トヨタの「RAV4」だが、クルマの良し悪しだけでなく、日々の扱いやすさやクルマとの親近感という観点で見ると、5ナンバー車のロッキー/ライズは群を抜いていると思う。
一方で残念なのは、ロッキー/ライズがハンドル位置を前後方向に調節できる「テレスコピック機構」を備えていないことだ。そのせいで、身長166cmの私でさえ、アクセルペダルが近すぎて運転しにくく、ブレーキペダルを踏み損なわないかという緊張感を味わった。やがて足のペダル操作に疲れ、運転するのが嫌になってしまったほどだ。
テレスコピックを装備すれば原価が上がるのは承知している。しかし、運転姿勢は安全運転の基本だ。市販車である以上、電子制御による安全装備・運転支援システムを充実させるだけでなく、正しい運転姿勢を確保できるような作りになっていなければ不十分だ。ダイハツやトヨタに限らず、多くの自動車メーカーにその視点が欠けている。乗員だけでなく、歩行者なども含めて人の命を預かっているのが、クルマという製品である。自動車メーカーには、その点に関する責任を深く認識してもらいたい。それでなければ、ロッキー/ライズのみならず、新型タントなどの軽自動車も安易には薦められないというのが私の考えだ。