フジテレビは、きょう19日に生中継するサッカー日本代表戦『キリンチャレンジカップ2019 日本×ベネズエラ』(19:00~21:24)で、選手密着カメラの映像をスマートフォンで見ることができるという新たな試みを実施する。
通称「超リアルタイム“サムライCAM”」と呼んでいるもので、注目選手にクローズアップした映像を、テレビの映像と時差がほとんどない状態で、スマホで見ることができるこのシステム。初めて導入した『FIVBワールドカップバレーボール』に続き、サッカー中継でも実施することになった。
このシステムを技術的に支えるのは、フジテレビ技術開発部の伊藤正史氏。根っからの技術好きである同氏が、開発の経緯に加え、モノづくりへの思いなども語ってくれた――。
■技術者と番組制作者のアイデアが融合
もともと“放送と通信の連携技術”を専門で研究開発している伊藤氏。従来の同時配信の技術は、一般的に放送から30秒~1分の遅延があったため、“低遅延化”の技術を研究していた。
そんな中、番組の制作担当から「その低遅延の技術を、試合中継で別アングルの映像をネット配信したら、より楽しく番組を視聴することができるのでは」と提案が。「私たちエンジニアはそのような技術は持っているのですが、それを利用するアイデアがなかなか浮かんでこないので、そこがうまく融合して、この企画が生まれました」という。
■小5で作成「好きなアイドルの声が再生されるシステム」
2001年にフジテレビに入社した伊藤氏は、小さい頃からモノ作りが好きで、小学2年生でプログラミングを始めたそう。「親にパソコンを買ってもらって。当時はパソコンでゲームなどはできなくて、自分で作らないと何もできなかったので、自分でゲームなどを作っていましたね。あとは恥ずかしいのですが、小学5年生の頃に“好きなアイドルの声を録音してキーボードで文章を打つと、それをアイドルがしゃべっているかのように音声が再生される”システムを作りました」と熱中する少年時代だった。
その後、大学に進学し、通信系、特に“暗号化”について研究。「ネットで買い物をするときに自分の個人情報が他人に分からないようにするとか、人を守る技術を開発していました。10数年前にプロ向けの暗号技術の解説書を出していて、最近もそれについての子供用の本も出しました」。
さらに、インターネットが広まり始めた20年以上前に、自宅の照明や音響機器を友人が遠隔で動かせる仕組みを作るなど、今では一般的な技術をいち早く開発。東日本大震災では、東北に設置された臨時災害放送局の相談に応え、放送を支援するシステムを自作して無償提供している。
このように、根っからの技術好きである伊藤氏が、モノ作りに興味を抱いたきっかけは「たとえばファミコンだったら、“遊ぶより作ってみたい”という感覚はありました。いろんなものを分解して遊んでいましたね、分解したものが元に戻るということはほとんどありませんでしたが(笑)」とのこと。
また、発明の原動力を聞くと「“人に使ってもらうこと”ですね。あとは使った人のリアクションです。今回も自分の作ったシステムをサッカー中継に活用してもらうので、いろいろな人に見てもらって、いろんな意見を聞きたいです。SNSなどでたくさん反応があると、やりがいになりますね。自分が作ったもので、びっくりしたり、喜んでもらえたりしたらうれしいです」と笑顔を見せた。
■とんがった見方をする人に使ってほしい
「超リアルタイム“サムライCAM”」で、スマホ片手に新たなサッカー中継が楽しめそうだが、伊藤氏におすすめの視聴法を聞くと、「スマホではなくパソコンで“サムライCAM”の映像を見ることです」との答えが。「テレビとパソコンを並べて、両方の画面を俯瞰(ふかん)して見たらおもしろいと思います。監督になった気分で見てもらえたらいいと思います」と提案した。
そして、「テレビを見るのに、とんがった見方をしてくれている人に使ってほしいです。バラエティでもいいですし、アイドルの映像を見るのにも使えるかもしれません。明石家さんまさんの番組だったら、テレビ画面にさんまさんがアップで映っているところで、スマホではどきどきしている他の芸人さんを映すとか、スタッフを映すということもできると思います」と、今後の活用への期待を語っていた。
今回のサッカー中継を担当する、植村敦チーフプロデューサーは「多くの日本代表選手が海外に移籍する今の時代、選手個々のプレースタイル・テクニックもより個性豊かに多様化してきており、“中島翔哉選手の個性的なドリブルをじっくり見てみたい”などの新しいサッカー中継の視聴ニーズも出てきているのでは?というのが、このたび『超リアルタイム“サムライCAM”』を導入させていただいたきっかけです。“サムライCAM”の導入による、注目選手の一瞬一瞬をリアルタイムに近い形でスマホ等で視聴するスタイルが、サッカー中継を楽しむ新しい形となり、中継放送本体の視聴促進につながることを期待しています」と話している。