オートバイの世界選手権である「MotoGP」。2018年からは、タイのブリーラム県にある「チャーンサーキット」でもレースを行っている。今年も10月第1週にレースが開催されたので、観戦してきた。サーキットの周辺では、独特のタイ観光も堪能できた。

  • MotoGPタイGPの様子

    MotoGP第15戦タイGPを観戦してきた

現地の盛り上がりは最高潮に

金曜日の午前にブリーラム空港に着くと、レースを盛り上げる雰囲気で現地は大盛り上がり。空港のロビーでは、バンブーダンスなどタイの古典芸能でゲストを迎え入れていた。ロビーを出ると、そこに待っていたのは2頭の象。ゲストの記念撮影のため、象を用意しているのだという。街中に入ると、目立っていたのは道路などに並ぶバナーや看板の数々。まさに、街をあげてMotoGPを盛り上げようという雰囲気だ。

  • ブリーラム空港の様子

    ブリーラム空港では盛大な歓迎を受けた

サーキット内も盛り上がっていた。各メーカーが巨大なブースを展開しているのはもちろん、さまざまなパーツメーカー、ショップなどもブースを展開し、人気を集めていた。そして、意外だったのが「チャーン」というビールの大きなブースがあったこと。日本では、クルマやバイクで来場することが前提となっているサーキットにおいて、アルコール類のブースを大々的に展開することはあまりないのだが、ここブリーラムのサーキットには、チャーン・ビールのブースがあったのだ。それもそのはず、このサーキットはチャーンが所有するもので、正式名称は「チャーンインターナショナルサーキット」というのだ。

  • タイの「チャーンインターナショナルサーキット」

    タイGPが開催された「チャーンインターナショナルサーキット」

  • MotoGPタイGPのホンダブース

    ホンダのブース

サーキット内には、タイ政府観光庁がタイ東北部の文化を紹介するブースを展開。その中では、タイの伝統的なお菓子作りや木工のカウベル作り、織物や手芸などなど、さまざまな内容を見ることができた。タイ政府は同国東北部の観光に力を入れていて、サーキットを訪れた外国人などにその文化を紹介し、魅力を伝えようと注力しているのだ。

タイでは、スクーターなどイージーに乗れるタイプのバイクが人気で、多くの人が普段の足として使っている。特にチャーンインターナショナルサーキットがあるブリーラム県のような東北部では、パーソナルモビリティとして多くのスクーターが活躍中だ。都市部では、渋滞しているクルマの間を縫って走るバイクタクシーなどもあり、バイクは非常に身近な存在となっている。街中で見かけるバイクといえばスクーターばかりで、スポーツタイプのバイクはあまり見かけないのだが、サーキットにはそうしたバイクが数多く集まってきていて、これにはちょっと驚き、圧倒された。

  • タイで活躍するスクーター

    タイではスクーターが人々の足として活躍している

  • タイGPに集まったバイク

    サーキットにはスポーツタイプのバイクが集結していた

レースの結果は?

予選日となった土曜日は朝から雨が降っていたが、多くの観客がサーキットに足を運んだ。雨は早めに止んだので、天候が客足に響いた感じはなかったが、それにしても見事な入場者の数だった。日本にも、決勝日にサーキットを満員にするレースはあるが、予選日からしっかりと観客席が埋まるタイのMotoGPには驚かされた。

予選日には、コースを使ったさまざまなイベントが用意されていたが、朝の大雨が影響し、直接レースに関係するイベント以外は中止となった。そうした中、予選でトップタイムを出したのは、ヤマハのファビオ・クアルタラロ(フランス)だ。このレースで優勝すれば、シリーズチャンピオンが確定するホンダのマルク・マルケス(スペイン)は3位という結果。実は、マルケスは金曜日のフリー走行1回目で転倒し、病院に搬送されるという事態に陥っていたのだ。フリー走行2回目には参加したもののタイムは6位と振るわなかった。予選の2位にはヤマハのマーベリック・ビニャーレス(スペイン)が入り、スターティンググリッドも同様の順序だった。

もちろん、決勝日もサーキットは大入りだ。グランドスタンドは満員。さすが世界選手権だと感じさせてくれるのが、外国人観客の多さだ。スペインやフランス、イタリアの旗を持ったヨーロッパ系の人達もたくさん訪れている。タイのように観光地が多い国だと、サーキットでレースを観戦し、お気に入りの選手を応援したあとに観光というのは、旅行のセットとして、とても魅力があるのだろう。

決勝前イベントのダンスパフォーマンスが終わると、次々にマシンがダミーグリッドに向かう。国歌斉唱の後、全車がウォーミングアップ走行を始めた。1周のウォーミングアップ走行を終えるとマシンはグリッドに整列。いよいよスタートという場面で、セカンドローマシンの1台がトラブルでグリッドからピットに押し出された。ギリギリのタイミングだったが大きな波乱はなく、綺麗なスタートが切られた。

順調にトップを走るのは、ポールポジションスタートのクアルタラロ。淡々とトップを走り、ラップを重ねて行く。その後ろ、2番手につけていたのがマルケスだ。クアルタラロとマルケスのラップタイムの差は1秒以内だが、マルケスに仕掛ける様子はない。レースはクアルタラロ、マルケスの順でラップを重ねるだけで面白味に欠ける展開に見えた。

しかし、マルケスはクアルタラロの後ろをただ走っているだけではなかった。ひたすらチャンスを狙い、どこで前に出るのが最良なのかを考えていたのだろう。動いたのは、最終ラップの最終コーナーだった。クアルタラロのインに飛び込んだマルケスは、ゴールに向かってフロントタイヤを浮かせながらフル加速。そのままゴールし、優勝を決めた。

  • マルク・マルケス

    優勝したマルク・マルケス

マルケスはこの優勝により、2019年のシリーズチャンピオンを確定させた。マルケスのMotoGPクラスでの優勝は、これで6回目となる。

マルケスは現在、26歳。2013年に出場したアメリカラウンドでは、20歳62日で優勝し、史上最年少優勝記録を更新した。この年のシリーズチャンピオンも20歳266日で獲得し、最年少シリーズチャンピオン記録も塗り替えている。今回の優勝&シリーズチャンピオン獲得では、ホンダライダー最多チャンピオンであったミック・ドゥーハンの優勝回数記録(5回)も更新した。

サーキット周辺で味わえる奥深いタイの魅力

チャーンインターナショナルサーキットのあるブリーラムは、バンコクの北東方向に位置する。今回はレース終了後、そこからさらに東に進んだウボンラーチャターニー県に足を運んだ。ウボンラーチャターニーは東側がラオス、南側がカンボジアに接する国境の県で、自然と遺跡が見所だ。

最初に訪れたのはパー・テーム国立公園。内陸部の山あいにあり、総面積340平方キロメートルにも及ぶこの国立公園の入り口付近には、キノコ型をした奇岩がある。この奇岩には、貝殻の化石が張り付いている。つまり、この場所は古生代には海中にあったということを証明しているのだ。駐車場に使われていた広場もよく見れば、波に浸食されたような様相、潮が引いた岩礁のような雰囲気だった。

  • パー・テーム国立公園にあるキノコ型の奇岩

    パー・テーム国立公園にあるキノコ型の奇岩

  • パー・テーム国立公園の駐車場

    昔は海の中だったことを物語る風景も楽しめた

パー・テーム国立公園で最大ともいえる見所は、断崖絶壁に描かれた数々の壁画だ。3,000~4,000年も前の時代に書かれた壁画は人々の様子を表したもので、その数は300以上に及ぶ。その壁画には、農耕や狩りの様子などが描かれているのだが、壁画の周辺をいくら発掘しても、人々が暮らしていた痕跡はないという。このことから、壁画を描いた人物はここで暮らしていたのではなく、通りがかりに落書きとして描いたのではないかというのが有力な説だ。古代の人の落書きが、今の時代になり、その時の様子を伝える手がかりになるとは……。もしかしたら現代の落書きも、何千年後かには今を知るための手がかりになるかも知れないと考えると、なかなか感銘深いものがあった。

タイは仏教国なので、各所に多くのお寺がある。中でも、ウボンラーチャターニーは修行の地として有名で、さまざまなお寺が存在する。

同県では毎年7月頃に「キャンドルフェスティバル」が開催される。このフェスティバルは、仏教僧が寺院からの外出を禁じられるカオ・パンサー(入安居)の時期に、地元の職人が巨大な蝋細工を作って奉納する儀式だ。今回訪れた寺院「ワット・ノンブア」にも、大きな蝋細工が置かれていた。また、ワット・ノンブアには巨大な仏舎利があり、その中には仏像が鎮座しているのだが、夜だというのに多くの人が訪れ、お参りをしていた。

  • ウボンラーチャターニーのキャンドルフェスティバルの様子

    地元の職人が奉納した巨大な蝋細工

もうひとつ訪れたお寺の「ワット・シリントーンワララーム」は、非常にモダンな雰囲気だった。ワット・シリントーンワラームのウリは、日没とともにお寺が光輝くこと。お寺の建物はもちろん、路面などにも蛍光塗料が塗られているのだ。また、エントランス部分にはさまざまなキャラクターを模したタイルがあり、子ども達がキャラクターを見つけては大喜びしていた。おそらく、子供が喜ぶ仕掛けを用意することで、お寺へ来る人を増やそうという手法なのだろうが、観光客として訪れても、とても楽しい場所になっている。

  • タイの「ワット・シリントーンワラーム」

    「ワット・シリントーンワララーム」はモダンな雰囲気

タイというとバンコク、そしてパタヤやプーケットといったビーチをメインに考えている人が多いかもしれないが、東北部に足を運べば、その土地独特の文化が体験できるはずだ。

協力:タイ国政府観光庁