久しぶりの運動や、慣れない動きをして筋肉痛になった経験は誰しもあるだろう。子どもの運動会や、筋トレで張り切った後、体の痛みで次の日の仕事に支障が出るのは避けたいものである。そこで筋肉痛を早く治す方法や予防策を、整形外科医の長谷川充子医師にうかがった。

  • 筋肉痛の治し方とは?

    筋肉痛の治し方とは?

筋肉痛の症状

いわゆる運動後の筋肉痛は、強度の強い運動、繰り返し長時間の激しい運動をした後8時間から24時間後もしくは48時間後くらいに起こる筋肉の痛みで遅発性筋痛と呼ばれている。症状は1~3日目くらいがピークでとなり、1週間くらいで回復してくることがほとんどである。

筋肉痛は、普段あまり使わない筋肉を過度に刺激した時に起こりやすい。運動のなかでも、特に筋肉が伸ばされながら張力がかかる伸張性収縮の運動の際に起こりやすく、具体的にはマラソンや短距離走のダッシュ、自転車漕ぎやジャンプ、階段の昇降などが挙げられる。

筋肉痛が引き起こされる原因

この筋肉痛はどのようにして引き起こされるのだろうか。その原因を長谷川充子医師に解説してもらった。

「運動をするとまずは、繰り返される筋肉の収縮で筋線維や周囲の組織は細かな傷がつきます。それだけでは痛みを感じることのない程度の傷ですが、その時に集まったマクロファージという血球からサイトカインやケモカインなどの化学伝達物質が放出され、連鎖する反応により炎症反応が起こります。正確な病態生理学的経路が分かっていないようですが、傷ついた筋線維の修復の過程が始まり、その反応のため痛みが出るといわれています」

ただ、注意しておきたいのは、直後から疼くような痛み、腫れやへこみがあったり、熱をもったり、青あざのように皮下出血などがある場合は、筋肉修復過程の筋線維の細かな傷ではなく、筋線維の断裂や靭帯の損傷などの可能性があるとのこと。いつもの筋肉痛と違う場合は、近くの整形外科を受診すると良いだろう。

年を取ると筋肉痛が遅れてくるって本当?

よく年齢とともに、筋肉痛の出現が遅くなるといわれている。果たして本当なのだろうか。

「筋肉痛の出現には多少の幅がありますが年齢による違いであるということではないようです。また、修復に時間がかかる時間も個人差があります。基本的には1~2週間経っても回復しないなど、筋肉痛にしては長期続く症状や、普段と異なる痛みの場合も整形外科を受診なさってください」

年だから筋肉痛が遅くきたというのは、単なる都市伝説に過ぎないという。

筋肉痛を防ぐ方法

筋肉痛を防ぐための一番理想的な方法は、普段から運動をしておくことだと長谷川医師は話す。

「普段使わない筋肉に過度な負荷がかかるという事態を避けるために、普段からジョギングや階段の上り下りなどの運動を意識しておくことが、なによりも合理的で最も効果的です。筋肉は適切な運動をすれば、何歳になっても鍛えられる臓器です。ただ、一朝一夕には鍛えた効果を得ることはできません。ということで残念ながらこの方法では、来週や特に明日に控えたイベントには効果が期待できないでしょう」

筋肉痛を予防するためには、日頃の運動習慣が大切である。しかし、なかなか運動しないという人のために、今夜にでもできる予防策があるという。

「前日でもできることとしては、前日は飲酒をせずに、ゆっくりお風呂に入り体を温め、血流を良くしてから体をほぐして、早く寝てしっかり睡眠を取ることです。当日も軽く体を動かしてウォーミングアップを行い、下半身のみならず、上半身もストレッチしておきましょう」

筋肉痛は、筋肉の曲げ伸ばしで負担がかかることで起こるため、事前に体を温めたり、ストレッチをしたりすることは予防のひとつとなる。久しぶりに運動をする時は、しっかり体をほぐしてから臨むと良いだろう。

筋肉痛に効果がある食べ物

筋肉に良い食べ物といえば肉と思う人が多いのではないだろうか。長谷川医師によると、タンパク質はもちろん大事だが、なかでも良質なタンパク質を摂ることが重要だという。筋肉を構成するタンパク質のうち収縮を担うアクチンとミオシンであるが、筋線維の増大と分解防止に働く必須アミノ酸のロイシン、バリン、イソロイシンを多く含むもの摂ると良いそうだ。

「豚肉、鶏肉、牛肉に必須アミノ酸は多く含まれるのですが、多く摂ると体内の酸性物質が増え、炎症を起こしやすくなります。食事として摂るタンパク質は、炎症を抑える効果のあるオメガ3系の不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)を多く含む青魚系や、タンパク質だけでなく、ビタミンEの多い大豆食品などで摂るのがおすすめです」

豚肉などの肉類は摂り過ぎないほうが良いとのこと。具体的には、以下のような食べ物がおすすめだという。

●筋肉に良い食べ物
サーモン、カツオ、アジ、サンマ、卵、高野豆腐など

しかし、意識して食事をすることは難しい場合もある。そのような時は、必要な栄養素をサプリメントで摂取するのも効果的だ。

「運動の直前だと、ロイシン、バリン、イソロイシンなどのアミノ酸のサプリメントで摂るのも良いでしょう。特にアミノ酸ロイシンの代謝産物であるβヒドロキシβメチル酪酸(HMB)は筋肉細胞の維持に必要なタンパク質の合成促進と分解抑制に関与していることから、筋肉疲労を軽減することが期待できるというデータもあります。試してみるのも良いでしょう」

これらの栄養素以外にも、タンパク質の代謝に必要なビタミンB群や抗酸化作用のある、カロテン類なども十分に摂ることが大切。よって、野菜や果物も忘れずにたくさん摂ることを心がけると良いだろう。

筋肉痛を治す方法

筋肉痛を翌日に残さないために、運動後や自宅でできることには様々な方法がある。以下にまとめたので参考にしてほしい。

●アイシング
運動直後は、炎症反応を進めさせないために、たくさん使った筋肉を適度に冷やすことは効果的。ただし、極端に大量の氷で冷やす必要はなく、運動後速やかに、20分間くらいを目安にクーリングすると良い。
●ストレッチ
酷使した筋肉は、乳酸などの疲労物質で、張った感じがする。ストレッチは、その筋肉をほぐす働きと、血流を改善させて、疲労物質を押し流す働きがある。
●マッサージ
むやみにもみほぐしたり、強く叩いたりといった刺激は、逆効果になることも。やさしくリンパを流すようにマッサージすると良い。
●お風呂や温泉
運動直後の炎症期にクーリングした後に、お風呂や温泉などでしっかり温めて血流を改善することで筋肉痛を軽減し、筋疲労を最小限にすることができる。
●サプリメント
筋肉を構成するアミノ酸や抗炎症作用、抗酸化作用のあるものをサプリメントで摂ることは回復を助ける意味でも良い。
●薬や湿布
炎症反応を抑えるために、非ステロイド系消炎鎮痛剤の内服や外用も症状を増悪させることを防ぐのには、早めの使用も効果的。

最も大切なのは、これらのケアに合わせてしっかりと休息や睡眠を取ること。体を休めることが回復への近道となる。また、喫煙は血管収縮を起こすため、運動の前後の喫煙は特に心肺機能におけるリスクだけでなく、筋肉痛のリスクも上がる。運動をする時は煙草を控えるようにしよう。

筋肉の修復を促すように、痛みが回復するまで上記の予防と同じようにすることがおすすめだという。また、血流を良くしてくれる効果があるため、翌日から軽いウォーキングをストレッチと合わせて行うとさらに良いとのことだった。

筋肉が強くなる「超回復」とは

筋肉は運動することで、微細な損傷をして筋肉を修復するというサイクルを繰り返すことで太く大きくなる。この過程で、筋肉は強い筋肉に修復しようとするが、これを一般的に「超回復」と呼ぶ。

筋肉運動をしたのち、24時間後から48時間後にかけてが超回復の期間。その時に、軽度の運動でも良いので筋肉運動をすることで、筋力増強を効率よくできるチャンスとなる。

ただし、肉離れなどの筋肉損傷や、関節の痛み、電気が走るような痛みなどは、別の損傷や疾患の可能性があるため、無理に運動をせず整形外科に相談することをおすすめしたい。

「これまでは、筋肉は運動器としての働きが主であり、運動機能や心肺機能を高めるため、もしくは機能低下を防ぐために、運動は健康増進としてすすめられてきました。近年、運動することで、免疫力が改善し乳がん、大腸がん、前立腺がんの再発のリスクが下がったり、筋肉から糖尿病や大腸がんを抑えたりするという多種類のマイオカイン(ホルモン)が分泌されていることが分かってきています」

普段運動をしていないと、その分筋肉痛を感じることが多くなる。筋肉痛は筋肉が太くなる通過点ともいえるだろう。生涯の健康のためにも、自分自身に合った運動習慣を身に付けていきたいものだ。

監修者:長谷川充子(ハセガワ・ミチコ)

整形外科専門医。日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医。日本整形外科学会認定スポーツ医 大学病院の整形外科、総合病院の整形外科医長を経て、現在は整形外科クリニックに勤務し、整形外科の診療をしている。

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