東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会には、どのような最新テクノロジーが投入されるのだろうか。インテルが都内で11日に開催した発表会で、その一端が明かされた。関係者は「東京2020大会は”史上最もイノベーティブな大会にする”というビジョンを掲げている。そのためにも、インテルの技術が欠かせない」と説明している。

  • インテルが東京2020大会に向けたプレス・デーを開催した。同社では「テクノロジーを駆使した斬新なオリンピック体験を提供していく」としている

次世代のオリンピック競技大会へ

インテルでは、世界中から注目を集めるこの大会を「革新的なテクノロジーを披露できる絶好の機会」と捉え、各大会関係者と協力し、画期的なテクノロジーを投入していきたいと考えている。

  • 画期的なテクノロジーにより、次世代のオリンピック競技大会にしていく

登壇した同社のセールス&マーケティング統括本部のリック・エチュバリア氏は、インテルの技術を活用した5G、人工知能(AI)、VR/ARといった最新ソリューションによって、東京2020大会をバックアップしていくと約束する。そして「コネクト」「コンピューティング」「エクスペリエンス」を『取り組むべき3つの重点分野』と定めた。

  • インテルのリック氏が掲げたキーワードは、コネクト、コンピューティング、エクスペリエンス

「コネクト」 - シスコが協力

コネクトの分野では、シスコシステムズと緊密に連携する。5Gによるギガビット接続で没入感の高い視聴体験や、高度な放送サービスを国内外に届けていきたい考えだ。なおインテルでは大会の期間中、ライブストリーミング放送に9,500時間以上が費やされ、デジタルプラットフォームには1万本以上のショート動画がアップロードされると試算している。

  • インテル コーポレーション セールス&マーケティング統括本部のリック・エチュバリア氏(左)と、シスコシステムズ合同会社 代表執行役員社長のディブ・ウェスト氏

シスコシステムズのディブ・ウェスト氏は、東京の前回大会を振り返り「1964年の東京オリンピックは、日本の経済成長において触媒のような役割を果たしました。日本は大会に向けて100億ドルを注いで東京の街を復興させ、社会基盤を整備した。そのときに新しい企業、住宅、高速道路、新幹線が建設されました。それから4年を待たずに、日本が世界第2位の経済大国になったことは、あらためて説明するまでもありません」と語った。同様に、東京2020大会が日本の未来の扉を開くでしょうとした上で「日本の将来に向けたデジタル化に、シスコが寄与できることを嬉しく思います」と笑顔を見せた。

「コンピューティング」 - OBSと連携

コンピューティングに関しては、オリンピック放送機構(Olympic Broadcasting Services、OBS)のヤニス・エクサルホス氏がビデオメッセージを寄せた。同氏は、日本には技術革新の伝統があるとして「オリンピックが世界中に生放送された最初の大会も、1964年の東京大会でした」と紹介。東京2020年も、最新テクノロジーによって世界中のファンに新感覚の視聴体験がもたらされるでしょう、とアピールする。

そのひとつに、3Dアスリート・トラッキング(3DAT)がある。これは、インテルが開発したAIとコンピュータビジョンを駆使したソリューション。複数の4Kカメラでアスリートの「フォーム」と「動き」を抽出して、インテルXeonプロセッサに最適化された高度な姿勢推定アルゴリズムを活用、分析情報をビジュアルに重ね合わせて放送することで、目まぐるしく変化する競技においてもリアルタイムでインサイトの把握ができるほか、ビジュアルのオーバーレイ表示が可能になるという。

  • インテルによる3DAT技術を導入する

また先の平昌2018冬季オリンピック競技会では、インテルTrue VRテクノロジーにより、バーチャル・リアリティの生中継を実現。まるでリアルタイムで競技会場にいるかのような視聴体験をスポーツファンにもたらしたが、東京2020大会では、さらに没入感のある放送を提供していく。開会式、閉会式、陸上競技、体操、ボクシング、ビーチバレーボールなど、様々な競技や会場に最新インフラが配備され、権利を有する放送局から(ライブ放送とオンデマンド放送の両方が)配信される予定だ。

  • イインテルTrue VRテクノロジーにより、さらに進化したVRのライブ放送を提供する

なお上記の例も、「インテルが東京2020大会にもたらす、新しい視聴体験のほんの一部に過ぎません」とヤニス氏。

一方でリック氏は、この新たな視聴体験をもたらすインテルTrue VRテクノロジーについて、別の分野で活用する可能性にも言及した。臨場感たっぷりの仮想会場をつくりあげることで、アスリートはトレーニングに、運営スタッフは研修に役立てられるというのだ。その効果について、リック氏は「その場の状況に応じた判断を下し、その判断が何をもたらすのか、事前に安全な環境で体験できるでしょう」としている。

  • インテルTrue VRテクノロジーを新しい分野でも活用していきたい考え

「エクスペリエンス」 - NECが提供

エクスペリエンスに関しては、まずセキュリティ分野における新技術が紹介された。NECでは、世界トップクラスの顔認証システムを東京2020大会に納入する方針だ。160万件の顔のデータベースから0.3秒で本人確認が行える、顔認証AIエンジン「NeoFace」を活用。関係者エリア入り口に設置されたカメラで来場者を撮影することで、なりすまし入場のリスクを回避し、個人情報の漏洩を防ぎ、身分証明書の確認の待ち時間を短縮させるとしている。

  • 会場のデモの様子。顔認証AIエンジン「NeoFace」が大会の運営をサポートする

NECの榎本亮氏は「顔認証による入場システムの導入は、オリンピック、パラリンピックを通じて史上初の試みです。40を超える競技会場、選手村、メディアセンターにおいて、約30万人の大会関係者(アスリート、運営スタッフ、ボランティア、報道関係者など)を識別します」とアピールする。ちなみに顔認証のシステムにもインテルCore i5プロセッサーが使われている。

  • NECの顔認証システムについて説明する同社 執行役員CMOの榎本亮氏(右の人物)。米国の公的機関で行われているベンチマークテストでも4回連続で第1位を獲得した技術だ

このほか、平昌大会で初めて実施されたeスポーツとオリンピックを連動させた取り組みが、東京大会でも積極的に進められる。大会に先立ち、トーナメントIntel World Openも開催予定。ゲームタイトルには、カプコンの「ストリートファイターV」とPsyonixの「ロケットリーグ」が採用された。インテルではゲーム向けインテルCore i7プロセッサーをはじめ、Intel World Openのライブイベントを支える放送や配信、バックエンド・インフラストラクチャーに使用されるPCなどで大会を支えていくとしている。

  • カプコンの「ストリートファイターV」が採用されることに。同社 小野義徳も喜びを口にした


インテルとパートナー企業による、意欲的な取り組みの数々が発表された今回のプレス・デー。大会組織委員会副事務総長の古宮正章氏は「テクノロジーとスポーツの融合ということが言われる時代。漫然とスポーツを見ていても、もはや物足りない、という感じを持たれる方も増えているのではないでしょうか。いまスポーツ観戦の現場では、観客に新しい視聴体験を提供することが求められています。インテルさんは、世界最大の半導体メーカー。東京2020大会では、インテルさんの技術によって、様々な可能性が引き出されることを期待しています」と期待感を示していた。

  • 東京2020組織委員会 副事務総長の古宮正章氏