毎朝のように通勤電車の中でお腹が痛くなり、途中下車して駅のトイレに駆け込むか、会社まで我慢するかの究極の選択とギリギリの闘いを毎日繰り返す。そんな、お腹弱い系サラリーマンの皆さん、「自分はそういうタイプだから……」と初めから諦めていないでしょうか。

そんな苦悩に対し、腸疾患治療の専門医で、これまでに4万人以上の腸を診てきた松生クリニック院長の松生恒夫氏は、「下痢は体質ではありません。ちょっとした生活習慣の改善で必ず解決できます」と断言します。

  • 通勤時の腹痛に毎日悩んでいませんか?(写真:マイナビニュース)

    通勤時の腹痛に毎日悩んでいませんか?

そこで松生氏に、通勤電車で便意をもよおさないようにするための方法について話を伺いました。

あなたの「下痢レベル」をチェック

ひと口に下痢といってもその原因やタイプは様々あります。そこで、まずは自分自身の下痢の程度を知るべく、松生氏の著書『もう通勤電車で下痢にならない! すべてのお腹弱い系を救う40の方法』(祥伝社)に掲載されている、排便力チェック・生活習慣チェックにトライしてみましょう。

  • 排便力チェック 出典:『もう通勤電車で下痢にならない! すべてのお腹弱い系を救う40の方法』

    排便力チェック 出典:『もう通勤電車で下痢にならない! すべてのお腹弱い系を救う40の方法』

排便力チェックで正常以外の項目が一つでもあり、その状況が持続している場合は、排便異常か何らかの腸の病気を引き起こしている可能性があるので、一度、消化器科を受診して検査を受けることをお勧めすると松生氏。

また、病気がない場合でも、生活習慣チェックが3点以上の人は、生活リズムを見直し、腸のケアを行う必要があると話します。

  • 生活習慣チェック 出典:『もう通勤電車で下痢にならない! すべてのお腹弱い系を救う40の方法』

    生活習慣チェック 出典:『もう通勤電車で下痢にならない! すべてのお腹弱い系を救う40の方法』

通勤中に便意が起こるメカニズム

ところで、排便がどのようにして起こっているのか知っているでしょうか。松生氏に説明していただきました。

「空っぽの胃の中に食べ物が入ると、胃から大腸の結腸に信号が送られ、大腸で『大蠕動』という収縮運動が起こり、結腸にたまっていた便が直腸に移動。直腸にたどり着いた便が直腸の壁を刺激し、それが脳に伝わることで便意が起こります。

1日の中で大蠕動が最も起こりやすいのが、朝食を食べた後の約1時間です。朝食を抜くような生活を続けていると、便意を感じにくくなります。一方で、朝食の代わりに駅のホームでコーヒーを飲むことで、それが引き金となって通勤電車内で強い便意が起こることもあります」。

つまり、通勤中に便意をもよおさないようにするためには、朝食の取り方やその内容を見直すことが大きなポイント。

「朝目覚めて朝食を取り、便意が起きて排泄を済ますまでの時間は家にいるようにする。そんな時間的余裕を持てれば、そもそも通勤中に便意がぶつかることは無いのです。

とは言え、忙しいサラリーマンにとって、それは理想でしかないでしょう。それなら、少し早めに家を出て、職場近くの駅や職場に着いてから朝食を取れば良いのです。それだけで、通勤電車の中での苦しみから逃れることができます」。

  • 松生クリニック院長 松生恒夫氏

    松生クリニック院長 松生恒夫氏

加えて、普段から下痢しやすい人は、意識的に消化の良いものを選ぶようにすることも大切だと松生氏は言います。

「下痢は、思っている以上に食べたものから誘発されています。お腹の弱い人ほど、食べ物の選び方には注意が必要です。例えば、コンビニで朝食を選ぶなら、おむすび、みそ汁、サラダといった、バランスの良い組み合わせがお勧めです」。

逆に避けたほうが良いのが、菓子パン、そば、豚肉やさばなどの脂肪の多い肉・魚、生野菜や繊維の多い野菜などだそう。また意外にも、寝る前のアルコールが通勤中の下痢の原因になっている場合もあると松生氏。

「アルコールには小腸を刺激する作用があるため、腸管での水分の吸収が阻害され、便に水分が増えてしまい、下痢が起こりやすくなります。夜遅い時間までお酒を飲み、朝目覚めて朝食代わりにコーヒーなどを飲んで胃の中に水分が入れば、大蠕動が起きて通勤中の便意発生確率はアップ。しかも軟便はガマンしにくいため、強い便意に襲われてしまいます。

心当たりのある人は、アルコールを控えることで症状が劇的に良くなるでしょう」。

お勧めは植物性乳酸菌で根本改善

通勤中の下痢を抑えるには、生活習慣の改善だけでなく、より根本的な腸内環境の改善も必要です。それに役立つものとして松生氏が勧めるのが植物性乳酸菌。文字通り、野菜や果物などの植物質に生息する乳酸菌で、ヨーグルトなどに含まれる動物性乳酸菌よりも生命力が強く、近年その力が期待され、注目が集まっています。

「お勧めは、植物性乳酸菌の一つであるラブレ菌。私のクリニックに来院する患者さんを対象とした調査でも、下痢症状に有効に作用することが分かっています。ラブレ菌は京漬物の『すぐき漬け』に多く含まれていますが、毎日取るのはなかなか難しい食品なので、手軽に、ラブレ菌入りのドリンクやサプリメントを活用しても良いと思います」。

一方で、緊急事態での便意のコントロールには薬を活用するのも一つだと松生氏。ただし、やみくもに飲むのではなく、専門医を受診して適切なものを適切に服用することが大事だと言います。

「市販の薬で便意をガマンしていると、次第に便意が発生しにくくなり、自然な排便が困難になるリスクがあります。通勤中につらい思いをしていている人は、ぜひ一度、消化器専門医に相談してみてください」。

取材協力:松生恒夫(まついけ・つねお)

医学博士 松生クリニック院長
1955年生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。同大学第三病院内科助手、松島病院大腸肛門病センター診療部長などを経て2004年東京都立川市に松生クリニックを開業。現在までに4万件以上の大腸内視鏡検査を行ってきた腸疾患治療の第一人者。