7月9日、豊島将之棋聖に渡辺明二冠が挑戦する第90期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第4局が新潟市「高志の宿 高島屋」で行われ、渡辺二冠が勝ってシリーズ成績を3勝1敗として自身初の「棋聖位」を獲得するとともに、2013年以来約6年2カ月ぶりに三冠(棋王・王将・棋聖)に返り咲きました。

豊島棋聖の先手番2度破り戴冠 

久々の三冠返り咲きを果たした渡辺新棋聖。第32期竜王戦での四冠も見据える

本シリーズは渡辺二冠が先手の第1局、第3局は矢倉系、豊島棋聖が先手の第2局は角換わりへと進みました。第4局もやはり相居飛車でしたが、後手の渡辺二冠が4手目に自ら角道を止めて角換わりや横歩取りの可能性を消し、近年優秀性が認められ、プロ間で多く指されるようになった「雁木囲い」を築く趣向を見せました。対する豊島棋聖は「左美濃」に玉を収めて飛車のいる2筋から先に攻撃を仕掛け、相手の陣形をへこませる戦果を得ます。渡辺二冠は自分の駒が邪魔で玉が逃げられない「壁形」の悪形を強いられましたが、こちらも負けじと自身の飛車がいる8筋から攻める態勢を整えました。

圧巻だったのは53手目から57手目までの5手。豊島棋聖が渡辺二冠の7筋の桂を目標に歩を突くと、渡辺二冠は8筋の歩を進め、歩の成りを見せます。豊島棋聖は構わず7筋の歩をもうひとつ進め、こちらも桂を取りながらの歩成りを見せました。そして、渡辺二冠が8筋の歩を成った手に対し、何と豊島棋聖はその手にも相手をせず7筋の歩を進めて歩を成ったのです。

譜号で書けば「▲7五歩△8六歩▲7四歩△8七歩成▲7三歩成」。「▲」が豊島棋聖、「△」が渡辺二冠の手となります。攻めたり受けたりのねじりあいではなく、互いに指したい手だけを指したような強気の応酬で両者とも急所に「と金」を作り、局面は一気に終盤戦へと突入しました。終盤戦の焦点は、渡辺二冠が少ない攻め駒で豊島玉を攻略できるかどうか。何せ自陣は「壁形」を抱えています。ゆっくりした攻めでは豊島棋聖に壁の反対側から攻められ、渡辺玉は逃走経路がないのです。

細い攻めをつなぐ技術に定評がある渡辺二冠は、盤上の龍、馬(※成った飛・角)、銀と、持ち駒の歩を駆使して、徐々に豊島玉を追い詰めてゆきます。そして、決め手は金銀交換。終盤戦では金のほうが銀より役に立つことが多いため、自分の銀を相手の盤上の金と交換する手筋が頻出しますが、この対局においては自分の金を相手の盤上の銀と交換する、あまり見られない異筋の手が絶好の寄せとなりました。豊島棋聖も手を尽くして玉の延命を図りますが、渡辺二冠の正確な指し手の前に無念の投了となりました。

久々の三冠となった渡辺新棋聖。他棋戦での主な勝ち上がりを見ると、第32期竜王戦ランキング戦1組優勝があります。決勝トーナメントは参加11人のうち最も挑戦権に近い準決勝からの登場で、現在の充実ぶりを見れば自身初の四冠保持を達成しても不思議ではありません。

一方、自身初の防衛戦が失敗に終わった豊島名人ですが、もう一つの防衛戦、木村一基九段を挑戦者に迎え第1局を制した第60期王位戦七番勝負の第2局が7月30、31日に行われ、またその前にも第67期王座戦挑戦者決定トーナメント準決勝の対羽生善治九段戦や、第32期竜王戦決勝トーナメントの対藤井聡太七段戦と、タイトルに直結する対局が組まれています。失意に沈んでいる場合ではありません。対局に勝って、タイトルを「減らさず増やす」としたいところです。

三冠と二冠による棋界頂上決戦は渡辺新棋聖誕生で幕を閉じました。4局とも熱戦で、「頂上」の名に恥じないシリーズとなりました。タイトル戦番勝負では初対戦でしたが、これからも両者による多くの名勝負、名シリーズが見られることと思います。