7月3日に日本デビューを果たしたアウディのフラグシップSUV「Q8」。個性的なフロントデザインとクーペスタイルが、見るものにアグレッシブな印象を与える大型SUVだ。このクルマをデザインしたのは、アウディAG エクステリアデザインチームリーダーのフランク・ランバーティ氏。Q8発表会のために来日した同氏に、デザイナーとしてのルーツや考え方について話を聞いた。

  • アウディの新型車「Q8」

    東京都現代美術館でお披露目となったアウディ「Q8」(本稿画像の撮影:原アキラ)

まず、アウディでのランバーティ氏の経歴を聞いてみると、「私の年齢は秘密です」(以下、発言はランバーティ氏)と笑わせた後、「デザインの仕事は、アウディでもう20年になります」と話が始まった。初期の大きな仕事は、同社の日本人デザイナーとして有名な和田智(さとし)氏がシニアデザイナーを務めたコンセプトカー「アヴァンティッシモ」(2001年)のアイデアを形にしていくことだったという。

その後は、「ル・マン」に出場するレーシングカー「R8」「R10」「R15」(1999年~2010年)を続けて担当。そこでは、レーシングスピードにおける空力性能など多くを学んだという。その間、スポーツカー「R8」の初代モデル(2006年)もデザインしており、チームリーダーになってからは、社内コードで「B9型」と呼ばれたミドルクラスセダン「A4」(2015年)、自動運転電気自動車(EV)のコンセプトカー「アイコン」(2017年)などのデザイナーを歴任した。「セダン、スポーツカー、レーシングカー、スタディモデルなど、幅広いデザインをやってきたので、どんなことにもお答えできる『カー・ガイ』(クルマ好き)です」というのが同氏の自己紹介だ。

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    新型車「Q8」のボディサイズは「55 TFSI quattro」というグレードで全長4,995mm、全幅1,995mm、全高1,705、ホイールベース2,995mm。同グレードの価格は1,010万円だ。エアサスペンションを装着する「debut package」は全高が1,690mmとなる

「Q8」はアウディデザインの“母”になる?

「クルマで最も重要なエレメントがフロントデザイン、すなわち顔です。大きいSUVにはアグレッシブな顔が必要です。それを追求する方法はいくらでもありますが、我々の中には『クワトロ』というデザインがあり、今回、それを取り上げています」とランバーティ氏。クワトロとはアウディ独自の4輪駆動システムのことだ。

Q8のグリルを見ると、トリムはボディ同色のほか、クロームとアルミが選択できる。全てブラックにすることも可能だ。そのルーツでありインスピレーションの源となっているのは、1980年代の「スポーツクワトロ」であるという。

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    「Q8」のグリルには多彩なバリエーションがある

アウディでは、デザイン統括がマーク・リヒテ氏に変わってから、デザインの傾向が変わったように思える。そんな質問に対しては、「新しい『A8』がその最初で、『A7』に降りてきて、『A6』『A1』が出てきました。『Q2』(SUV)は中間的なもので、全く新しいのがQ8です。基本は“クワトロ”というパワートレインをきちんと表すということで、エレガンス、力強さ、洗練、スポーティーさなど、表現の仕方が違うだけです。シングルフレームグリルは『A』が水平的で、『Q』は8角形になっています。AとQは、見てすぐに分かるようになりました」との答えだった。

Q8のデザインについては、「“男らしい母親”です。あるいは、“灯台”といっても良いかもしれません」とする。その意図は、このQ8が今後のアウディ車にとって、デザインの方向性を決めるクルマになるということだ。

「これから出てくるモデルのエレメントが、全て詰まっているのがQ8なんです。そういう意味で“マザー”という言葉を使いました」。もうすぐ日本に導入となるSUV「Q3」を見れば、この言葉の意味が理解できるそうだ。

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    「Q8」はアウディデザインの今後を指し示すクルマでもある

ドイツ御三家の競合車について、ランバーティ氏はどう考えているのだろうか。

「BMWの『X6』とか、メルセデスの『GLEクーペ』は、とても力強いデザインです。それらと同じリーグで戦うには、私たちにも力強いデザインが必要でした。発表会では“クリア”という言葉を使いましたが、シンプルでクリアなところがQ8の良いところです。メッセージがはっきりしていると思いませんか」

そんな逆質問に「伝わってきました」と答えると、「デザイナーとしての最高の褒め言葉は、それなんです。例えば誰かがアウディのクルマを見て、『メルセデスみたいだね』とか『BMWみたいだね』といったとしたら、『ああ、デザインを間違えてしまった』ということになるんです。だから、Q8にはアウディのアイデンティティ(前出のクワトロの話)をもたせたいと思ったんです。たぶん、失敗してないと思ってますよ!」とランバーティ氏。競合各社もSUVクーペを上市しているが、Q8では違いを明確にできたとの手応えを得ている様子だ。

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    自動車業界で増えるSUVクーペだが、アウディは「Q8」で違いを見せられたと考えているようだ

カーデザイナーという仕事を選んだ理由

「好きなクルマは?」との問いにランバーティ氏は、まず、アウディで自身がデザインを担当した初代「R8」を挙げた。3年前、ようやく自分でも手に入れることができたそうで、15年前にデザインしたクルマであるにも関わらず、今でもフレッシュでモダンに見えるところが気に入っているとのことだった。

アウディ以外では、フォルクスワーゲン「カルマンギア」とポルシェ「904」に惹かれるという。前者はとにかく美しい。そして904は、R8をデザインする際にインスパイアされたクルマだったそうだ。904について同氏は、「今では高すぎて買えません」と嘆きつつも、「とにかく、そのサイドビューを見てください」と熱を込めた。こういった言葉からも、同氏のクルマ愛が伝わってくるようだった。

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    クルマ好きであることを会話の端々で感じさせたランバーディ氏

ランバーティ氏は物心がついたころからの「カー・フリーク」(クルマ好き)であり、「ペトロ・ヘッド」(ガソリン頭)であると自らを表現する。子供の頃からいつも、クルマを見てはスケッチしていたそうだ。ある時、「クルマのデザインは誰が考えるのだろう」と思い、全く新しいクルマをゼロから作るというのは、すごいことだと気がついた同氏は、カーデザイナーという職業を意識し始めた。当時は、スーパーカー「クンタッチ」(ランボルギーニ・カウンタックのこと)のようなクルマを、一度でいいからデザインしてみたいと考えていたという。

「よくある男の子でした。父親はメルセデスに乗っていましたが、好きじゃなかったんです。シャープなノーズやクリアなデザインを持つBMWの方が好きでした(笑)」

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    「Q8」でもクリアなデザインにこだわったとランバーティ氏は語っていた。「三つ子の魂百まで」といったところだろうか

ペトロ・ヘッドのランバーティ氏だが、電動化と自動化がキーワードとなりつつある自動車業界において、今後のクルマはどのようになっていくと考えているのだろうか。最新の傾向を知りたいならば、コンセプトカーをじっくり見るのが最良の方法だというのが同氏の考えだ。

「現代のクルマのアーキテクチャーを考えると、自動運転や電動化など、いろいろなファクターが絡んできます。一番いい方法はどれなのかというせめぎ合いがあるんです。それらを将来、どう表現していくのか。限られた条件の中でやっていくのが、デザイナーの腕の見せ所です」

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    クルマのデザインは、空力や安全性など、さまざまな制約を乗り越えてきた。今後は電動化や自動化にも対応しなければならない

「デザインには、丸みを帯びた『カルマンギア』であったり、シャープな『ゴルフ1』(フォルクスワーゲンの初代ゴルフ)であったりと、世代交代があります。うまくいかないものがあれば、次のデザインが出てくる。今は、エアロダイナミクスや安全性能など、クルマのデザインにも複雑な条件をクリアすることが求められます。私個人としては、将来、本当にライトな小型車をデザインしたいと思っています。ただし、今回のQ8は大きなクルマでした。でも、乗ってみるとすごくスリムなので、いいクルマですよ!」

インタビューの最後では、新型車のアピールも忘れなかったランバーティ氏。生粋のペトロ・ヘッドが今後、どんな姿をしたクルマを生み出していくのかも楽しみになった。