――一方で、剣と剣がぶつかりあう時代劇の緊張感を表現する手法として、"光"と"影"のコントラストを強めるライティングなどもよくありますね。

時代劇では「必殺シリーズ」の映像美が好きですし、そういう明暗の濃い"際立った"照明もやってみたくなるんですよ。もう、暗いところは真っ黒にするような。でも、観る方にとっては好き嫌いがわかれる部分でもありますから、あまりマニアックな演出になりすぎないよう注意はしています。 "ニチアサ"をやっているときもよく悩んでいたことですけれど、僕は基本的に極端な演出が好きなのですが、ただ極端な画面作りをするのではなく、視聴者の嗜好とどのように合わせていくか、自分が監督をやる上で、難しいと思うのはそこですね。

――時代劇に初挑戦される、犬飼貴丈さんほか映画のキャスト陣の印象はいかがでしたか。

いわゆる伝統的な"時代劇"の立ち振る舞いをしてもらうための、時間的余裕がまったくなかったこともあって、いま現在の犬飼そのままの姿を表現しようと考えました。ですから、武士とは何か、とか隠密とはこうあるべきなんだ、みたいな指示はせずに、役者・犬飼の姿をありのままで描こうとしました。御前試合で凛ノ介と勝負をする寺脇甚八郎役の武田航平や、町医者・真咲一馬役の久保田悠来たちもそうだったんですけれど、京都で本格的な時代劇を撮る、ということで少し"構えて"しまうというか、冒険せずにさしさわりなく役を演じようという気持ちを最初感じたんです。そうではなくて、もっと役者それぞれのキャラクターが前面に出るような、もっと"はちきれた芝居"を、と要望しましたね。彼らは時代劇のスターではないので、時代劇を無理して作ることはないぞって。いい意味で"遊んで"ほしい、もっとハジケていいんだよって各人に言いました。僕自身、本格的な時代劇をいま作れと言われてもできませんしね。そんなことを話しながらやってきていましたので、最後のほうではみんな"現代劇"を撮っている感覚になってきました。

――お話をうかがっていますと、スケジュールにもっと余裕があれば役者さんたちも事前に撮影所の現場になじんで、時代劇の世界観を掴むまでの準備期間があったら、もっと作り方が変わってきていた、ということなんだとわかります。

映画というのはそういうものであって、時間をかけて準備をして、じっくりと撮影するのがいいんです。それが本来の姿。でも現実はそうじゃなくてね。パッパッと手際よく撮らないといけない。ほんとうは2度、3度テイクを重ねておきたいところを、1回でガマンするなんてことはザラにありました。それでも、どんな条件でもきちんと自分に与えられた仕事をこなすのがプロだと思っています。

――ヒロインの八重を演じられた優希美青さんはいかがでしたでしょうか。

彼女はまさに八重のイメージにピッタリでしたし、現場でもしっかりとイメージどおりに演じてくれました。こちらからの要求にも応えてくれましたし、キャスティングには満足しています。こちらがどんなことを考えているかを理解することのできる、頭のいい人だと思いましたね。

――映画が完成した現在、"本格的な時代劇""若者層にもアピールできる時代劇"という、当初の命題はクリアできたと思われましたか?

一旦撮影に入ってしまうと、お客さんのことを考えないで撮っていくものなんです。現場で"ソロバン"をはじきながら……なんて、器用なことができないんです。自分が観たいものを撮る、それしかできないんですよ。作品が完成した後、お客さんがどのように作品を観てくださるか、というのは、僕が引き受けることではないと思っています。ただ、プロデューサーは僕に対して「もうちょっとお客さんのことを考えて撮ってもらったほうが……」なんて思っているかもしれないでしょうけれどね(笑)。

――本作の中で、石田監督が特に気に入っているシーンがあったら、ぜひ教えてください。

凛ノ介と八重がお互いの心情を吐露する場面ですね。あそこは音楽の効果とも相まって、狙いどおりの表現ができたと思っています。

――映画『GOZEN -純恋の剣-』に続いて、また時代劇を撮ってみたいというお考えはありますか?

機会があったら、またやりたいジャンルではありますね。それにしても今回はスケジュールに泣かされました。スタッフさんたちと一度だけ飲んだことがありましたが、本当はキャストのみんなも連れていきたかったですし……。こんど京都で映画を撮るんだったら、数か月かけて……いや、1年くらいの撮影期間を設けてすごい作品を作り上げてみたいかな(笑)。ともかく今回の『GOZEN -純恋の剣-』、昔からの時代劇ファンの方にも、時代劇を初めて観るという方にも非常に"観やすい"作品に仕上がっていますので、ぜひお楽しみいただきたいところです。

『GOZEN-純恋の剣-』あらすじ

幕府の隠密・青山凛ノ介は、幕府への謀反を企てている疑惑がある府月藩に潜入していた。その証拠となる書状が筆頭家老・神谷眞三郎の元にあるという情報を掴んだ凛ノ介は、神谷が参列する祭りに出かける。そこで美しい娘・八重と出会う。二人は瞬間的に惹かれ合うが、八重は他ならぬ神谷の娘であった。心を乱しながらも隠密としての使命を全うしようとする凛ノ介だったが、凛ノ介を隠密と疑う府月藩士・寺脇甚八郎が神谷と手を組み、八重との縁談を進め「御前試合で勝てば八重をくれてやる」と挑発する。だが、それは隠密たちを炙り出して公開処刑するため、藩主・望月甲斐正が企んだ死の宴であった――。

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