いよいよきょう17日に最終回を迎える窪田正孝主演のフジテレビ系月9ドラマ『ラジエーションハウス~放射線科の診断レポート~』(毎週月曜21:00~)。ラストの演出を担当するのは、『ロングバケーション』『古畑任三郎』『ショムニ』『HERO』など、同局を代表する大ヒットドラマや、1月に公開された木村拓哉主演の映画『マスカレード・ホテル』を手がけてきた鈴木雅之監督だ。
そんな監督の作品を見続けてきた「テレビ視聴しつ」室長の大石庸平氏が、演出の背景や出演者の魅力、そして最終回の見どころなどを聞いた――。
■高橋由美子が「私はどうなったの!?」
――鈴木監督の作品は『HERO』や『ショムニ』など、群像劇が多いですよね。以前西谷弘監督(※1)にインタビューした際に、「キャストが大勢だとパンクするので絞る」とおっしゃっていたんですが、鈴木監督の場合はいつもいろんなキャラクターが登場してキャラも立っています。演出のコツなどあったりするんでしょうか?
これはもうね、1人1人にただただ手を抜かないことですね。大変なんだけど、ここはいいやってならないように、10人いたら10人全員に手を抜かないということ。西谷はああいう人物を絞った演出が得意だけど、俺は群像劇が好きだからね。台本を読んでいて、この状況で、ここにいないあの人は何やってるのかな?って考えるんですよ。放っておかれる人が出ちゃうと群像劇になっていかないから、そこに手を抜かないということを自分に課しています。
(※1)…手がけた作品は『美女か野獣』『白い巨塔』『エンジン』『ガリレオ』『任侠ヘルパー』『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』『モンテ・クリスト伯―華麗なる復讐―』など。
――場面ごとにセリフがないキャラクターにも、しぐさをつけたりするんですか?
それもそうだし、一言セリフをつけるということを僕はしますよね。10人のうちで重要なセリフを言う人が2人だとしたら、あとの8人はどうするかって考えてセリフをつけたり、何かをやってる姿を映したり、手を抜かずに演出をつけていくって感じです。たまに忘れることもあるけどね(笑)
――そんなことあったんですか!?
『ショムニ』はメインのキャラクターは6人いるんだけど、彼女たちを横にパン(水平移動)していく場面を撮って、編集で最後のほうをカットしたんだけどね、オンエア見ると5人しかいなくて(笑)。本当は、そのあとにもう1人いたんですよ。それが高橋由美子だったんだけど、オンエアした途端に高橋由美子から電話がかかってきて「私はどうなったの!?」って言われた(笑)。そういうことがあるから、誰か忘れてる人がいないか、いっつも思ってる。だから、1人1人って考えていくと全員抜く(映す)ってなったりするんですよね。
――なるほど。だから監督は1人1人のリアクションをアップで撮っていく演出を多用するんですね。今回は全員のデスクが横並びになっていたり、セットがすごく面白いですよね。どんなイメージがあったんでしょうか?
実際の放射線科もドラマのセットにあるように、患者さんが待っているスペースがあって、MRIがあって、その裏に彼らが働くスペースがあるんですよ。取材で病院を回ると、動線とかを考えていろんな工夫がなされていたので、そういうリアルな現場を参考にさせてもらったのと、『HERO』『ショムニ』もそうですけど、ちょっと舞台っぽい設定を作りたいんですね。セットである良さを出したいんです。リアリティを求めるのであればロケでいいじゃんってなるけど、セットを作るときはある程度舞台っぽいものを目指す傾向がある。だから、「撮りやすいから」とかじゃなくて「舞台をやるとしたらどうやるんだろう」っていうのを考えて作るんですよ。セットを考えるのはいつも楽しいですね。
――『HERO』がそれぞれの部屋を行き来する様子を上から撮っていた一方、『ラジエーションハウス』は横並びのデスクなので、今回は横からというイメージがあったのかな?と想像していました。
『HERO』はまず扉がイメージとしてあって、扉が開いて向こうの部屋が見えてしまったとか、扉の関係性みたいなものが出せたらいいなと思ったんですね。今回はチームものなんだけど、向いてる方向はみんなバラバラというイメージです。囲んでいるわけじゃなくて、そっぽ向いてるみたいな感じなんだけどチームであるっていうのがいいなという発想から、あのセットになったんです。
■意識したとすれば『ショムニ』
――世間ではその「HERO」を思い出すと、類似性が指摘されていますね。
オープニングが似てるとかね(笑)。あれはしくったねぇ(笑)
――『HERO』だけじゃなくて『ショムニ』も同じような群像劇ですし、平成も終わったので監督の“ベスト盤”みたいな意識があるのかな?と勝手に思っていました。
そんな気は全くないですし、『HERO』も意識したつもりはないんですよ(笑)。西谷がやったら西谷っぽい演出になるじゃないですか、だからそういうことなんですよね。だけど『HERO』だと言われるのは、みんな見てくれていた作品だからでしょう。『HERO』じゃなかったらこんなに言われてないだろうし、それだけ愛されてる作品なんだなって思いますね。ただ、何かを意識したとすれば『ショムニ』(※2)かな。設定的に、病院の中で日の当たらない人たちというか、ある種見下されているような人たちがカッコいいというお話を作りたかったから。
だから後半はなるべく『HERO』っぽくしないようにって思いました(笑)。ただね、好みの画がそういう画だからしょうがないんですよね。正面に入ったり、シンメ(シンメトリー、左右対称の画)になったり…。それはいつもやってることで、自分のルールとしてやろうっていうのではなくて、なんか見ててそっちのほうが気持ちいいから、そうなっちゃうんですよね。
(※2)…OLの掃き溜めと呼ばれている庶務二課(ショムニ)の面々が、満帆商事で巻き起こす痛快ドラマ。
――音楽が「HERO」と同じく服部隆之さんですよね。
(似ていると言われるのは)それも大きいよね!(笑)
――今回のメインテーマは『HERO』のようなアップテンポではありませんが、どんな発注をされたのですか?
服部さんは彼なりに『HERO』っぽくしないように頑張ってくれたんですよ。だけど中野(利幸)プロデューサーが『HERO』が好きだっていうので(笑)、その良いバランスのものを書いてくれました。今回は「誇り」がテーマになっていて、アップテンポではなくどっちかというと『炎のランナー』(81年、英映画)みたいな曲をベースに作ろうと相談しました。まさに「誇り」という感じで良い曲ですよね。
――『ショムニ』『HERO』と違うなと思ったのは、圧倒的な主人公がいてそれに周りが影響されていく話ではなくて、主人公自身の成長や葛藤を描いている点です。
そうですね。いつもやってるのは成長ものではなくて、チームが出来上がっていくという話をやってきたんですけど、今回は主人公が『ショムニ』の坪井千夏や、『HERO』の久利生公平のようにゴジラみたいなやつではないので(笑)。だから主人公も悩んじゃうんです。