ネオキャリアは5月16日、トークイベント「就活@LIVE」を開催した。このイベントは、漫画家・三田紀房氏(以下、三田氏)をゲストに、就職・採用活用の「現在」をリアルに語り合う内容だ。

三田氏といえば、2005年に第29回講談社漫画賞、および平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した『ドラゴン桜』(講談社)や就活漫画『銀のアンカー』(集英社)が代表作で、現在も連載中の『アルキメデスの大戦』(講談社)が今夏映画化されるなど、いわずと知れた超人気作家。

本稿では、三田氏、採用コンサルタント/アナリストの谷出正直氏(以下、谷出氏)とライフネット生命 人事担当マネージャーの篠原広高氏(以下、篠原氏)の3名によるトークセッションを紹介したい。

  • 左からネオキャリア 就職エージェント事業部長 小堀一雄氏、漫画家 三田紀房氏、ライフネット生命 人事担当マネージャー 篠原広高氏、採用コンサルタント/アナリスト 谷出正直氏(写真:マイナビニュース)

    左からネオキャリア 就職エージェント事業部長 小堀一雄氏、漫画家 三田紀房氏、ライフネット生命 人事担当マネージャー 篠原広高氏、採用コンサルタント/アナリスト 谷出正直氏

形式的なインターンシップでは意味がない

セッションのテーマは、昨今の新卒採用事情や今後の動向について学生目線・企業目線の両軸から話し合う形となる。まずトピックとして挙げられたのが「インターンシップ」だ。

谷出氏「いまや学生の8割が参加している。インターンシップから告知が始まって、そこから選考していこうという動きがある」。

これは大きなトレンドのようだが、他方、篠原氏によると「インターンシップを行わない企業もある」とのことで、二極化している現状だそうだ。

篠原氏「インターンシップをただやるというだけでは学生が集まらないので、別のところで戦うという企業もある」。

こうした昨今の傾向について、三田氏と谷出氏は次のように問題点を指摘した。

三田氏「年数がだんだんと経つと、インターンシップ自体がひとつのお守りみたいになってくる。システムとして稼働し始めると 他社がやっているのにうちはやらないわけにはいかないと不安になって、日本人の国民性というか、業界一体を巻き込んでどんどん大きな渦になってしまう。学生の側も行くことが目的化していってしまう」。

谷出氏「採用担当者側もなぜやるかの目的を明確化しなければならない。ただ他がやっているからやるという形式だけでは参加者もつまらないので、採用につながっていかない」。

つまり、企業側は「なぜインターンシップを実施するのか」を意識しなければならない。参加することでどんな学びがあるのか、という学生の疑問に対してどう回答できるか?を考えて実施する必要があるという。

  • 企業側は「なぜインターンシップを実施するのか」を意識しないといけないと話す谷出氏

    企業側は「なぜインターンシップを実施するのか」を意識しないといけないと話す谷出氏

企業の働き方改革に就活生も注目

就職活動においても、「働き方改革」は切り離せないテーマの1つといえるだろう。モデレーター役のネオキャリア 就職エージェント事業部長の小堀一雄氏は「就活生が持つ働き方について気になるポイント」を紹介した。

それによると、「がむしゃらに働くことも厭わないので特に気にしない」(7.1%)で、前年の12%から5ポイント減少したそうだ。学生の側の働く意欲が変化してきていることが見てとれるが、これに対し、登壇者は次のように見解を述べた。

谷出氏「働き方改革が注目されているのは報道されているから。20年前に"24時間戦えますか"というCMコピーがあった。今それを言うと『ブラックじゃない?』と言われてしまうが、がむしゃらに働きたい人は今もいる。要はそういう会社でそうじゃない人が働くというのが問題。本人の価値観と会社の価値観が一致していることが大事」。

篠原氏「中小企業に働き方改革は難しいのではないか? という疑問は間違っている。ベンチャーは変えなければならない壁は少ない、むしろ経営者の腹のくくり方でしょう」。

  • 働き方改革の壁は中小企業では少ないと話す篠原氏

    働き方改革の壁は中小企業では少ないと話す篠原氏

三田氏「働き方というマイナーチェンジを重ねても、なかなかうまくいかないと思っている。今やられていることは小手先でなんとかしようとしている手法にしか思えない。日本人の人生哲学みたいなものを変えていく。そういうことを真剣にみんなで考える時期に来ている」。

三田氏はそのうえで、アメリカ人と日本人の違いを例に、次のように提案した。

三田氏「仕事でも『楽しむことが大事』と考えるアメリカ人に対して、日本はマンパワーでなんとかしようと思ってしまう。人生哲学がそもそも違う。個人の頑張りとか気持ちで乗り越える時代とは決別する時期にきている」。

紹介されたアンケートでも、人生を楽しみたいという学生の増加が見てとれた。そうした変化を受け止め、対応できる環境を作る。

そう考えないと働き方改革は成功しないという認識を、日本全体で共有できるかが国際競争に勝っていくための鍵だと三田氏は言う。

  • 日本人の人生哲学みたいなものを変えていく時期だと話す三田氏

    日本人の人生哲学みたいなものを変えていく時期だと話す三田氏

気持ちではなく仕組みで人を動かす

学生側・企業側には何が求められるのか、登壇者はそれぞれ次のように話してセッションを総括した。

「学生時代は『私』が主語の消費者側、対して社会人は価値を提供する生産者側。詰め込み教育により、大学生になるまでそうした『当たり前』を知る機会がなかった。社会は正解がなく、納得解を求める世界。社会を知る機会をどんどん増やしていくべき」(谷出氏)

「学生たちの思考性や考え方が変化してきている。10年前の学生は社会貢献に対する関心が大きかったが、今は自己実現重視。企業側は就職によるメリットを得られる環境を整えないと採用ができない。彼らのニーズを捉えた環境整備が企業側には大事」(篠原氏)

「人を動かすために、目標やメンタルなど『気持ち』で解決するのをまずやめる。私の職場では、気持ちよく仕事を続けてもらうためのシステム(仕組み)で人を動かそうと試みて成功した。システムができると、後はルーティンを繰り返していくだけ。また、リーダーがコントロールできていれば周りがついていく。しっかりとしたリーダーを育てるというのもひとつの鍵になる」(三田氏)