阪急電鉄は3月23日から、京都線の新たな観光列車「京とれいん 雅洛」を運行開始。特別料金不要とは思えない豪華な内装が評判となっているという。筆者もゴールデンウィーク期間中に河原町駅から梅田駅まで乗車し、評判通りの列車か確かめた。
「京とれいん 雅洛」は土日祝日ダイヤの適用日に梅田~河原町間で運行される。新造車両ではなく、おもに神戸線・宝塚線で活躍する7000系を改造した6両編成。先輩にあたる6300系「京とれいん」のイメージをベースとしつつ、「ご乗車されたときから京都気分」をコンセプトにデザインされた。愛称の「京とれいん」は「お客様を京都までお運びする車両」、「雅洛」は「雅な都へ向かう車両」との思いを込めたという。
車内は多種多様な装飾が施された。先頭車の1・6号車はドア間の座席が畳調のボックスシートに。中間車の2・5号車はロングシートを基本とし、円窓付近に「枯山水の庭」(2号車)・「京町家の坪庭」(5号車)と畳座席を設置した。3・4号車は窓向き座席と1人用座席の組み合わせで、窓向き座席から車窓の風景を存分に楽しめる。
「京とれいん 雅洛」は快速特急として運行され、京都線の特急停車駅のうち、茨木市駅・高槻市駅・長岡天神駅は停車しない。同じく京都線を走る「京とれいん」の種別は快速特急Aとされ、十三駅も通過となる。「京とれいん 雅洛」「京とれいん」は交互に運行され、ダイヤは阪急電鉄のサイト内でも公開されている。両列車ともに特別料金は不要で、梅田~河原町間であれば普通運賃の400円で乗車できる。
■窓向き座席を利用、いつもと違う景色に見える
ゴールデンウィーク期間中の「京とれいん 雅洛」は混雑が予想されたため、発車の約30分前から河原町駅の2号線ホームで待つことにした。さすがに誰もいないだろう……と思ったが、すでに到着を待つ人を見かけて驚いた。12時15分、梅田発の快速特急「京とれいん 雅洛」が河原町駅に到着。阪急電鉄の基本塗装であるマルーン色を基本としつつ、京都を感じさせる植物のラッピングが施され、華やかな印象を与える。
車内に入り、第一印象は「とても電車の車内とは思えない」というものだった。まるで高級ホテルか高級レストランを訪れたようなカルチャーショックを受けた。全体的に和をベースとしつつ、モダンな雰囲気も感じさせる。個人的には、車内にいながら京都を体感できる「京町家の坪庭」(5号車)が気に入った。
今回は4号車の窓向き座席を利用した。座席の前に円窓が設置されており、車窓を心行くまで堪能できる。カウンターが予想以上に広く、弁当を広げるにも十分。実際、多くの乗客がカウンターを利用し、弁当などを食べている様子だった。
「京とれいん 雅洛」は12時41分に河原町駅を発車し、すぐに烏丸駅に到着する。京都市営地下鉄烏丸線と接続するこの駅で、4号車はすべての座席が埋まった。時間帯にもよるだろうが、梅田行で座席を確保するなら河原町駅から乗ったほうが良く、烏丸駅からでもかろうじて座れる可能性がある、といったところだろうか。
烏丸駅を発車し、大宮駅・西院駅を通過したところで地上に出る。12時45分頃、京都本線のハイライトのひとつである桂川を渡った。桂川とその後方にそびえる西山との組み合わせがなかなか良い景色だ。
12時48分、嵐山線と接続する桂駅に停車。ここから先は淡路駅までノンストップとなる。桂駅から洛西口駅にかけて高架線となり、高い場所から見える西山の景色もなかなかのもの。京都本線の電車から何度も見てきたはずだが、「京とれいん 雅洛」の窓向き座席による効果もあるのか、新たな美景スポットを発見したような気がした。
「京とれいん 雅洛」は快走を続けるものの、2分ほど先行して梅田行の特急も運行されているため、その影響を受けて徐行運転を行う箇所がある。特急より停車駅の少ない快速特急でありながら、「京とれいん 雅洛」の河原町駅から梅田駅までの所要時間は44分となっており、特急とほとんど変わらない。
■「京とれいん 雅洛」の展望映像をスマホで楽しめる
ところで、「京とれいん 雅洛」では車内ネットワークサービスも利用できるという。筆者も手持ちのスマホで試してみた。車内無料Wi-Fiサービスは訪日外国人向けの「HANKYU HANSHIN WELCOME Wi-Fi」、誰でも利用可能な「HANKYU TRAIN FREE Wi-Fi」の2種類を用意している。「HANKYU TRAIN FREE Wi-Fi」を利用し、一般的なサイトの閲覧が可能であることを確認できた。
車内では展望映像専用のWi-Fiサービスもあり、Wi-Fi設定から「Garaku_View_exclusive_use」を選択し、走行中にアクセスすると、乗務員室のカメラで撮影された迫力ある展望映像を楽しめた。なお、「Garaku_View_exclusive_use」は展望映像以外のインターネット接続は不可となっている。
13時15分、京都本線と千里線が接続する淡路駅に到着。周辺には、3月16日に開業したばかりのJR淡路駅(おおさか東線)があり、ここで乗降りする人が多いのではないかと思ったが、実際にはそれほどでもなかった。十三駅から梅田駅まで宝塚本線・神戸本線と並走する区間だが、京都本線は他の路線より一段高いところを走るため、見晴らしが良い。宝塚本線・神戸本線の電車をじっくり見られるのも窓向き座席ならでは。隣の席では、鉄道ファンらしき男性が神戸本線の電車をスマホで撮影していた。
13時25分、「京とれいん 雅洛」は梅田駅2号線に到着。その後、しばらく撮影会のような状況となり、こどもたちを連れた家族を中心に「京とれいん 雅洛」との記念撮影を行っていた。阪急電鉄に新たなスターが登場したことを実感するひとときだった。
■京阪間に魅力的な列車が増え、鉄道の楽しみが増した
京阪間の鉄道路線は阪急電鉄と京阪電気鉄道、JR西日本の3社を中心にサービス向上の施策を重ねてきた。京阪電気鉄道は2017年から、特急車両8000系に「プレミアムカー」を連結して運行。黒色を基調とした本格派の座席を配置し、重厚な雰囲気の車両となった。JR西日本は今年3月のダイヤ改正で、1日2往復のみだが新快速「Aシート」を導入。シンプルなリクライニングシートでビジネスライクな印象を受ける。
「京とれいん 雅洛」は土日祝日に運行される観光列車のため、他社の列車とタイプが異なるのだが、豪華な内外装を施しつつ、特別料金を不要としたところに阪急電鉄らしい独自の哲学を感じる。京阪間で魅力的な列車が新たに登場したことで、鉄道利用の選択肢が増え、鉄道の楽しみが増した。一利用者として歓迎したい。