皆さんは入社後、就業規則を読みましたか? 就業規則が存在している会社では、入社手続き時に配布されるか、社内システムの中に「誰でもいつでも見られるようにしているので、読んでおいて下さい」と指示されるのではないでしょうか?

また、研修が充実している場合は就業規則を学ぶ時間が設けてられており、解説も含めてしっかり学んでいる方もいらっしゃるでしょう。

  • 就業規則を正しく理解できていますか?(写真:マイナビニュース)

    就業規則を正しく理解できていますか?

就業規則が必要な理由

なぜ、わざわざ配布されたり研修が行われたりするかというと、就業規則は会社の憲法、会社と社員との契約書だからです。社員は単に労働力を提供すれば良いわけではなく、就業規則の内容に法的に拘束されることになります。そして、社員が規則に違反した場合、始末書をとられたり減給されたりと懲戒処分を受けることにもなります。

だからこそ、その内容をきちんと理解しておいてもらう必要があると労働基準法第106条によって周知を義務付けられているのです。

就業規則に必ず記載してある項目は「就業時間に関する事項」と「賃金に関する事項」と「退職に関する事項」です。今回はその中から、分かりにくい内容を解説したいと思います。

就業時間に関する事項

残業時間

所定労働時間以外の労働時間の事を一般的に残業時間と呼ばれていますが、正式には所定外労働といいます。その他に時間外労働(1週間につき40時間又は1日につき8時間を超える労働)や深夜労働(午後10時から翌5時までの労働)といった細かい区分があります。

休日と休暇

会社の「休み」には、「休日」や「休暇」があります。休日は、労働契約上予め定められている休みなので、社員が申請をしなくても休むことができる日です。

休日には「法定休日」と「法定外休日」の2種類があり、労働基準法第35条で定められている「1週40時間以内」かつ「1日8時間以内」とし、「休日を1週に1日以上与える」条件を満たしている休日を「法定休日」、「毎週1日」もしくは「4週4日」の「法定休日」以外に会社が定めている休日を「法定外休日」と呼びます。

最近では、多くの会社が土・日休みを法定休日とし週休2日制を導入しています。

休暇は、もともと労働義務があるけれど、社員が申請することによってその義務が免除される日です。「有給休暇」、「夏季休暇」、「育児休暇」などは、「労働義務がある日」に休みを申請しますので、当然ながら休日に有給休暇を申請することはできません。

代休と振替休日

社会人になると休日にどうしても出勤しなければならない時があります。休日に出勤をした場合、別の日に休みを取得するかと思いますが、その取得方法には種類があるのをご存知ですか?

普段何気なく耳にしている「振替休日」や「代休」という言葉は実は全くの別物で、 一言「明日は会社を休みます」と言っても、それが振替休日なのか代休なのかによって、労務上の取り扱いは全く異なるのです。

振替休日は休日を事前に「労働日」に変更し、その代わりに他の労働日を休日にすることです。ポイントは事前予告です。つまり、あらかじめ休日と労働日を交換しておく、というのが振替休日です。

注意しなくてはならないのは、振替休日の場合は、法定休日の日曜日に出勤したとしても、その日は既に労働日に振り替えているため休日出勤にはなりませんので、「35%以上の割増賃金」の対象外となります。

代休は休日労働が行われた後に、その代わりとして他の労働日を休日にすることです。事前に休日と労働日が交換されているわけではないので、この日は休日労働になります。法定休日の場合は35%、法定外休日の場合は25%の割増料金が支払われます。このように、休日出勤を事前に予告するかどうかで、大きく変わりますのでしっかり理解しておきましょう。

賃金に関する事項

基本給と月給

基本給とは、残業手当や通勤手当、役職手当といった各種手当や、歩合給のように業績に応じて支給される給与などを除いた、基本の賃金のことです。一般的には、年齢や勤続年数、職種、技能などを基準に決められるものであり、会社ごとに基準となる独自の「基本給表」があります。

「日給」「週給」「月給」「年俸」などのいずれの給与形態でも、基本となる賃金は「基本給」と呼ばれます。

一方で月給とは、月単位で金額が定められ、月単位で支給される賃金のことです。基本給がそのまま月給というケースもありますが、一般的には、役職手当などの毎月固定して支払われる手当を基本給に加えたものを月給とよびます。なお、残業手当や通勤手当などの金額が変動する手当は、月給には含まれません。

総支給額と差引支給額

給与明細を見て募集要項の金額より少なくてビックリした人もいるのではないでしょうか? 実は、給与には会社が支払う金額と「社員が実際に受け取る金額」があるのです。会社が支払う金額を「総支給額」とよび、基本給だけでなく、残業手当や住宅関連手当、通勤手当などの、各種手当を加えた支給額の合計金額になります。

【総支給額】の内訳
基本給
手当(住宅関連手当、資格手当など)
時間外(残業)手当
通勤手当

  • 総支給額の内訳を理解していますか?

    総支給額の内訳を理解していますか?

一方、社員が実際に受け取る金は「差引支給額」とよばれ、総支給額から控除分を引いて計算されます。では、控除分とは何を指すのでしょうか。おおまかに分けると社会保険料、労働保険料、所得税、住民税の4つに分類されます。

総支給額-控除額(社会保険料、労働保険料、所得税、住民税)=差引支給額(手取り額)

社会保険をさらに細かく分けると、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、介護保険料などに分かれます。

社会保険料の支払額は、都道府県や加入している保険団体によって異なります。また、介護保険料の支払いは、40歳以上の人だけが対象になるので注意が必要です。就職活動をしている時は基本給だけ掲載している会社、総支給額と内訳を掲載している会社等さまざまです。

退職に関する事項

入社早々の皆さんには縁のない話かもしれませんが、「始まりがあれば必ず終わりがある」のです。その終わりを「定年」で迎えるのか、自発的に「転職」することで迎えるのか、「解雇」によって終わるのかを理解しておくことは必要です。

そして、現在の会社に勤め続けるとしても、今騒がれている「働き方改革」等、法律が変わる時は自分にも影響が必ず出てきます。その時に自分の勤務先がどのように人事制度を変え、どのように社員の皆さんに働いてもらおうと考えているのかを知るためにも、今のルールを保管しておいて、その時にどうルールを変えたのかを比較して理解しておくと良いでしょう。

「働く」事が多様化された現代の時代に社会人になった皆さん。働き始めた今だからこそ、しっかりと働くルールを理解して、社会に貢献する事ができる社会人になって下さい。

執筆者プロフィール :大東 恵子(おおひがし・けいこ)

あすか社会保険労務士法人代表社員、特定社会保険労務士。大阪府出身。同志社大学経済学部卒業後、日商岩井株式会社(現在の双日株式会社)を経て1997年社会保険労務士事務所を開業する。現在、東京、大阪、名古屋に事務所展開。お客様のニーズにあったリーガルサービスの提供を心がけ、起業支援から一部上場企業の労務問題まで幅広く対応している。今春、早稲田大学大学院(MBA)を卒業。趣味は筋トレ、書道、芸術鑑賞。