養老鉄道が4月27日に全線開通100周年を迎え、大垣駅ホームで「養老線全線開通100周年記念出発式」が開催された。あわせて東急池上線・東急多摩川線で活躍し、養老鉄道に譲渡されて整備・試運転が行われていた車両7700系が営業運転を開始した。

  • 東急電鉄から譲渡され、養老線仕様への改造が完了した7700系(写真:マイナビニュース)

    東急電鉄から譲渡され、養老線仕様への改造が完了した7700系(「赤帯」TQ03編成)

養老鉄道の車両・鉄道施設の維持・管理は養老線管理機構が行っており、現在は既存車両の老朽化にともなう車両更新事業を実施している。既存車両15両を廃車にするとともに、東急グループの東急テクノシステム経由で購入した7700系15両(2両編成×3編成、3両編成×3編成)へ置換えを順次進める計画。事業費は約6億9,400万円だ。

■養老鉄道7700系、スカートを取り付けた理由は?

東急電鉄で活躍した7700系は、1962(昭和37)年から製造開始された日本初のオールステンレス車7000系(初代)をベースに、1987~1991年にかけてボディー以外の台車、電機品、内装など総取替えを行った車両だ。

  • 改造前の「赤歌舞伎」編成(2019年3月13日撮影)

  • 車体前面に排障板(スカート)が取り付けられた

おもに東急池上線・東急多摩川線で活躍し、2018(平成30)年の時点で6編成18両が残っていた。うち15両が養老線管理機構に譲渡され、残った1編成は昨年11月に「さよなら運転」を実施。7700系は東急電鉄から姿を消した。

養老鉄道に移籍した15両のうち、4月27日にデビューした車両は2018年度に改造されたTQ12編成・TQ03編成の2編成6両。TQ12編成はいわゆる「緑歌舞伎」のカラーリングが施され、TQ03編成は東急電鉄時代の赤帯がそのまま生かされている。今後は2019年度に改造を受けた編成が順次、営業運転を開始する予定で、緑帯の2両編成を2編成、「赤歌舞伎」と呼ばれるカラーリングの3両編成を1編成、赤帯の2両編成を1編成導入。2020年2月頃までに全15両が出そろう予定だ。

車両の改造内容として、ATS(自動列車停止装置)の置換えをはじめ、車体前面に排障板(スカート)を取り付けた。養老鉄道では線路内に野生動物が立ち入ることがあり、巻き込みによる床下機器の損傷を防止する目的があるという。

車内で変化した点といえば、3両編成の中間車両の一部にクロスシートが設置されたことだろう。養老鉄道によれば、「クロスシートの割合をもう少し増やしたかったが、シート下の機器類が多く、難しい部分が多かった」とのこと。クロスシートは下に機器等を置けない仕様となっているため、この部分にあった機器については新たに機器箱を設置し、その中に格納している。

  • 中間車両の一部座席をクロスシートとし、シートとドアの間に機器箱を設置

  • シートカバーには、沿線の観光名所である養老の滝に由来する「瓢箪(ひょうたん)」の柄を採用

シートカバーには、沿線の観光名所である養老の滝に伝わる物語に由来する「瓢箪(ひょうたん)」の柄を採用した。なお、養老鉄道は無人駅が多いことから、乗務員室付近に運賃箱が設置されている。運賃箱にはキャスターが取り付けられ、乗務員が確認しやすい位置に移動できるようになっている。

こうした改造作業は近鉄の塩浜検修車庫で行われる。改造する車両は自走できないため、西大垣駅に隣接する大垣車庫から既存車両に牽引され、まずは桑名台車交換所へ運ばれる。養老鉄道のレール幅は1,067mmだが、近鉄のレール幅は1,435mmで軌間が異なるため、ここでボディーと台車に分けられる。ボディーは回送用台車に載せ替え、台車は貨車に載せて塩浜に運ぶという。

  • 運賃箱にはキャスターが取り付けられ、乗務員が確認しやすい位置に移動できるようになっている

  • 改造が完了した7700系の運転席

なお、VVVFインバータ(可変電圧可変周波数)制御装置を搭載した車両は養老線で初採用となる。養老鉄道の7700系では、整備作業完了後、VVVFインバーター制御装置のノイズが信号装置に与える影響などを試験した上でデビューさせた。

■養老鉄道ではユニークな取組みも

養老線の歴史は古く、明治時代まで遡る。1911(明治44)年、それまでの舟運に代わる物流を作りたいとの機運から、大垣市出身で京急の創業者でもあった立川勇次郎によって設立された。1913(大正2)年の部分開業後、1919(大正8)年4月27日に揖斐~大垣~桑名間の全線が開通。今年の4月27日が全通からちょうど100周年にあたる。

その後はさまざまな会社との合併・分離を繰り返し、1944(昭和19)年6月に関西急行鉄道と南海鉄道が合併して誕生した近畿日本鉄道(近鉄)の一支線となり、以後、半世紀以上にわたって近鉄養老線として運行された。

しかし慢性的な赤字から、2007(平成19)年に近鉄が100%出資する子会社として、「養老鉄道」の社名で独立。沿線自治体から財政支援を受ける形で事業継続することが決まった。車両・鉄道施設等は近鉄が維持・管理(第三種鉄道事業者)し、列車の運行を養老鉄道が担当(第二種鉄道事業者)する「民有民営」の上下分離方式だ。

分社化直後の2008(平成20)年3月からは、6カ月定期券よりもさらに割引率の高い1年定期券を販売開始し、沿線の高校生の需要を取り込んだ。現在、朝夕のラッシュ時は高校生の姿が多く、2017年度の実績で見ると、養老鉄道の年間輸送人員約620万8,000人のうち、通学定期が約314万3,000人と全体の過半数を占めている。

  • サイクルトレインは平日の9~15時頃、土休日はすべての列車で実施

また、地元で採れた山菜などの食材を使った薬膳料理を列車内で食べられる「薬膳列車」(2019年5月以降、運行休止予定)、自転車を車内に持ち込める「サイクルトレイン」の運行、ユニークな企画乗車券の販売など、さまざまな取組みを行っている。こうした努力により、以前と比べれば赤字額が圧縮されたものの、依然として苦しい経営が続く。

■「京急×東急×養老」で盛り上がりを期待

2018(平成30)年1月1日からは、岐阜・三重の2県にまたがる沿線3市4町が出資して設立された一般社団法人の養老線管理機構が車両・鉄道施設の維持・管理を引き継ぎ、列車の運行は養老鉄道が引き続き行う「公有民営」方式の新しい事業スキームがスタート。少しでも収支均衡に近づけようと努力している。

  • 養老鉄道と京急電鉄がコラボし、スタンプラリーなどのキャンペーンを実施している

こうした中、今年は同じ創業者をルーツとする京急電鉄が開業120周年、養老鉄道が全通100周年を迎えたことから、「京急と養老をつなぐキャンペーン」を共同で行っている。これに元東急電鉄の7700系が加わることで、鉄道ファンらの目がさらに養老鉄道に向くはず。今後も「京急×東急×養老」で盛り上がることを期待したい。

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

慶應義塾大学卒。IT企業に勤務し、政府系システムの開発等に携わった後、コラムニストに転身し、メディアへ旅行・観光、地域経済の動向などに関する記事を寄稿している。現在、大磯町観光協会理事、鎌倉ペンクラブ会員、温泉ソムリエ、オールアバウト公式国内旅行ガイド。テレビ、ラジオにも多数出演。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。