克服のために大切なポイント3つ
徐々に認知度は高まってきているものの、会食恐怖症の情報はまだまだ少なく、医師によっても認識に差があるため「病院にかかる前に、せめてネットで社交不安障害や会食恐怖症といったワードを病院名と組み合わせて検索するなどして、信頼できる医師を探すのが大切」と山口氏は話す。
日本会食恐怖症克服支援協会においては「はるの・こころみクリニック」院長の田島治医師がアドバイザーとなっており、病院を紹介することもあるそうだ。
ただ、特に10代の学生など心療内科や精神科にかかることへ抵抗感のある人からの相談が多いのも事実。
自力で会食恐怖症を乗り越えた山口氏は、克服のポイントとして、「正しい手順で会食の練習をすること」「前向きな考え方を身につけること」「フローで過ごすための習慣を身につけること」を挙げる。
「まずは『会食が怖い』理由を具体的に分解していくのが治療の第一歩です。残すのが怖いという人でも、会食の相手が誰なのかによってもそれは違いますし、ラーメン1杯残すのかコーヒー1杯を残すのかでも違う。低いハードルから徐々に上げていって、『残しても意外と大丈夫』と思えてくると食事に行ける機会が増え、『(残してもいいのに)食べられた』という経験も増えます」
「また、嘔吐恐怖の方は気持ち悪くなった時点で『自分はダメ』と思いがちですが、気持ち悪くなったけど『無事に過ごせた』『会食に参加できた』と、良い部分に意識を向けると気持ちの負担が全然違います。自分が気持ち悪くなった事実は変わらないんですが、逆に言えば自分が不快になっただけで誰にも迷惑はかけていないと。脳の性質上、最初はどうしても意識的にそこへフォーカスする必要があるんです。初めのうちは大変かもしれませんが、『こうしなきゃ』と考えすぎている部分を『〇〇でもいい』と前向きな考えに持っていき、成功体験を積むことが重要になります」
外食する際のお店選びに関しては、人が多い店や全く知らない店は緊張しやすいので、いつも前を通る近所の店などがおすすめとのこと。また、1人でも身近に理解者がいればラクになるのは間違いないが、必ずしも無理に病気を打ち明ける必要はなく、言いたいタイミングで言うのがいいそうだ。
3つめのポイント、「フローで過ごすための習慣を身につけること」も有効なようだが、「フロー」とはどういった状態なのだろうか。山口氏に聞いてみると、以下のような答えが返ってきた。
「リラックス状態と近いですが、少し違うのは、程よい緊張感やストレスがありながらも、気持ちと目標の均衡が取れている状態だというところ。その状態をフローと言っています。筋肉ムキムキの男性が1キロのダンベルで筋トレしてもつまらないけど、100キロのベンチをやるのは楽しい、100キロを上げられない女性は1キロのダンベルで毎日シェイプアップするほうが楽しいというように、自分にとってちょうどいいバランスで負荷をかけていく。今の状態がフローかノンフローか、普段の生活の中で意識するクセをつけると治療に効果的です」
目標が高いところにあっても気持ちが高まっていなければノンフローであり、目標に対して気持ちが高まりすぎていてもから回ってしまう。この考え方はさまざまなシーンで応用できそうだ。
治療は焦らないのが大切
会食恐怖症の克服は、「会食に全く参加できない」「不安でも参加できる」「普通に楽しめる」といったフェーズで大きく分けられる。個人差はあるが、会食に「なんとか参加できる」レベルまでであれば、1カ月ほどで到達できる人も多いという。
山口氏いわく「人と話すのが苦手で『絶対に話を振られたくない』状態が会食恐怖症だとしたら、『人と話すのが好き』という状態の手前、『苦手だけど頑張ります』という段階ですね。実は、『参加』までが一般の克服の定義とされているんですが、普通に会食を楽しめる状態までいくとなると半年以上はかかる場合が多いです。相談者の中には、気持ちが落ちていて『治療したいか自分でもよくわからない』という人もいて。普段の人間関係を選ぶことも必要かもしれないですし、自然と治したいと前向きに思えるまで充電して待つのも、治療の一環と僕は考えています」とのこと。治療はあくまでも焦らず自分のペースで取り組むことが大切なようだ。
最後に、「僕も当事者として悩んでいた時はわからなかったんですが、この活動を始めてから、会食恐怖症に悩んでいる人は意外といるんだなと実感しています。今後は全国に相談の窓口を増やしていきたい」と、活動の展望を聞かせてくれた山口氏。
人知れず悩みを抱え込んでいるという人も、いつか一歩を踏み出せるよう、山口氏の活動を参考に少しでも克服に向けて前向きな気持ちを持ってみてほしい。