JR東日本横浜支社とJR東日本レンタリースは、駅レンタカーでマツダ「ロードスター」を貸し出し、旅行者に新緑の伊豆半島ドライブを楽しんでもらおうというキャンペーン「オープンカープラン」を2019年6月30日まで展開している。
このキャンペーンは、3月31日まで千葉県・館山で実施していた「オープンカーde体感 南房総ドライブ」に続く第二弾。一次交通の担い手である鉄道会社がクルマを使った“コトづくり”に取り組む理由が気になったので、体験してきた。
「ロードスター」と行く熱海の絶景めぐり
「オープンカープラン」は、現在開催中の「静岡デスティネーションキャンペーン」の特別企画。JR熱海駅にある駅レンタカー熱海営業所で「ロードスター」をレンタルし、ドライブを楽しむことができる。料金プランは3時間4,860円と1暦日9,720円の2パターン(いずれも免責補償料と税込)。今回は3時間プランを選択し、伊豆半島へとドライブに出掛けた。
今回は、絶景スポット・十国峠駐車場を目指した後、長浜海水浴場を経由して駅レンタカー熱海営業所に戻るルートを選択。走行距離約30km、移動時間約1時間のショートコースだ。
熱海駅周辺は入り組んだ道が多いが、ボディサイズが小さくてFR(フロントエンジン・リアドライブ)の「ロードスター」は取り回しがしやすく、思い通りに操作できるので運転が楽に感じる。
運転の楽しさを感じたのが、駅レンタカー熱海営業所から十国峠に向かう途中の坂道だ。FR専用設計が施された1.5L直噴ガソリンエンジン「SKYACTIV-G 1.5」を搭載する「ロードスター」は、坂道も難なく登っていくが、特筆すべきはエンジンサウンド。アクセルを踏み込むたびに気持ち良く吹け上がる様を耳でも楽しめる。
晴天に恵まれ、絶好のドライブ日和となった取材当日。晩春の気持ちいい風を全身に浴びながらのドライブは、オープンカーならではの魅力だ。十国峠の次は潮の香りを感じる海岸線を通って、長浜海水浴場を目指した。
夏には多くの海水浴客が訪れる長浜海水浴場も、海開き前とあって人の姿はまばら。「ロードスター」を長浜親水緑地駐車場に停め、しばし砂浜散策を楽しんだ後、駅レンタカー熱海営業所へと帰路に着いた。
帰着後、「オープンカープラン」の予約状況を尋ねてみたところ、5月以降は平日を中心にまだ空きがあるそうだ。JR熱海駅から少し足を伸ばせば、韮山反射炉や伊豆の国 パノラマパーク、沼津港といった歴史・絶景・グルメの観光スポットが盛りだくさん。ロードスターであれば、移動時間も含め、その魅力を満喫できること請け合いだ。
「ロードスター」が旅の目的に?
伊豆半島ドライブを五感で楽しませてくれた「オープンカープラン」。しかしなぜ、一次交通の担い手である鉄道会社が、二次交通(クルマ)にフォーカスした旅行商品に力を入れるのかについては疑問が残った。そこで、JR東日本横浜支社の小林真一郎氏、同千葉支社の佐藤裕史氏、JRレンタリースの笠井淳氏に話を聞いた。
まず、「オープンカープラン」を館山・南房総エリアに続き熱海で開催するに至った経緯については、「4月からの静岡デスティネーションキャンペーンの開催にあわせて、JRレンタリースさんからお声がけをいただき、同キャンペーンの特別企画として熱海営業所で実施しています」(小林氏)という。だが、そもそも「ロードスター」をレンタルするという企画は、千葉支社が地方創生を目的にする“コトづくり”事業に取り組んだことが始まりだった。
千葉県の場合、千葉駅~新宿駅や京葉線・蘇我駅~東京駅といった区間は、通勤・通学をメインによく使われている。一方、千葉駅から銚子方面や勝浦・安房鴨川方面、館山方面となると、基本的には観光に特化している。そのため、JRとしては同地域に観光客を呼び込みたいところだが、「観光の目玉となるものはいろいろある中で、知ってもらう機会があまりない」(佐藤氏)のが現状だという。また、千葉県に限らず、地方の場合は駅と各観光地が離れているところが多く、二次交通の拡充が大きな課題となっていた。
館山・南房総エリアに観光客を呼び込むにはどうすればよいのか。この課題について考えていた佐藤氏は、「私と現・木更津駅長には、ロードスターに乗っていたという共通点がありまして、じゃあ、ロードスターを走らせたら面白いんじゃないかと」(佐藤氏)思いついたそう。こうして生まれたオープンカープランの企画は、JRレンタリースとマツダの協力を得て実現に至る。
2018年12月から今年3月末までという、オープンカーには厳しい季節の開催となった「オープンカーde体感 南房総ドライブ」は期間中、ほぼ予約で一杯となり、大きな反響を呼んだ。利用者の中には、20代~30代の若者も多かったという。
「価格を低く設定したことで、若い方でも利用しやすかったのだと思います。また、近年は写真を目当てに旅行される方も多いですが、ロードスターは晴れているとまたいい色が出るので、そう意味でもぴったりですよね」(笠井氏)
笠井氏はもともと、クルマが観光のプラスαになればと考えていた。そのため、ロードスターを目的に訪れる利用者が多かったことは意外だったそうだ。「今回も、ロードスターに乗りたいから熱海に来るというお客様がいらっしゃるはずです。そういったニーズを掘り起こすことができれば、新たなビジネスチャンスにつながると思います」と笠井氏は期待を示す。

JRグループでは、今後も異なる地域で「オープンカープラン」の実施を検討していくとのこと。佐藤氏は「キャンペーンが広がりを見せていることに、地元の方もすごく喜んでくださっています。ロードスターに乗りに来てもらって、現地を知ってもらえるというのが重要。いろんな地域にどんどん行ってもらって、そこで観光の魅力を知っていただくきっかけになれば嬉しいですね」と語る。
一次交通と二次交通のシームレス化で滞在時間を延ばす
JR東日本グループは「
近年の旅行は、観光だけというよりも、そこで何を体験できるかという部分に重きを置く傾向が見られる。そうした旅行者の欲求を満たすために必要となるのが、効率的な移動手段による移動時間の短縮であったり、今回の「オープンカープラン」のように、移動そのものを目的にしてしまうことだ。JRがロードスターをフィーチャーした今回のキャンペーンは、鉄道とクルマの組み合わせで広がる旅の可能性を感じさせてくれた。
(安藤康之)