東京2020組織委員会はこのほど、東京2020大会の公式文化プログラム「東京2020 NIPPONフェスティバル」の概要について発表を行った。

  • 「東京2020 NIPPONフェスティバル」のキャッチフレーズを掲げる登壇者たち

かつては芸術“競技”も!? 文化の祭典でもあるオリンピック

「東京2020 NIPPONフェスティバル」とは、2020年4月からパラリンピックが閉会となる9月にかけて開催される予定の東京2020大会公式文化プログラム。国、自治体、文化団体などが連携し、日本の文化・芸術の力を国内外に発信するイベントを全国で展開していくとのこと。

  • 東京大会における文化オリンピアード

実は、オリンピック憲章には「複数の文化イベントのプログラムを計画しなければならない」ことが明記されており、これまでも文化的なイベントが多数開催されてきた。例えば、1964年の東京大会においては、日本の美術や芸能などにまつわる展示が催され、世界に発信されたことも。かつては、「芸術競技」という種目も存在し、他の競技と同様にメダルが授与されていたという。

  • 文化オリンピアードの歴史

今回の発表の場では、初めに東京2020組織委員会の古宮正章 副事務総長より、「Blooming of Culture 文化は、出会いから花開く。」というキャッチフレーズが発表された。

古宮氏は、「フェスティバルは来年4月からということで、ちょうど桜の開花とも重なる。“Blooming”“花開く”という言葉を使った、四季を楽しむ日本ならではのキャッチフレーズによって、日本中で文化が花開くという願いを込めた」と解説。世界中の人々に興味を持ってもらうため、キャッチフレーズは和英併記とした。

  • 東京2020組織委員会 古宮正章副事務総長(右)と、SHELLY文化・教育委員会 委員(左)

歌舞伎とオペラを融合させた世界初の舞台で“キックオフ”

続いて、東京2020組織委員会にて文化・教育委員長を務める青柳正規氏より、同委員会が主催する4つの文化プログラムが紹介された。なお、この他にも各自治体などによる文化プログラムは多数共催される予定とのこと。

1つめは、2020年春に「東京2020 NIPPONフェスティバル」のオープニングを飾る、歌舞伎とオペラの融合による世界初の舞台の公演。“大会に向けた祝祭感”をテーマに掲げ、歌舞伎俳優の市川海老蔵氏と、世界的オペラ歌手プラシド・ドミンゴ氏のコラボレーションによるステージが披露される。会場では、司会のSHELLY氏(東京2020組織委員会 文化・教育委員会 委員)によって、2人からのコメントが読み上げられた。

  • 市川海老蔵氏は、東京2020組織委員会 文化・教育委員会 委員も務めている

市川海老蔵氏からは「一見まるで異なる『歌舞伎』と『オペラ』という舞台芸術ですが、歴史的背景やその成り立ちには多くの類似点を有しており、私自身もどのような作品を生み出すことができるか、たいへん楽しみにしております」とのメッセージが。

また、最高のオペラ歌手のひとりとして讃えられ、グラミー賞を12回獲得しているというプラシド・ドミンゴ氏からは「歌舞伎界の若きスター、海老蔵との共演が今から楽しみですし、私は彼から歌舞伎の所作を学ぶことになるでしょう」との言葉が寄せられた。

  • 世界的オペラ歌手のプラシド・ドミンゴ氏からもメッセージが

パラリンピック開幕直前のイベントを小橋賢児氏が企画

2番目のプログラムは、オリンピック開幕直前に企画されている“参加と交流”をテーマとした催し。青柳氏から「東京2020大会は過去最多の国と地域が参加する。本事業も、国内外の多くの方に参加いただき、古典から現代までの日本の歌や踊りを通して交流していただこうとする企画」であると説明があり、「さまざまなアーティストの方が参画予定」と明かされた。具体的な内容についての発表は、もう少し先になるとのことだ。

  • オリンピック開幕直前には、“参加と交流”をテーマとした催しを企画

3番目に紹介されたのは、パラリンピック開幕直前に予定される“共生社会の実現”をコンセプトとしたプログラム。「違う個性、同じ鼓動」をテーマに、障がいのある方やLGBTを含めた多様な人々の参画により、街中でさまざまなアートやパフォーマンスなどの開催を目指すという。

  • パラリンピック開幕直前に予定されるのは、“共生社会の実現”をコンセプトとしたプログラム

同事業のクリエイティブディレクターを務めるのは、元俳優で、現在は映画監督やイベントのプロデュースなどで幅広く活躍する小橋賢児氏だ。

  • クリエイティブディレクターの小橋賢児氏

小橋氏は「日本も世界を意識し、世界も日本を見るというオリンピック開催のタイミングに、ダイバーシティの肌感を作れるイベントの機会に恵まれたのは、僕にとって意味があるのかなと思う。僕自身、身内に障がいを持っている人がいて、息苦しさを感じていた。もともと日本人は“和の心”、世界のさまざまな文化を採り入れる調和の心を持った民族。2020年をきっかけに、本当の意味での“ダイバーシティ&インクルージョン”という肌感が生まれてくるイベントにしたい」と意気込みを語った。

巨大な人形が東北各地から東京を目指すキャラバンも展開

4番目には、“東北復興”をテーマに掲げ、東北の子どもたちとのワークショップで作り出される巨大な操り人形「モッコ」が、2020年の5月~7月、東北各地から東京へ旅するプログラムをキャラバン展開することが公表された。モッコが肩に担いだ籠(持ち籠=モッコの語源)に東北の人々のメッセージを預かり、東京に届け、世界へ発信するという。

  • 東北の子どもたちとのワークショップで作り出される巨大な操り人形「モッコ」が、東北各地から東京へと旅する

同事業には、クリエイティブディレクターに福島県出身の箭内道彦氏(東京藝術大学 学長特別補佐・美術学部デザイン科教授)をはじめ、「モッコ」の名付け親に宮城県出身の脚本家・宮藤官九郎氏、また、ベースストーリー制作にお笑いタレントで小説家の又吉直樹氏など、著名人が名を連ねる。

  • クリエイティブディレクターの箭内道彦氏

箭内氏は「6年前、五輪招致が決まって、これで東北の復興が遅れてしまうのではないかとの不安を口にする友人もたくさんいた。開催を疑問視する友人もまだ多くいる。そんな中、開催が決まっているのであれば、東北の人たちにとって『やってよかったな』という大会にしなければならないと感じていた。あれからも全国で自然災害が発生しているが、東北が復興を歩む姿が、各地のみなさんに元気や笑顔を届けることができれば、このプログラムも含めてとてもすてきなことになるんじゃないか」と語った。

ちなみに、モッコの大きさは「だいたい体育館の屋根の高さくらい」(箭内氏)とのことで、当初、箭内氏は大会にちなんで20m20cmというサイズを検討していたそう。

東京2020大会エンブレムの作者によるコンセプト映像も披露

発表会当日は、「東京2020 NIPPONフェスティバル」のコンセプト映像も公開された。東京2020オリンピック・パラリンピックエンブレムの作者であり、「東京2020 NIPPONフェスティバル」マークの開発を手がけたアーティスト、野老朝雄氏を中心に、季節に根差した日本文化、また、伝統と革新が融合する日本文化を表現する映像が制作された。

  • 「東京2020 NIPPONフェスティバル」のマーク

マークについて、野老氏は「東京2020オリンピック・パラリンピックのエンブレムは、ともに異なる3種類の四角形45個で構成されている。ふたつのエンブレムを構成する要素がまったく同じであることにこだわり、同等であることへの願いや、組み合わせの違いによって描くことで多様性を認め合い、つながる世界を目指す場であることを表現している。今回のフェスティバルマークも、エンブレムと同様の要素で構成。3つの羽が回り出すように見えるマークは、日本の文化を世界に力強く発信する様子を表現した」と解説。

  • フェスティバルマークを制作した野老朝雄氏

また、コンセプト映像の制作について「映像はコンピュータを用いた新しい設計のアルゴリズミック・デザインを研究実戦されている、慶應義塾大学SFC准教授の建築家・松川昌平さん、律動(リズム)は和太鼓の第一人者である林英哲さんにお願いした」と説明。今後、フェスティバルに関わるさまざまな場所で上映される予定だ。

最後に、「東京2020 NIPPONフェスティバル」特設ウェブサイトがこの4月中に開設予定であることがSHLLY氏からアナウンスされ、発表会は終了。来年4月からスタートするプログラムへの期待が高まる内容であった。

(C)Tokyo 2020