厚生労働省の平成28年「国民健康・栄養調査」によると、国内には約2,000万人もの糖尿病患者(「糖尿病が強く疑われる者」+「糖尿病の可能性を否定できない者」)がいると推定されている。単純に日本人の約6人に1人は糖尿病リスクを抱えているという計算となり、もはや国民病と呼べる域にあると言える。

大半の糖尿病は生活習慣に起因して発症するが、営業の合間に丼物でランチを手短に済ませ、夜は仕事の付き合いでアルコールを多く飲んでいるような中年ビジネスマンは、特に注意が必要となってくる。

また、糖尿病は腎臓や目に不可逆的な被害をもたらす合併症を招く恐れもある。万一、人工透析を使わざるをえない状況にでもなれば、医療費が膨らみ家計を圧迫しかねない。将来のそのような事態を避けるべく、内科医の山本祐歌医師に糖尿病の原因や症状、治療法などについてうかがった。

  • 糖尿病の治療には人工透析が用いられるケースもある

糖尿病の種類

糖尿病か否かは血糖値とHbA1c(過去1~2カ月の血糖値の平均値)によって決まる。「空腹時血糖が126㎎/dl以上もしくは随時血糖200㎎/以上」で「HbA1cが6.5%以上」であれば、糖尿病と診断される。

糖尿病にはいくつかタイプがあり、その種類は「1型糖尿病」「2型糖尿病」「妊娠糖尿病」「その他の糖尿病」に分類できる。このうち、2型糖尿病が全糖尿病の約90%を、1型糖尿病が同5%を占めるとされている。

1型糖尿病……自己免疫機序の異常によって起きる。体内のリンパ球が膵β細胞を異物と認識して攻撃してしまい、膵β細胞が破壊された結果、体内の血糖値を下げるホルモン・インスリンが欠乏。インスリンが分泌されないため高血糖を招いてしまい、発病する。1型糖尿病の原因に関してはウイルス感染の可能性も指摘されている。

2型糖尿病……遺伝因子だけではなく、食べ過ぎや運動不足、ストレスなどに伴う肥満といった具合に環境因子が大きく影響するタイプの糖尿病。肥満になるとインスリンが作用しづらくなってしまうため(インスリン抵抗性)、血糖値が下がらずに発症してしまう。「カロリーが高い」「過剰な糖質摂取」「野菜が不足している」などの特徴が当てはまる食事を続けていると、2型糖尿病のリスクが高まる。そのほか、「早食い」「欠食(3食食べない)」「深夜の夕食などの食べ方や食習慣の乱れ」「不眠などの生活習慣の乱れ」も危険因子となる。

また、日本人を含めるアジア人は欧米人に比べると遺伝的にインスリン分泌能が低いと言われており、このインスリン分泌能の低さという遺伝因子とライフスタイルによる環境因子が複雑に絡み、2型糖尿病になると考えられている。

妊娠糖尿病……妊娠によって体内のホルモンが変化してインスリンが効きにくくなってしまったり、食物の吸収様式が変わったりするために妊娠中に発症する糖尿病。

その他の糖尿病……他に原因があって糖尿病を発症するケースが該当する。例えば、血糖値を下げるホルモンは膵臓で分泌されるため、膵臓が病気になればインスリン分泌低下をきたして糖尿病を発症するといったものが一例だ。

それ以外にも、ホルモンの病気によって血糖値を上げるホルモンが過剰に分泌され、糖尿病になってしまうケースもあるという。また、喘息やリウマチなどに使われるステロイドが副作用として血糖値を上げてしまうため、糖尿病を誘発する場合もあるとのこと。

糖尿病の症状

典型的な高血糖の症状としては「口が渇く」「水分摂取が増える」「尿量が多い」「倦怠感が強い」「足がつる」などがある。ただ、HbA1cが7%程度の軽症の場合だと、これらの症状を自覚することはほぼないという。この点に糖尿病の恐ろしさがある。

「糖尿病は別名『サイレントキラー』と言われており、軽症では無症状ですが、既に合併症を起こし始めて体を蝕(むしば)んでいます。高血糖状態(血糖値で約300㎎/dl以上)になって初めて『口が渇く』『水分摂取が増える』などの症状が出現します。特に働きざかりの方は、健診で血糖値を指摘されたとしても、無症状であるため、つい放置してしまいがちなのではないでしょうか。このように病院で受診しない点や、受診しても仕事をはじめとするさまざまな事情で治療を中断してしまうことが、糖尿病の最大の問題と言われています」

視力低下や蛋白尿……糖尿病が招く合併症

糖尿病の「サイレントキラー(沈黙の殺人者)」という異名は、自覚症状を感じさせずに深刻な合併症を引き起こす点とも無関係ではないだろう。山本医師も「糖尿病を放置して血糖値が高い状態が続くと、さまざまな合併症をきたします。そのため、早期から血糖管理をしてこれらの合併症にならないように予防することが大切です」と警鐘を鳴らす。

では、具体的にどのような合併症が出現するのだろうか。糖尿病による主な合併症は「末梢神経障害」「網膜症」「腎症」であり、合わせて3大合併症と呼ばれている。

「神経の『し』、網膜がある『め』、そして腎臓の『じ』。この『し・め・じ』で糖尿病の代表的な合併症は起きます。末梢神経障害としては『ジンジン・ピリピリするようなしびれや違和感』『足のつり』『起立性低血圧(立ちくらみ)』『胃腸機能の低下』『男性機能の低下』などが認められます。網膜症は目の奥の網膜にある毛細血管が障害されるため、視力低下や眼底出血が起こることがあります。腎症は腎機能が低下し蛋白尿がみられ、最悪の場合は人工透析が必要になってきます。これら3つの合併症は、比較的細い血管の血管障害によって引き起こされるため、細小血管障害と呼ばれています」

ただ、糖尿病が進行し、高血圧や脂質異常症を合併すると細い血管だけではなく太い血管に悪影響(大血管障害)を及ぼすようになる。具体的には動脈硬化によって血管が細くなり、血流が悪くなる。その結果、脳梗塞や狭心症、心筋梗塞といった命にかかわる病気を引き起こす可能性も出てくるのだ。

それ以外にも歯周病や骨粗しょう症、認知症なども糖尿病の合併症として挙げられる。人生100年時代の現在は、日常生活が制限されることなく自身の力で行える健康寿命の延伸が課題とされているが、その健康寿命を著しく縮めるものの一つに骨粗しょう症がある。

骨粗しょう症で骨がもろくなった高齢者の転倒→大たい骨などの骨折→寝たきり生活となり、認知症リスクが高まる

このような負の連鎖を避け、豊かな老後生活を送るためにも糖尿病の予防は肝要なのだ。

糖尿病の治療

糖尿病は1型と2型で治療法が異なる。インスリンの分泌が枯渇している1型糖尿病患者に対しては、インスリンによる治療が必須となる。ペン型注射やポンプ療法など、患者にあった方法でインスリンを投与するほか、膵臓や膵島移植を移植するという選択肢もある。

一方、全患者の約9割を占める2型糖尿病に関しては、まずは食事療法を実践し、次に運動療法を。それでも血糖値が改善されなければ薬物療法を行う。

食事療法のポイント

「食事療法に関しては、まずは糖質の過剰摂取および食事全体のカロリー摂取を控えることが大切です。特定のものだけを食べ続けるといった偏った食事にならないよう、主食や主菜、副菜がそろったバランスよい食事にする点も重要ですね。また、野菜をたっぷり食べることも推奨しています。私はいつも、『片手の握りこぶし大の糖質(炭水化物)と片手の手のひら大のおかず(肉、魚などのたんぱく質)、そして両手盛りの野菜を食べるように』と患者さんに指導しています」

食べる順としては、野菜やおかずを先に食べて、最後に炭水化物を摂取するという「カーボラスト」を心がけるとよい。そして、なるべく一日3食を実践し、夕食は遅くならないように努めたい。

運動療法のポイント

運動療法に関しては、有酸素運動やレジスタンス運動(筋トレ)をバランスよく行えるのが理想。だが、多忙な現代人は運動に割ける時間を創出するのが難しいため、通勤時間などを利用するとよいと山本医師はアドバイスを送る。

「例えば、いつもより1駅余分に歩くとか、なるべく階段を使うなどして、日常生活の中で活動量を上げるのも有効な方法です。ウオーキングを始めたいという方であれば、まずは歩数計で現在の歩数を把握し、現状プラス1,000~2,000歩を当面の目標にしてみてください」

普段3,000歩ほどしか歩いていない人がいきなり10,000歩を歩こうものならば、三日坊主で終わってしまう公算が大きい。糖尿病の治療には、時間を要する。糖尿病と上手に付き合っていきながら血糖管理を続けるには、毎日やり続けられるような目標を掲げて地道に継続することが重要だと覚えておこう。

薬物療法のポイント

食事や運動の習慣を改善しても血糖がうまく管理できないならば、薬を使ってコントロールを図ることになる。薬は内服もしくは注射によって患者に投与する。

内服薬には、「インスリン分泌を刺激し、分泌を促進する薬」「インスリンの効きをよくする薬」「腸管で糖質の吸収を遅らせる薬」「余分な糖を尿と一緒に排泄してしまう薬」など、多種多様の種類がある。服薬のタイミングも毎日だったり週に1回だったりとさまざまだ。

注射にはインスリンとGLP-1アナログ製剤がある。インスリン分泌が低下している2型糖尿病患者には、インスリン注射を選択する。肥満が強く、食欲をコントロールしながら血糖値を管理する場合は、GLP-1アナログ製剤を使用するという。

「患者さんそれぞれの病態や生活背景などを考慮し、担当医がオーダーメードで糖尿病の治療法を考えます」と山本医師が話す通り、もしも糖尿病になったとしても医師が最善策を考えてくれる。だが、本当の意味での最善策は糖尿病にならないことであるのは疑いようがない。食事や運動など、普段のライフスタイルをコントロールして予防に努めるようにしよう。

※写真と本文は関係ありません

監修者: 山本祐歌(ヤマモト・ユカ)

日本糖尿病学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。En女医会所属。

En女医会とは
150人以上の女性医師(医科・歯科)が参加している会。さまざまな形でボランティア活動を行うことによって、女性の意識の向上と社会貢献の実現を目指している。会員が持つ医療知識や経験を活かして商品開発を行い、利益の一部を社会貢献に使用。また、健康や美容についてより良い情報を発信し、医療分野での啓発活動を積極的に行う。En女医会HPはこちら。