社会人の皆さんの多くは、歳を重ねるごとに「ストレス」が増してくる人も多いのではないでしょうか? そんな社会の中では、ストレス解消法の情報で溢れていますが、「泣く」という選択肢を選ぶ人もいます。そこで今回は“感動して泣くこと”を広める「涙活」を行っている感涙療法士の吉田英史氏に、企業で行っている涙活イベントについて解説してもらいました。
企業で行う「涙活」とは?
今回は、実際の現場の様⼦をリポートしたいと思います。先般、東京都多摩市にある「ベネッセコーポレーション東京本社」にて涙活イベントを実施しました。私は普段、学校、病院、企業等で、涙活イベントを実施しています。今回は、「One Benesse」という有志のグループが主催するイベントとして、社員約50名に向けてお話をしました。
イベント冒頭には「涙活という言葉を知っている方いますか?」という私の問いかけに、何人かが挙手してくれました。実は4年前に、ベネッセが出している雑誌『サンキュ!』に涙活を取り上げてもらっていたこともあるので、知っている人もいると思いますが、もちろん「涙活」という言葉を知らない人もいます。
毎回イベントの最初には「最近、いつ泣きましたか、最後に涙を流したのはいつですか?」と題して参加者に問いかけ、何を題材にして泣いたのかをホワイトボードに書き出していきます。
参加者から「昨日観たドラマで泣きました!」とか「1カ月前に観た映画で泣きました」、「1年前の娘の結婚式で泣きました」という声が出れば、私の方からは「それは情動の涙になるので、非常に良いです」とアドバイスを送ります。
また「毎日、花粉症で泣いてます」という声が出れば、「それは反射の涙になるので、ストレス解消にはなりません」と参加者とのやり取りをして場を温めます。
そして、最後の私の発問として「1年以上、泣いていない方いますか?」と問いかけます。挙手した人に聞いたら、「15年前に学校の卒業式で泣いて以来、泣いていません」ということでした。ですが今回の結果を言うと、15年ぶりに泣きました。
泣くためのワークショップ
なみだ作文
イベントでは、自分がどこで泣けるのかを知るべく、さまざまなワークショップが行われます。泣ける話の創作ワークショップ「なみだ作文」は、時間を10分ぐらい取り、参加者に泣ける話を書いてもらいます。「実話でも創作でも可」という形式で書いてもらいます。今回は、社員の皆さんに「ベネッセに入るまでの苦難」をテーマに作文を作ってもらいました。
人は涙を流した後、本音を出しやすい心理状況になり、一見難しそうな作文もわりとすぐに書き終えてしまいます。その後何人かに発表してもらいますが、思わず発表中に涙を流す人、それを聞いている周りの人も涙を流します。
「内容は創作でも可」とは言っていますが、発表者も泣いてしまうのは、実話なんだと思います。人が涙を流すとき、おでこの先の「前頭前野」の血流が激しくなり、目から涙が出ます。この前頭前野は、別名「共感脳」と言われ、人が何かに共感したり、感動したりすると、ここが震えて落涙します。作文を聞いて、周りの人が泣くのも、共感脳がまさに震えているからなんです。涙活は、共感脳を震わせる活動とも言えます。
「なみだ作文」の狙いに、ただ泣いてもらうこと以外にも、自分の泣きのツボを探ってもらうというものがあります。泣ける話を書く際に、人は自分の泣きのツボを参照にして書きます。そうすることで、自分がどういうシーンに泣けるのかを分析することになるので、それが自分の泣きのツボを深堀りする行為にもなるのです。
泣き言セラピー
続いて、泣き言セラピーというワークショップへ。涙の形をした水色の紙(涙レター)に匿名で、泣き言(ストレス)を書き出して(吐き出して)スッキリしてもらおうというワークショップです。
仕事などで溜まっているストレスを、どんどん書き出してもらいます。人のストレスは、胸のあたりにモヤモヤと溜まります。それを書き出すことによって整理し、文字化することによって、自分の今のストレス状況を客観視してもらうことが泣き言セラピーの狙いです。
毎回、吐き出した泣き言をいくつかピックアップして読み上げて、アドバイスを送るということをやっています。
「仕事が遅くまであり、帰宅するのも深夜。なかなか寝付けなく、朝起きるのがつらい。昼間もウトウトしてしまう」という泣き言には、私からは、「ぜひ、寝る前に泣いてください」とアドバイスを送りました。
泣くことで副交感神経優位に切り替わり、リラックスできるので、睡眠に入りやすくなり、ぐっすり良質な睡眠が取れるようになるというのがその理由になります。「寝る前に泣いてください」と言うと、翌朝、目が腫れて大変なことになるのではと言われますが、涙を流しっぱなしにすると意外に目が腫れません。目をこするから腫れてしまうのです。あるいは、温かいタオルと冷たいタオルを用意し、交互に目に当てると腫れにくくなります。以上のような感じで、泣きの効用に基づいて、アドバイスを送ります。
勤め人の泣き方
次にパワーポイントを使って、今の企業をとりまく従業員のストレス状況を話しました。従業員が50人以上の事業場に限りますが、2015年12月にいわゆるストレスチェックが義務付けられた企業のメンタルヘルスケア施策についての話をして締めました。
企業人には、セルフストレスケアの方法を身に着ける必要性があり、ちょっとした空き時間に泣いてほしいという話をしました。今のご時世、スマホ等に簡単に映像をストックできます。
2~3分ぐらいで泣ける映像が動画サイトになどにはたくさんあるので、そこから自分の泣きのツボにあった映像を見つけ出しストックしてください。仕事の間のブレイク時間に観て、ストレス解消をしてほしいと考えています。あるいはオススメの泣ける映画をリストして、仕事終わりに観に行くのもいいでしょう。
「人前で泣くのは良くない」「泣くとかっこ悪い」「泣くとみっともない」「男は泣くな」等、従来泣かないことが美徳だと言わわれて日本人は育ってきました。しかし今、泣くことが身体に“良い”ということがわかってきました。だからこそ、私が率先して、「泣いてもいいんだよ」と社会にメッセージを投げていくことは意味のあることだと思って、この活動をやっています。
今回涙活を実施したベネッセさんの教育サイトにもありますが、今、社会は情報社会から、創造社会に変わる過渡期にあります。つまり、「新しい価値」が社会を作っていきます。涙活も、その一翼を担っていると考えています。そう考える一方で、実は涙活は新しい概念ではないかもしれません。私は涙活イベントの最後に、以下の言葉を参加者に問いかけています。
「人はなぜ泣くと思いますか?」
私はこう考えています。人類の進化の過程で人は、不要なものが取り除かれてきました。体毛はなくなり、2足歩行になり、社会に適応してきましたが、泣く機能だけは残っています。
なぜ残っているのか。人は生きていくうえで、いろんなストレスにさらされます。生きることはつらいことでもあります。そのつらさを緩和するために、神様が目から涙を流す機能を付けてくれたのではと思うようになりました。今後もこの涙活の良さを人に伝えていきたいと思います。