西武鉄道の新型特急電車「Laview」の斬新な外観

西武鉄道の新型特急電車001系「Laview」は、大胆な外観や内装が驚かれ、このところメディアを賑わしている。斬新な発想に基づいてデザインされた車両であり、もちろん注目が集まるのも自然なことだ。2019年3月16日の営業運転開始が待たれる。

「未来志向」を感じさせる電車ではあるが、ただ単に見た目が素晴らしいというだけの特急ではない。最新型であるからには、現在の鉄道に要求されるあらゆる事項をクリアしていることは当たり前である。

公共交通機関に対して利用客がいちばん求めていることは、もちろん目的地までの安全かつ安定した輸送である。しかしながら首都圏においては、しばしば輸送障害が発生しているのが実情だ。その原因の多くが人身事故である。そのため、対策として「ホームドア」の整備が積極的に進められている。

特急型電車がホームドア整備のネック!?

国土交通省では「駅ホームにおける安全性向上のための検討会」が繰り返し開催され、中間とりまとめが2016年12月に行われている。それによれば、一日の利用客数が10万人を越える駅に対し、ホームドアを優先的に整備することとしている。「車両の扉位置が一定など」整備条件を満たしている場合は、原則として2020年度までに整備を完了することが目標だ。

ただ、ホームドア整備のいちばんのネックは、実は車両により一致しない扉位置。すべての電車の扉の位置がそろっている東京メトロ・丸ノ内線などでは、比較的早くホームドア整備が完了したのに対し、西武鉄道をはじめ小田急電鉄、東武鉄道、あるいはJR東海道本線などではホームドアの整備が遅れている。それは、特急型電車の存在が大きく影響しているからである。

すべての電車が同じ形式、同じ扉位置のため、ホームドアが速やかに整備できた丸ノ内線

そもそも特急型電車は、長距離旅行向けに乗降扉部分と客室とが分離している構造が一般的であり、乗降扉も車端部に極力寄せて客室を広く取るのが、どの会社でもふつうの設計であった。西武鉄道の「Laview」も例外ではない。しかしそれでは、同じ線路を走り同じホームに発着する、片側に3~4カ所に乗降扉がある通勤型電車と、扉の位置が合うはずがない。

特急型電車の扉位置を合わせる工夫

では、特急型電車を運行している各社は、ホームドア整備に際してどのような対応策を採ったのだろうか。西武鉄道の場合、既存の特急型電車10000系「ニューレッドアロー」が老朽化による取り替え時期を迎え、新型車を投入するこのタイミングで手を打った。

「Laview」については、筆者は乗降扉の位置に最初から注目していた。ホームドア対策が施されていないはずがないからだ。果たして各号車とも、もっとも車両の端になる車端部には乗降扉を配置していなかった。少し内側に寄せることによって、片側4扉の通勤型電車のいちばん車端部に近い扉に対応するホームドアの開口部に、「Laview」の扉位置を合わせたのだ。

「Laview」の乗降扉は、車端部から離されて配置されている

報道公開の際、筆者は乗降扉が車端部からどのぐらい内側に寄っているか、大まかにではあるが実測してみた。すると、車両の端から約135cmの位置に、乗降扉開口部の外側があった。乗降扉の幅自体は85cmである。

一方、すでに池袋駅に設置されているホームドア(通勤型電車のみが発着するホームにある)では、こちらも電車の車端部からホームドアの開口部まではおおむね120cm。ホームドアの開口部自体の幅は145cmである。

目立たない点ではあるが、これは重要な改良である。この特急が走る西武池袋・秩父線では、所沢駅などで通勤型電車とホームを共用することになる。将来、ホームドアが整備される際、「Laview」の扉位置が妨げになることはない。

乗降扉が内側に寄った分の車内スペースは、曲線状にデザインされた黄色い内壁だけが目立つエントランスとなっている。内壁と外壁の間には機器類が収納されているとのことだが、限られた空間の使い方としては、いささかもったいなく思えるほどだ。これも、ホームドアにより駅ホームの安全を保つために必要なスペースとして、割り切られたのである。

「Laview」では、もったいないとも思えるスペースを設けることで、扉の位置を調節した

各社が工夫をはじめた「ホームドア」設置への条件整備

こうした構造の特急型電車としては、2018年に営業運転を開始した、小田急電鉄70000形「GSE」が先鞭をつけている。この車両も車端部には乗降扉がなく、一部の号車では本来、客室内に設ければ便利なはずの荷物置場を、わざわざ客室外の車端部に置くなど、車内設備の配置を工夫して将来的なホームドア整備に対応している。

小田急の新型特急電車「GSE」も、車端部ではなく車両内側に乗降扉を設けている

東武鉄道の500系「Revaty」は2017年にデビューしたが、この特急型電車は、3両編成を組み合わせて運用することを前提にしていることから、両先頭車は運転台の直後に扉がある。中間車はトイレなどの隣に乗降扉を配して、巧みに車端部への乗降扉設置を避けている。

東武鉄道の「Revaty」も乗降扉の位置を工夫している

では、既存の特急型電車で、まだ取り替え時期に達していないものは、どう対応するのだろうか。より幅広い範囲の乗降扉位置に対応する「ワイドドアタイプ」あるいは、「昇降式(ロープ式)」のホームドアを採用することも一案だ。前者は通勤型電車でも扉の位置や幅が異なるものが走っている東京メトロ東西線、後者は片側3扉車と4扉車が混在している、JR西日本の路線で採用されている。

もっと簡単な解決方法を編み出したのが、東京メトロ・千代田線だ。この線には小田急電鉄から直通の特急ロマンスカー60000形「MSE」が乗り入れてきている。MSEは2008年のデビューと新しく、最近も増備が行われた車両である。だが、「ホームドア対策」は施されておらず、乗降扉もおおむね車端部ぎりぎりにある。

一方、千代田線も混雑が激しい路線であり、ホームドア整備は喫緊の課題だ。そこでどうしたかといえば、特急に限り、普通列車とは停止位置を少しずらして、「ホームドアと場所が一致する乗降扉のみ開ける」ことにしたのだ。一部の乗降扉、およびホームドアのみを開閉させる技術は、まったく難しいものではない。

ホームドアに合う位置の扉だけ開閉することにした、千代田線内の小田急「MSE」

MSEのこの施策は、2018年10月20日より実施された。もちろん、すべての乗降扉を開くことはできないが、通勤型電車に合わせたホームドアを設置した駅でも、10両編成の特急の場合は6カ所で乗降可能となったのである。なお、千代田線内で扉を限定した乗降方法は、乗り入れ当初から行われていた。今回は、乗り降りできる号車が変わったということだ。

こうした各社のホームドア対策を観察してみると、やはり西武「Laview」の設計が後発だけに、スマートに思えてくる。鉄道会社の看板である特急型電車と通勤型電車の共存方法は、まだこれから各社の大きな課題となってくるだろう。

(土屋武之)