音楽活動って、なんら会社員とやっていることは変わりない

――そもそも、仕事自体はスギムさんにとって充実して、楽しいものだったのでしょうか。

割と自由な会社だったので、居心地は良かったです。僕がクリトリック・リスを始めていなかったら、今でも同じ会社に勤めていたと思います。42歳のときに退社したんですけど、最終的には部長になっていました。同期の中でも順調に出世していた方だと思うし、不満という不満はなかったですね。僕は元々、営業だったんですけど、自分の性格的なものもあって全然ギラギラしていなかったんですよ。貪欲じゃ無いんです。お世辞も言わないし。強引に商談もしない。そのスタイルが若いお客さんに受けてました。営業に通って仲良くなったお客さんが、数年後に出世して予算を持つようになって。それで、ライバル会社に発注していた仕事を、僕の会社に全て切り替えてくれた事もありました。僕自身に特別な知識とか営業スキルがあったわけじゃなくて、相手に隙を作りやすい性格が、良い具合に転がって出世していったんです。だけどやっぱり、課長よりも上に行くとそういうわけにもいかなくて、しんどかったですね。新規事業を立ち上げたり、損益計算書や事業計画書の作成、人件費を減らせという話が僕の方に来るようになっていったので。

――じゃあ、部下もたくさんいたんですね。

そうですね、3つの課を同時に任されていた時期もありました。

――今振り返ってみて、ご自分でどんな上司だったと思いますか。

主任や係長までは、プライベートでも部下たちと一緒にバーベキューをしたり旅行に行ったりするようなフランクな上司でした。でも課長職になると、どうしても怒らないといけないときが出てくるんですよね。僕は昔から怒るのが苦手なんですよ。だから、鏡の前で怒る練習をしていました。

――練習しないと、怒ることができなかった?

怒れなかったですねえ……。それまでは、落ち込んでる後輩に、次は頑張ろうぜって慰めてたのが、管理職になると怒らないといけない場面も多々出てくるんです。心の中では全然怒れてないんですよね。パフォーマンス的にやっているというか。僕が怒る人間だぞっていうことを見せつけないとと思って、あえて人前で声出して怒ってみたりとか。職に応じて自分のキャラを作っていかないといけないというのには、すごく苦労しました。僕の顔自体がそういう威厳もないので(笑)。

――でもその分、人望があったから、出世にもつながったんじゃないでしょうか。

う~ん、そうなんですかね?

――サラリーマン生活をしていたことで、今の活動に活かされていることってどんなことがありますか。

音楽活動って、なんら会社員とやっていることは変わりないと思うんですよね。あまりそこを意識しているわけではないんですけど、結局、僕がフェスとかイベントに誘ってもらえるというのは、多少なりとも営業力というのもあると思うんです。僕の名前を売るためのやり方とかも、割とサラリーマン生活を経験しているからこその発想があると思います。

より多く人と会うことで、人生が変わるんじゃないかな

――2019年4月20日(土)には「クリトリック・リス生誕50thイベント」として、日比谷野外音楽堂にてワンマン・ライヴを行うわけですが、意気込みを聞かせてください。

日比谷野音は、3,300人くらいのキャパの会場なんですけど、そこを満員にすることが僕の目標ではなくて、あくまでも、仕事を辞めて音楽活動をしてきて、無事50歳を迎えることができるという、自分へのプレゼントの気持ちでの自主企画なんです。僕が50歳になる人生の一大イベントをみなさんに祝ってほしいです。あと2月20日新しいアルバム『ENDLESS SCUMMER』(エンドレススカマー)をリリースしたんですけど、このアルバムも野音の集客に繋げるための一環です。普段ライヴハウスに来てくれる人たちには僕が野音でワンマン・ライヴをすることは知ってくれてると思うので、そこから先の人たちに届けたくって。このアルバムがCDショップの店頭に並ぶことやメディアに露出することで興味を持ってくれたらいいなと思います。自分で言うのも何ですが、笑って泣ける本当にいいアルバムなので多くの人の聴いてほしいです。

  • ワンマンライブでのステージ(写真:RYUTARO SAITO)

――この記事を読んでいるサラリーマンのみなさんにひと言お願いします。

アドバイスするようなこともメッセージもないんですけど(笑)、僕は強い意志があって野音をやることになったわけではなくて、かといって偶然でもないというか。会社を辞めて、サラリーマン時代よりは収入は減っているんですけど、毎日楽しく過ごせてるというのは、やっぱり人の応援だとか人間関係があってだと思っています。会社員時代と音楽活動を始めてからの大きな違いは、会社にいたときは友達と呼べるような友達ができなかったんですよ。会社の仲間と飲みには行っていましたけど、友達では無いんですよね。同僚だった仲間が部下になったり上司になったりで、今までの人間関係がゴロッと変わってしまったこともありましたし。仕事が中心の生活になると自宅と会社の行き来だけで、新たな人との繋がりがなかなかできないんですよ。僕は、音楽を始めて、世代も立場も全然違う友達がたくさんできた。今はネットで何でも情報を得られるけど、何かあった時、助けてくれるのは情報じゃなくて、人だと思います。より多く人と会うことで、人生が変わるんじゃないかな。

※次回では、スギムさんが悩めるサラリーマンたちの相談に答えます。

クリトリック・リス
『ENDLESS SCUMMER』(読み:エンドレススカマー)
発売日:2019年2月20日
価格:2,500円+税
品番:SCUM-001
レーベル:SCUM EXPLOSION
POS:4580529539039
形態:アルバム
収録曲:
1. 四番目の女
2. MIDNIGHT SCUMMER
3. エレーナ
4. ちゃう
5. NONちゃん
6. 群青の純情
7. 俺はドルオタ
8. レイン
9. 転生
10. 味噌汁
11. ラストライブ
12. RAVE

  • クリトリック・リス『ENDLESS SCUMMER』

●information
「クリトリック・リス生誕50thイベント」
2019年4月20日 日比谷野外音楽堂
時間:開場 17時00分 / 開演 18時00分
チケット料金:前売り 3,000円 / 当日 3,500円
※雨天決行
※3歳以上要チケット