身だしなみの一環として、人目に触れやすい手や、手の爪をケアしているというビジネスマンは少なくないだろう。その一方で、足の爪をはじめとするフットケアとなると、ほとんど意識したことがないという人も多いのではないだろうか。
しかし、近年はつま先が細い男性用の革靴が増えたことなども背景となって、外反母趾などの足のトラブルに悩む若い男性も増加しているという。
そこで今回は、都内でも珍しい足の爪切り専門店、その名も「爪切り屋 足楽(あしらく)」にお伺いして、プロの技を実際に体感してみることに。自宅でもできるフットケアを教えていただいたので、そちらも併せて紹介しよう。
足の爪は四角く切る!?
今回、プロによる足の爪切りを体験するのは、編集担当のY氏。日本橋三越前店の店長・今村佳子氏が我々を出迎えてくれた。
同店の施術メニューは、「膝下マッサージ」や「角質ケア」など、内容によっていくつかのコースに分かれている。自分の爪の切り方が正しいのか知りたいというY氏は、足浴と足の爪切りがセットになった「足爪ケア」をチョイス。同メニューの施術時間は約40分、料金は税込4,320円となっている。
まずは施術用の椅子に座り靴下を脱いだら、デトックスや保湿効果のある塩を入れたお湯に足をつけるところからスタート。
今村氏いわく「乾燥して硬くなった状態で爪を切ると、爪が割れたり筋が入ったりしやすいので、爪切りの前には足浴を行います。普段の爪切りも、お風呂上がりなどのタイミングで爪が柔らかい状態のときに切るのがおすすめです」とのこと。
約5分間の足浴を終えたら、足をタオルで丁寧に拭いていただく。恥ずかしさと謎の優越感のようなものに包まれ、Y氏はなんともいえない表情を浮かべている。その間、ただ拭かれているだけかと思いきや、実は今村氏による足のチェックが行われていた。
Y氏の足は「指もまっすぐで外反母趾のような変形もなく、爪も綺麗なピンク色でとても健康的」らしいが、「親指の爪の切り方が深爪気味」との指摘も。たしかに、角に汚れがたまるのが気になって、親指はつい深く爪切りを入れがちかもしれない……。
その後、爪周りのゴミなどをキレイに掃除する。改めて他人に素足をまじまじと見られるだけでも恥ずかしいが、ここ数年はニオイも気になり始めているというY氏。
今村氏に相談してみると、「足は、身体の中で口腔内に次ぎ2番目に菌が繁殖しやすい場所だと言われています。靴と靴下を履いているため湿度・温度がありますし、さらに角質は菌にとって一番の餌になるんです。特に爪の周りはどうしても細かいゴミや垢がたまりやすいので、お風呂に入った際に赤ちゃん用の柔らかい歯ブラシなどで優しく擦るといったケアが効果的です」とアドバイスが。
髪の毛などと同様にタンパク質から構成される爪や皮膚は、ニオイが付着しやすい性質があり、菌が繁殖することでさらに強いニオイを引き起こすのだそう。そのため、爪周りのゴミなどはこまめに取り除き、清潔に保つのが何より大切だという。
爪周りの掃除が終了したら、いよいよ爪切りのスタートだ。今村氏の手元を見てみると、なにやらニッパーのようなものを持っている。これがメインで使用する爪切りだという。親指が深爪気味との指摘をいただいたY氏は、爪が切られていく様子を観察しながら、気を付けるべきポイントを聞いていく。
「特に男性は全体的に深爪の傾向が強いですね。深爪気味の人は、ヤスリを使って少しずつ削るようにすると良いでしょう。足の爪の長さは、真上から見て指先と同じくらいが理想的です。白い部分が少し残るくらいを目安にするといいかもしれません」と今村氏。
続けて「足の裏は身体を支える土台。足の爪は指先を保護する役割があり、力を入れる時の支点にもなります。つまり、爪が短すぎると踏ん張りが利かなくなるんです。手の爪は丸く切りますが、足の爪は四角に切って角をちょっと落とす“スクエアオフ”という形に整えてください。そうすると最も踏ん張りが利き、足先もしっかり保護できます」と、爪の切り方をレクチャーしてくれた。
足先をしっかりケアすることで、普段の姿勢や歩き方も改善される。特に社交ダンスやゴルフなど重心を意識するスポーツでは、パフォーマンスに影響を与えることもあるというからその影響は侮れない。
プロがオススメする“指トレ”とは
足先を触られると副交感神経が働くため、ほとんどの人が施術中に寝てしまうらしい。Y氏いわく、今回の施術中も痛みや不快感などは一切なく、感覚的には美容室でシャンプーしてもらっている気持ち良さに近いかもしれないとのこと。
同店の施術内容や設備は、ドイツなどの“フットケア先進国”で行われているケアを踏襲しているという。
ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国では、乾燥した気候や靴(土足)文化、体格などが原因となって足のトラブルを抱えている人が非常に多く、日本とは比にならないほどフットケアへの意識が高いのだそう。フットケア専門の国家資格もあるほどだというから驚きだ。
ちなみに、先ほど登場したニッパータイプの爪切りもドイツ製。爪切りにもさまざまなタイプがあり、「足専用」のものも市販されている。これらは一体、何がどう違うのだろうか。
今村氏に聞いてみると、「真ん中が窪んでいる普通の爪切りと違い、足専用の爪切りは刃がまっすぐだったり、逆側に少し膨らんでいたり、適切な足の爪の形に切りやすいような設計になっています。足の爪は身体の端っこにあって、単純に手の爪よりは切りにくいので、当然ではありますが握りやすくて使いやすい爪切りを選ぶのが一番です。いろんな爪切りを試して、自分にとって使い勝手がいいものを選んでください」という答えが返ってきた。
視力が低下したり身体が硬くなったりすることで、足の爪を上手に切れず悩む人も少なくない。また、加齢による骨や筋力の衰え、靴が合っていない、爪白癬(爪の水虫)などの病気といったことが原因で足の爪が変形し、爪切りが難しくなるケースもある。
正しく爪切りを行うことで改善する場合もあるが、一時的に落ち着いても爪が伸びると何度も同じような症状が出るという場合は、金属のプレートを使って少しずつ爪の形を変えていく「リフトアップ」といった処置が必要になることも。
こうしたトラブルを予防するためには、前述したように足を清潔に保つことも大切だが、日常生活の中でできるちょっとした工夫で足のダメージを軽減させることもポイントだという。
「五本指ソックスは一本一本の指が独立しますし、指の間の水分もしっかり吸い取ってくれるのでオススメしています。靴を履くときはかかとをしっかり合わせて、つま先はなるべくフリーな状態にすると指先の負担が減ります。靴紐はなるべく毎回縛り直して、かかとから足の甲を安定させましょう」と今村氏が言うように、足全体をケアすることが爪のトラブル防止にもつながるのである。
また、足の裏の筋力などが衰えた結果、足が歪んで爪が変形し痛みが生じることもあるため、足の裏や指の筋肉を鍛えるのも重要とのこと。
「そうした筋肉は足の指を動かしていないと次第に衰えてくるので、習慣的に足の指を『グー・チョキ・パー』と動かす運動をしましょう。『足の指なんか全然動きません』という人も、やっているうちに少しずつ動くようになります。身体を支える筋肉が鍛えられることで、転倒の防止にもつながります」というアドバイスを受け、実際に足の指を動かしてみるY氏。チョキで足がつりそうになり、衰えを実感したようだ。
他人の手を見る機会は少なくないが、足を見る機会はそうそうないはずだ。それゆえに、足の爪のケアなどは他人と比較することもあまりなく、自己流になってしまいがちではないだろうか。
しかし、誤ったケアによっていざトラブルが起きてしまうと、場合によっては歩くことすら困難になり、生活の質が大きく下がってしまうこともある。接客で立ち仕事が多い人や、外回りの営業でよく歩く人などはもちろん、足に関する悩みがあるという人は、一度プロに相談してみるといいだろう。