年末年始は親や親戚と集う機会が増える時期です。なかなかふれにくいものの、親や親戚の「もしものとき」の話はしておきたいもの。2018年はなんと約40年ぶりに「相続法」が大きく改正されました。今回はその法改正が実際の相続にどのような影響を与えるのかを解説。ポイントをおぼえておいて、親戚や親との会話のきっかけにするのもいいかもしれませんね。

配偶者の住まい確保を目的とした「配偶者居住権」とは?

2018年7月、相続法が大きく改正されました。約40年ぶりということもあり、なんとなくメディアなどで見聞きした憶えがある人もいるかもしれません。今回の改正では、「配偶者の住まい」に大きく焦点があてられ、住まいの所有者である夫や妻に万一のことがあったときに、のこされた配偶者が安心して暮らせるよう「居住権」が新設されました。

人生100年時代と言われる昨今、超高齢化社会を見据えて、配偶者に万一のことがあってもその後も安心して住み続けられる「住まい」を確保しようというのがその狙いです。

2018年7月 相続法改正の住まいに関する主な内容

★配偶者居住権を保護するための方策
・配偶者居住権を創設
・配偶者短期居住権の創設

※施行日は公布の日(7月13日)から1年以内。ただし、「配偶者の居住権を保護するための方策」は公布の日から2年以内

では、どのように変わったのかを解説していきましょう。 まずは改正前の相続についてです。まず、下表のとおり、住まいの所有者である夫が先立ち、自宅と預貯金合計4000万円遺された場合を考えます。

妻と子どもは法定相続分にのっとり(遺産のうち妻1/2、子1/2を受け取る)相続を進めますが、妻は自宅に住み続けようとすると、それだけで法定相続分の2000万円に相当してしまい、預貯金を相続することができません。そのため今後の生活に不安が残ります。子どもも預貯金分を相続したものの、親の暮らしむきが不安になることでしょう。

そこで今回、「配偶者居住権」が創設されました。ポイントは、相続時に建物についての権利を「配偶者居住権」と「負担付きの所有権」に分ける点です。遺産分割時に配偶者が「配偶者居住権」を取得し、配偶者以外の相続人が「負担付きの所有権」を取得します。配偶者の自宅の使用期間は終身または一定期間で、無償で使用することができるようになります。

これにより、遺された配偶者が自宅に住み続けながら、預貯金などの他の財産も相続しやすくなります。

また、「配偶者居住権」は、自宅に住み続けることができる権利ですが、完全な所有権とは異なり、人に売ったり、自由に貸したりすることができません。そのため、評価額を低く抑えることができ、配偶者に住まいと財産の両方を残しやすくなるのです。

「配偶者短期居住権」で、相続でもめても当面の住まいは確保できる

今回もう一つ、「配偶者短期居住権」も新設されました。これは、遺された配偶者が、遺産分割協議が終わるまでは自宅に無償で住むことができる権利です。遺産分割協議が親子や親族の間でスムーズに進めばこの権利を使うことはありませんが、現実にはもめてしまい、解決に5年、10年かかってしまうことも。これは、そうした相続争いになったときのために役立ちます。

これまで、遺産は相続時に法定相続分に分けられたとみなされていました。つまり遺産が自宅だけで、配偶者と子どもの2人が相続人なら、相続発生の時点から自宅の半分が配偶者、もう半分は子どものものとなります。ですから、配偶者は自宅の半分を「子どもから借りている」ことになってしまい、相応の家賃を負担しなくてはいけないのです。これは配偶者からみれば、住み慣れた家に暮らしているだけなのに、「痛い出費」となってしまうこともあったのです。

今回、「配偶者短期居住権」ができたことにより、「遺産分割により居住建物の帰属が確定した日」か「相続開始時から6カ月」のいずれかの遅い日までの間、無償で住み続けることができるようになります。これにより配偶者の当面(早くとも相続開始時から6カ月)の居住権が確保されることになります。慌ただしい時期に、当面の住まいが確保されているだけでも、心強いことでしょう。

今回の法改正では、配偶者ができる限り不安なく残りの人生を送れるように、住まいを確保したかたちとなっています。これに加えて、家族や親戚で万一のときはどうしたいのか、話し合っておくとよいでしょう。

嘉屋恭子

嘉屋恭子

フリーライター。編集プロダクションなどを経て、2007年よりフリーランスで活動。 主に住まいや暮らしに関わる分野で取材・執筆を続ける。FP技能士2級取得