――『VS嵐』のセットは、大掛かりなものが多いですよね。

アトラクションのセットは、グラフィックからデザインして、ゲームのロゴも全部やっています。世界観を作るために、色味にもだいぶこだわってやっていますね。また、新しいアトラクションを考える会議になると、アイデアが出た段階で僕が入って、それを絵にしていくんです。そうすると体感として、そのゲームがどうなるかって見えてくるんですよ。そうやって会議しながらデザインを描いていくので、いろんな人のアイデアが乗っかってくるというメリットもあります。

  • 「ボンバーストライカー」

  • 「キッキングスナイパー」

――結構デザイナー的にムチャなアイデアが出てくることもあるんですか?

常にあります。でも僕は、演出家、あまり美術の専門知識がなくて、ムチャぶりをしてくれたほうがいいなって思うんですよ。例えば、「ジャイアントクラッシュで『VSマッチョ君』がワイングラスからワインをこぼしたら面白いね」って言われると、ムチャ言ってるなぁと思いながら、赤いボールがいっぱい入ってることで擬似的に表現すれば、ボールがガラガラとこぼれる様ができるとか、やり方によってはいけるなと思うわけです。これが、「俺は美術のこと詳しいぜ」みたいな人が来ると、初めから無理だからとあきらめちゃってたりして、結局つまらないセットになったりするんです。やっぱり餅は餅屋で、演出家は演出に専念してより自由であってほしいですね。ムチャをかなえるのもデザイナーの仕事だと思っています。

――嵐さんが考案したアトラクションもありますよね。

「ショットガンディスク」ですね。あれも他のアトラクションと同じように、直接話し合いながら絵を描いていって、テストで作って実際にやってみるという作業を繰り返しました。番組の中で、1つのアトラクションを作るということでだったのですが、実際に定番のゲームになってうれしかったです。

  • 「ジャイアントクラッシュ」

■空間を丸ごと描く『RIZIN』

――年末年始も、大みそかは『RIZIN.14』(12月31日18:00~23:45)、元日は『ニッポンよ! セカイを倒せ! フジヤマ』(1月1日18:00~21:00)を担当されると伺いました。

『フジヤマ』は、2018年から始まったんですが、フジテレビの年末年始の目玉番組ということで、シンボルとしてセットに赤富士を背負っています。年に1回しか使わない番組なので、保管場所をとらないよう、畳めるように布で製作してあります。

  • 『ニッポンよ! セカイを倒せ! フジヤマ』

――『RIZIN』はさいたまスーパーアリーナの会場で行われ、いわゆるセットというものがないですが、美術デザイナーとしてはどのように関わるんですか?

『RIZIN』の場合は映像から照明まで、空間を丸ごと描くことによって、その空気を作っています。例えば照明ですが、UFCが金網で囲んでいるのに対して、僕らは光のゲージにしようと考えて、ソチオリンピックで使われた「パラソル」というシステムを使いました。これは、音楽に合わせてライト自体が走りだすというもので、日本で唯一取り扱ってる照明家の林光政さんに直談判しにいって、RIZIN実行委員長の榊原(信行)さんにも「このライトでやらないと、後発の巨大格闘技イベントとして存在感が出せないです」と話をして、実現しました。実際に使ってみたら、もう最高でしたね!

  • 『RIZIN』

――従来の「美術デザイナー」という枠を超えて、お仕事をされているんですね。

昔の時代の舞台美術って、絵や彫刻などに代表されますが、現代では何でもあるので、「セット」っていうと物理的なものだけじゃなくなっていくんです。その場の空気を作ることを「セット」としたならば、ここまではやっぱり範疇になるんですよね。意外とこの業界で、プロジェクトマッピングや、映像(LED映像)、ムービングライト、音楽、ファッションなど、ジャンルをまたいで精通してる人があまりいないので、それぞれのプロにはまるで及びませんが、僕のように体は守備範囲みたいな者は結構便利みたいです。おかげさまでこの年末はレギュラー十数本に加え、単発で30本くらいの仕事をさせていただきました(笑)