■楽しさを忘れないフジテレビの美術

鈴木賢太
1974年生まれ、埼玉県出身。武蔵野美術大学卒業後、97年フジテレビジョンに入社。主な担当番組は『ENGEIグランドスラム』『IPPONグランプリ』『VS嵐』『ジャンクSPORTS』『MUSIC FAIR』ほか。14年には『VS嵐』正月特番のセットで第41回伊藤熹朔賞協会賞を受賞。

――今後、4K・8Kの時代になってくると、素材がバレてしまうとか、苦労する点は増えていくんですか?

確かに、ドラマのセットで壁のつなぎ目がバレてしまうとかいうことは当然あるんですが、テレビのセットって思ってる以上にウソが通じるんですよ。グレーのものを真っ白に飛ばしたり、やや暗いものを黒にしたりできるんで、作り手の工夫次第だと思いますね。逆に、裏側が見えてもある程度は見せてしまえばいいですし。むしろきれいに撮れますから、美術としては細かい表現まで伝わるのでメリットのほうが大きいですよ。

――フジテレビの美術デザインの特色というものは、何かあるのでしょうか?

ベースにコントやお笑いの哲学があるので、歌番組では美しさを求めながらも、楽しさを忘れないというところが、フジテレビらしさだと思います。僕が入社してから教わってきたのは、どこか1つ砕いて柔らかくして、ボケておくということ。つまり、きれいに作りすぎないということですね。3~4年目くらいで『笑う犬』『ワンナイ』『感じるジャッカル』というコント番組を同時にやって、1週間で20セットのデザインを描くことを3年やっていたら、何でも描けるようになりました(笑)。あのコント100本ノックのおかげで、気づいたらドラマもイベントもコンサートもできるようになってました。先述した、無理を言う演出家がこの局にはたくさんいて、今の僕を育ててくれています。

――各局で、それぞれの特色があったりするんですか?

どこの局にも面白い人がいて、その人がシンボルを作っているように感じます。NHKだと『SONGS』とかをやっていらっしゃる山口(高志)さん。彼は、すごくエッジが立ったカッコいいものを作っていて、とても尊敬しています。それをみんなが追いかけているように思います。他局のデザイナーとも、夜な夜な集まって、「あの番組はかっこいいね」とか話しています。でも、みんな描いているときは自分1人なので、孤独なんですが(笑)

■パンツのゴムひもを活用!?

――いろいろお話を伺いましてありがとうございました。最後に、こんなセットを作ってみたいという願望を教えてください。

今年の『FNS歌謡祭 第2夜』で、星野源さんのために考えたセットがあるんです。それは、パンツのゴムひもを5cm間隔で縦にピーンと張ったもので、表や後ろから光を当てたり映像を投写して、それを揺らすこともできるようにしました。今回、これはセットの一部だったんですけれど、一度、全面的にやってみたいんですよね。どこからでも出たり入ったりできて、プロジェクションマッピングを映したり、ARでポータブルなものに文字を浮き出させたりできたら、面白くなると思うんです。

  • 『FNS歌謡祭 第2夜』星野源の歌唱セットデザイン画

――最新技術を導入する一方で、意外とアナログな仕掛けも駆使されているんですね。

お金をかけなくても、創意工夫とデザインの力で、より面白く美しくできる一例だと思います。限界はありますけどね(笑)

――その仕掛けは、どのようなきっかけで作ったんですか?

「アイデア」という曲に対して、アイデアで返そうと。もともと、ゴムひもは素材として面白いなと注目してたんです。当初は、スクリーンを前面に置いて、間に星野さんがいるという構図でやろうかって話していたんですけど、星野さんが自分よりメンバーの映りを大事にしたいとおっしゃって。でも、広いセットにはしたくない、それでも音に埋もれたイメージにはしたいなと。そこで、この仕掛けを用いればセットを裂いて通れるし、スリットの映像越しに奥も伺えるんじゃないかということになって、実際に使ってみました。

  • 『FNS歌謡祭 第2夜』星野源の歌唱セット