三菱自動車工業は新型「デリカ D:5」の予約受付を開始した。先進安全装備の採用や内装の質感向上など、現行型から変わった部分はいろいろとあるようだが、まず、何といっても目を引く変更点は、その“顔”だ。顔がだいぶ変わっている。

新型の「デリカ D:5」(左)と「デリカ D:5 URBAN GEAR(アーバンギア)」。発売は2018年度中の予定だ。価格は税込みで約385万円~約425万円

フロントマスクが大きく変わった新型「デリカ D:5」

いかつくてギラギラした顔のミニバンが増える中で、無骨ともいいたいような独自の佇まいを守り続けてきた三菱自動車の「デリカ」。今回の新型で最も目を引く変化は、その佇まい、とりわけ顔が変わっていることだ。

現行型に比べると銀色の部分が増え、“目”が細くなった印象の新しいフロントマスクは、ミニバン市場のトレンドに合わせ、意図的に造形したに違いない。よく「オラオラ系」という言葉でミニバンのフロントマスクを表現したりするが、そちらの方向に寄せてきた感じだ。もっとも、私には“目”に見えた部分(横に並んだヘッドライト)が実は“眉毛”であり、その下のヘッドライト(縦に並んだもの)が本当の“目”であると考えれば、その顔は「カワイイ系」に見えてこなくもない。

ちなみに、現行型「デリカ D:5」のフロントマスクはこんな感じだ

三菱自動車が開催した新型「デリカ D:5」の事前説明会では、商品企画の責任者を務めた商品戦略本部の大谷洋二氏が商品概要についてプレゼンした。同氏によると、デリカ D:5は「“アウトドア”というユニークなポジションを確立した一方で、アウトドア色が強すぎたため、ユーザーを限定していた側面もある」そう。顔を変えたのは、端的にいえば間口を広げるためだったのだろう。

新型では「フォーマル」で「都会的」な方向へと立ち位置を変えた「デリカ D:5」

日本のミニバン市場は年間40万台規模で堅調に推移しているそうだが、その中で、デリカ D:5が押さえているシェアは3%程度だという。独自のデザインに加え、ほかのミニバンとは一線を画す悪路走破性も兼ね備えたデリカには、おそらく根づよいファンが存在するはず。しかし、ミニバン市場のボリュームゾーンでは、そこまで販売台数を稼げていなかったようだ。

顔以外の変更点としては、静粛性能向上、内装の質感向上、先進安全装備の採用などが挙げられる。三菱自動車では現行型に寄せられたユーザーの声に対応し、強みを伸ばすことと弱点を克服することの両方に配慮して商品企画を進めたという

50周年の「デリカ」に三菱自動車の決断

デリカ D:5の外見で特徴的な部分は顔以外にもある。横から見たときの形だ。悪路走破性を強みとするデリカ D:5では、アプローチアングル(クルマ先端の最下部と前輪の設地面が作る角度のこと)と地上最低高(車体の床下と路面の隙間)が大きく取ってある。砂利道や雪道、でこぼこ道などを走りやすくする工夫なのだが、こういった工夫が見た目の特徴にもなっているのだ。特に横から見た場合、デリカ D:5の横顔は“鼻”が突き出たようなシルエットになっていて、床と地面の間には、いわゆる普通のミニバンよりも大きな空間ができる。

こちらは現行型「デリカ D:5」

新型デリカ D:5を見ると、アプローチアングルは現行型の24度から21度へと小さくなり、地上最低高は現行型の210mmから185mmへと低くなっている。つまり、“アウトドア派”であることを象徴する部分に手を入れたわけだ。その点からも、このクルマが、“アウトドア派”という個性を少し犠牲にしてでも間口を広げようとしていることが分かる。

ただし、この点について大谷氏は、アプローチアングルは「競合のミニバンは15度前後なので、有利な数字」であり、最低地上高は「SUV並みを維持していて、競合に比べれば圧倒的な走破性」を実現できていると独自性を強調していた。

こちらが新型「デリカ D:5」。“鼻”が上下に伸びた感じだ

デリカの姿を変えようと考えた時、三菱自動車には「トレンドに配慮する」か「独自性をさらに強調する」かという2つの方向性があったはずだ。今回、同社は前者を選んだといえる。この決断により、デリカの往年のファンからは否定的な意見が出るかもしれないが、ミニバンが欲しいと考える人の選択肢に、デリカ D:5が登場する機会は増えるのではないだろうか。いずれにせよ、今年で50周年を迎える「デリカ」だけに、どんな方向性であれ、外見に変更を加えるのには勇気が必要だっただろう。その勇気が台数で報われるかは気になるところだ。

(藤田真吾)