メルセデス・ベンツは販売の主力である「Cクラス」に改良を施した。手を加えたのは構成部品の半分程度に相当する6,500カ所。日本では2018年7月に発表となった。モデルチェンジではないが、伝統と革新を旨とするダイムラーの、Cクラスに掛ける意気込みや思いが伝わる改善である。

メルセデス・ベンツが大幅な改良を施した「Cクラス」。軽井沢の「ル・グラン 軽井沢ホテル&リゾート」を拠点とする試乗会に参加し、さまざまなボディタイプを乗り比べてきた(※編集部注:本稿の画像では、編集部が試乗・撮影できた車種を紹介していきます)

電動化技術を取り入れた新エンジンが改良の目玉

改良の目玉の1つは、先に「Sクラス」で採用した電動化技術を組み合わせた新ガソリンエンジンの採用だ。Sクラスでは排気量3.0リッターの直列6気筒ガソリンエンジンにモーターを組み合わせたISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)を導入。その驚くべき性能と快適さの両立に、電気自動車(EV)に至るまでの次世代動力源の姿を見た思いがした。今回の改良でCクラスには、同じくエンジンにモーターを組み合わせた排気量1.5リッターの直列4気筒ガソリンエンジンを採用したのである。ISGの小型版ともいうべきエンジンだ。

CクラスとSクラスでは、構想は同じでも採用技術が異なる。Sクラスは専用のモーターをエンジンと変速機の間に組み込んでいたが、Cクラスではモーター機能を持つ交流発電機をベルト駆動で利用する方式となる。これは、スズキが軽自動車で採用し始めた「S-エネチャージ」(マイルドハイブリッド)と同じ手法だ。このシステムを、ダイムラーではBSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)と呼ぶ。

セダンタイプの「C200 アバンギャルド」。1.5L直列4気筒ターボエンジンに「BSG」と「48V電気システム」を組み合わせた新しいパワートレインを搭載する。外装色はヒヤシンスレッドだ

試乗した印象としては、わずか1.5リッターの排気量しかないガソリンエンジンであるにも関わらず、Dセグメントに分類されるCクラスを走らせる上で、十分な動力性能を感じることができた。ただ、驚くべき出力特性や快適性を感じさせたSクラスの直列6気筒に比べると、やや肩透かし感を覚えたのも事実だ。モーター出力を向上させたり、モーター依存度を上げたりするなど、今後の改良を経ていけば、Cクラスのエンジンも熟成していくはずだ。

エンジン以外では、Sクラスと同じハンドルデザインによる運転支援機構の操作性がよくなり、前車への追従走行機能や、車線維持機能などを利用し、快適に高速道路を移動することができた。運転支援機能は他車でも広く普及し始めているが、メルセデス・ベンツの扱いやすさと信頼感は群を抜いている。その完成度はCクラスでも感じられた。

「Cクラス」のセダンは449万円~578万円からという価格設定。「C200 アバンギャルド」(画像)は552万円からだ

ステーションワゴンは調和に優れた仕上がり

今回、ステーションワゴンはディーゼルエンジン車での試乗となった。「Eクラス」にも搭載されている2.0リッターディーゼルターボエンジンは、出力を向上させ、振動騒音も改善して快適性を高めているとのことだった。しかし、やはりディーゼルならではの振動騒音は、上質さを増したCクラスのステーションワゴンには釣り合わない印象があった。

欧州市場では、比較的小型な乗用車でディーゼル比率が下がっている。そこまで逆風が吹いていない日本市場でも、例えばボルボは、「V60」以下の車種においてディーゼル車の販売を止めると宣言している。この先、例えば5年後には、ディーゼル車の残存価値が低下しているかもしれないというのが理由だ。実際、日本の自動車メーカーの中でも、欧州市場からディーゼルエンジン車を撤退させる決断が相次いでいる。

屋根が開閉可能な「C180 カブリオレ スポーツ」。モハーベシルバーの外装色にダークレッドのトップを組み合わせてある。価格は615万円から

Sクラスに比べれば上質さに欠ける印象のあった1.5リッターのBSGエンジンだが、今後の熟成を経ていけば、将来的にはディーゼルの代替となっていくのではないだろうか。

もちろん、年間の走行距離が2~3万kmに及ぶ人であれば、ディーゼル車を選ぶ理由はある。輸入車はプレミアムガソリン指定となるため、軽油の方が燃料代は安くあがる。また、高速道路などでの追い越し加速において、ディーゼルエンジンはわずかなアクセル操作で十分な加速をもたらし、運転を楽に感じさせてくれる。とはいえ、運転支援機能を使えば、ガソリンもディーゼルも大して違わないということになっていくはずだ。

原動機の話は別として、Cクラスのステーションワゴンは、運転しやすくて長距離移動でも疲れにくく、荷物の積み込みのしやすい荷室を備え、後席でも背もたれが調整できる自由度を持つなど、性能や使い勝手などの全てにおいて過不足ない仕上がりを見せている。全体の調和に優れるのが特徴といえるだろう。

3.0LのV6直噴ツインターボエンジンを搭載する「AMG C43 4MATIC」。外装色はブリリアントブルーだ。価格は940万円から

日本のワゴン市場に根強い需要

ところで、このステーションワゴンという車種だが、日本車では選択肢が限られる。選べるのはトヨタ自動車「カローラフィールダー」、スバル「レヴォーグ」、マツダ「アテンザ」くらいだろうか。一方で、ドイツ車ではメルセデス・ベンツのほか、BMW、アウディ、フォルクスワーゲンにそれぞれステーションワゴンがそろっている。Cクラスにおいても、国内販売の3割ほどはワゴンだというから、人気は根強いようだ。先ごろ、ボルボが新型「V60」を日本に導入したが、このクルマは前型のスポーツワゴン的な位置づけから、伝統的なステーションワゴンの姿へと戻っている。

Cクラスのステーションワゴンについてはすでに述べたが、それに対し、BMWはステーションワゴンにおいても前後重量配分で50:50にこだわる姿勢を崩さず、あくまで運転の歓びを追求している。アウディは全輪駆動の「クワトロ」で顕著なように、技術による先進を走りの安心につなげるという考え方を、ステーションワゴンにおいても貫いている。ゴルフはCクラスに通じるところがあり、実用性を重要な指標とする人には間違いのない選択肢となる1台だ。

「C220d ステーションワゴン アバンギャルド」のセレナイトグレー。2.0L直列4気筒直噴ディーゼルターボエンジンを搭載する

ボルボの新型V60は、それらの車種に比べて最も新しい作りであるため、Cクラス同様、全方位で性能が優れている。日本市場において、ボルボV60がCクラスの競合になるかもしれない。BMW「3シリーズ」にも来年あたりに新型が登場しそうなので、ステーションワゴンの競合も激しくなりそうだ。

そうした中で、日本の自動車メーカーがステーションワゴンに力を注がない状況は気がかりでもある。SUVのラインアップ充実を急ぐ日本の自動車メーカーは、あまりにも米国の市場動向に影響を受けすぎているのではないか。

Cクラスのステーションワゴンは473万円~602万円からの価格設定だ。ちなみに、セダン、クーペ、カブリオレ、ワゴンの全てのボディタイプでパフォーマンス志向のAMGが選択できる

SUVブームはステーションワゴンに回帰する?

SUVは「スポーツ多目的車」(Sport Utility Vehicle)というだけあって、多用途に使える魅力があるのは事実だ。そして、米国だけでなく欧州も含め、近年の人気車種となっている。ただ、今後の日本市場を考えると、SUVに全ての消費者の需要が向いていくとは考えにくいのである。

未舗装路を走ることも視野に入れるSUVは、最低地上高(床下と路面の隙間)がステーションワゴンやセダンに比べ高く、着座位置も高くなることから前方視界を見通しやすいという利点がある。だが、最低地上高や着座位置が高いことによって、高齢者には乗り降りしにくいクルマでもある。そして日本は今、高齢化社会へ向かっている。

ステーションワゴンはセダンのように乗り降りしやすい車種だ

その高齢者の中には、比較的所得の高い人がいて、なおかつ健康で元気な人も多い。60~70歳代になっても働こう、あるいは社会に貢献しようと意欲的な人がいる。そういう高齢者には孫もいて、孫と一緒に出掛ける機会もあるわけだが、そういう時、SUVでは乗り降りしにくいのである。その点、ステーションワゴンであれば着座位置が低いので、腰を落とすようにしてクルマに乗り込める。SUVから降りるとき、座席からのばした足が地面になかなかつかないというのは怖いものだ。しかし、ステーションワゴンなら足をのばせば地面に爪先がつく。

ワゴンであれば、最低地上高がセダンと同様だから、荷室への荷物の積み下ろしも楽になる。荷室の床が高いSUVに比べ、荷物を高く持ち上げずに済むからだ。

確かにSUVはブームだが、ステーションワゴンの使いやすさに市場のニーズが回帰する可能性もある

今は元気で若々しく活動的な世代の人も、やがて歳を取る。乗り降りしやすいユニバーサルデザインの多目的車という考え方を突き詰めると、人々の目は、改めてステーションワゴンに集まる可能性がある。ワゴンを作り続ける欧州の自動車メーカーは、そんな考えを持っているのではないだろうか。

今の売れ筋を追うのではなく、社会の変化や行く末を視野に車種構成を考え、そこにメーカーとしての存在感を持たせる商品企画が、日本の自動車メーカーからは抜け落ちているのではないだろうか。少なくとも、日本市場においてステーションワゴン需要が存続していることは、輸入車の販売状況を見れば分かる。

(御堀直嗣)