日本証券業協会は10月4日、東京大学・安田講堂にて、お金や証券投資の未来について考える公開講座「100年大学 お金のこと学部 開学記念特別講座」を開催した。この日は、ウェルスナビのCEO・柴山和久さんらが特別講師として登場。現在は、資産を自動運用するサービス「WealthNavi(ウェルスナビ)」を提供している柴山さん。その立ち上げに至った経緯などを踏まえ、グローバルな視点から「働く世代にとっての資産運用」がどういった形であるべきかについて講義を展開した。
これまで日本になかった金融サービスを
日英財務省で約10年間勤務し、予算・税制・金融・国際交渉に参画。マッキンゼー・アンド・カンパニーやウォール街で10兆円規模の投資家へのサポート。東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。そんな金融のスペシャリストともいうべき経歴を持つ柴山さんが2016年から提供を開始した「WealthNavi」とは、いったいどのようなサービスなのか。また、柴山さんはなぜそのサービスをリリースしようと考えたのか。
「私は東京大学を卒業して20年近く経ちますけども、今やっている仕事は3つめになります。そんな中で、実は国際結婚をしたことがきっかけとなって私は財務省を退職したんです。私の妻はアメリカ人なのですが、妻の両親と私の両親が、資産運用をしていたか否かで10倍ほども所有している資産に違いがあることに気付いたんですね。私の両親は企業に勤めていまして、退職金で住宅ローンを完済し年金を受け取って暮らしていました。それもすごく恵まれているほうだとは思うんですけども、妻の両親は若いうちからずっと会社の福利厚生で富裕層向けの資産運用サービスを活用していまして、その結果数億円の資産があるんですね。それで、同じ家族の中での資産の格差にショックを受けまして、今から3年ほど前にウェルスナビを立ち上げました」
こうして設立されたウェルスナビは、“モノづくりをする金融機関”という点を強く意識している。これまで日本になかったような金融サービスや資産運用サービスをつくっていくために、テクノロジーあるいはインターネットの専門知識を持つ人材と、金融の専門知識を持つ人材がひとつのチームとしてイノベーションを起こす。そんな想いを込めてリリースされたサービスは、アプリ上で資産運用が完結するというものであった。
「資産運用を自動化することで、働く世代の方々にもスキマ時間できちんとした運用をしていただく。我々はそういう未来を築こうとしています。2年ほど前に開始したサービスは、今では9万人を超えるお客様にご利用いただいています。その中でも、約6万人の方が平均して月3万2,000円ぐらい、年間で40万円弱ほど積み立てをされていまして、“長期・積立・分散”による資産運用に取り組んでいらっしゃいます」
“長期・積立・分散”というのは、
長期間(少なくとも10年以上)
決まった間隔で(例えば毎月)一定額を
世界のさまざまな金融商品に分散して
投資する方法のことを指す。
また、同サービスのユーザー層は、20~30代が約半分を占めているとのこと。20~50代、働く世代となると、その割合は全体の94%にのぼる。これは、日本においては極めて新しいタイプの資産運用サービスだと言える。
「日本には1,800兆円の個人金融資産があると言われているんですけども、その3分の2、1,200兆円以上を60歳以上の高齢者の方々が保有していらっしゃいます。ですから日本で資産運用と言いますと、例えば高齢者の方々が退職金をどうやって利用するかというような形でサービスが提供されてきたんですね。しかし、ウェルスナビの場合はそうではなくて、働く世代の方々の長期的な老後に向けた資産運用をサポートするということに注力しています」
働きながら資産運用をする時代に突入
“人生100年時代”、働く世代の資産運用が非常に大切になっている。そのような問題意識を持った柴山さんは、さまざまなデータをもとに事態の深刻さを主張する。
「厚生労働省が5年に1回発表している統計によると、大卒で定年まで働いた場合の退職金の平均額は、年間2.5%のペースで減少しています。仮にこのペースが続いていきますと、今35歳の方が退職する25年後には、退職金の平均額が1,000万円を切ってきます。さらに、少子高齢化によって年金に対する不安も広まっていきますね。そして、これからは老後というものもどんどん延びていくんじゃないかと言われています」
「働きながら住宅ローンを返済していき、退職金で完済して、余った退職金で資産運用をスタートし、65歳からの年金の支給開始を待つ。そういうライフプランはもう成立しなくなりつつありまして、働きながら資産運用することが大切な時代になってきています。これは決して未来の話をしているわけではありません。今日ここにいる、私たち一人ひとりがすでに直面している現実です」