古舘伊知郎に学んだ“言葉”へのこだわり

――ご自身の成長につながったと感じている古舘さんとの思い出を教えてください。

5年間ご一緒していたときは、最後の最後に一度くらいはあったかもしれないですが、褒められたことがなかったんです。厳しい目でご指導いただいていたので。ですが、古舘さんが番組を離れられて富川(悠太)さんとご一緒することになって日々格闘するなかで、ノーベル平和賞の中継を古舘さんが褒めてくださって、あの5年間が報われた感じがしました。

また、その前に『サンデープロジェクト』でご一緒していた田原総一朗さんもそうですが、1秒たりとも無駄にすることなく、その場に一番ふさわしい言葉を古舘さんは日々探り続けていた気がしていて、そういった言葉への意識やスタジオでの何気ない時間も無駄にしないという姿勢にはとても影響を受けたと思います。東日本大震災の取材と、古舘さんから学んだことが相まって“言葉”にこだわる思いが強くなったように感じます。

――古舘さんは本当に言葉を巧みに操り、そして独特な言葉を使われますよね。

そうですよね。打ち合わせの時間もずっとしゃべってらっしゃいました。オンエアでしゃべる時間が限られているというのもあって、その時間に言えないことなどを吐き出されていたのだと思います(笑)

――さすが古舘さんですね。本当にさまざま経験をされた7年半だったと思いますが、ご自身を見つめてどう成長したと思いますか?

ディレクターをはじめスタッフのみなさんが本当に一流で、古舘さん同様に1秒たりとも無駄にせず「『報道ステーション』としては、こう掘り下げます」というエッセンスを凝縮させようとしのぎを削っていた方たちで、そういう中で揉まれた7年半は貴重だったと思います。みなさんの真摯な姿から感じて、体に染みついているものはあるのかな、あってほしいなと思っています。ただ、『報ステ』での経験はまだ自分の中で整理できておらず、『AbemaPrime』という新たな舞台での生活が落ち着いてきた時に初めて、実感することもたくさんあるんだろうなと感じています。

  • 小川彩佳アナウンサー

自分の考えをどれだけ語れるか!『AbemaPrime』での挑戦

――そして、地上波からインターネットテレビのニュース番組へ。『AbemaPrime』のお話を最初に聞いたときはどう思いましたか?

これを決めた上層部はいったい何を考えているのかなと思いました(笑)。私も『AbemaPrime』はよく見る番組だったんです。というのも、自分としてニュースに対して何らかの思いを持って伝えたいという気持ちが常にあって、ニュースを多角的な視点で掘り下げている記事をいろいろ読み比べることを事前の準備としてやっていました。『AbemaPrime』は映像の世界でそれを行っている貴重なメディアで、一つ一つの話題やニュースをいろんな視点を持ったゲストの方と議論する中で、何かを見つけていこうとしていたので、よく見ていました。

その中で、司会進行を務める小松(靖)アナウンサーの大変さを…これは凄まじい仕事だなと感じていて、ただ、自分がそこに座ることは絶対ないだろうと思っていました。自分にはそれほど能力があると思えなかったので、私には巡ってこないんだろうなと。内示があったときは、小松さんの後任が務まるとは思えなくて、驚きとおののきがものすごかったです(笑)。どうしようと思いました。

――そうだったんですね。同じ夜のニュース番組ということで、すんなり受け入れられたのかと思っていました。『AbemaPrime』ではどんな司会進行をやっていこうと考えていますか?

“ネットだからできること”に、とことんこだわっていきたいと思っております。地上波で報道番組を担当して感じるのは、放送では紹介しきれない大切なことが、本当にたくさんたくさんあるんだということです。地上波ではキャッチしきれていない大事な事柄や当事者に寄り添う気持ちで、真剣に向き合っていきたいです。

ただ、多くの個性的な出演者のみなさんが作り上げていく日々の世界。台本通りにはきっと行かないでしょうし、走り出さなければわからない世界だなとも思っています。小松さんから引き継ぎをしてもらったときも、「事前にああしようこうしようと考えても、その場に出たらすぐに打ち砕かれてしまうような日々だと思うし、自分を飾ろうと思っても絶対に見透かされてしまう場所だと思う。でも逆に、自分も気付かなかった自分が発見できる場でもあるから、そのときそのときに自分はどう思うか自分への問いかけをたくさんして向き合っていったらいいと思うよ」と言っていただいて、まさにそれをするのみだなと。事前の準備をしても太刀打ちできない部分もある世界だと思うので、とにかく真摯に知ったかぶりをせず、共演のみなさんの起こす化学変化をありのままの自分で向き合っていきたいなと思っています。

――自分の言葉で自分の考えを長く話すというのが、大きな挑戦のようですね。

そうですね。『報道ステーション』では、ニュースの補足情報も、自分の考えも長々と語ることが求められる場面は少なく、このニュースに関して、これだけは伝えたいなと思うことを、できるだけ短い時間に凝縮させて伝えるということに心血を注いでいた部分があって、長く話すということに慣れていないんです。自分のことをしゃべる、自分はこう思うっていうことをしゃべるというのはアナウンサーの仕事の枠を超えていて、あまりに慣れていないので、その部分で『AbemaPrime』で絶句しちゃうんじゃないかなと(笑)。初日のオンエアなんておそらく言葉が出てこないのではないかと思っているんですが、それこそ自分の中の言葉を探していくしかないですね。

  • 小川彩佳アナウンサー
  • 本番を想定したシミュレーションの様子
■プロフィール
小川彩佳
東京都出身。青山学院大学卒業後、2007年4月にテレビ朝日に入社。2011年4月より『報道ステーション』の3代目サブキャスターに就任し、2018年9月28日をもって卒業。2018年10月2日より、インターネットテレビ局・AbemaTVの報道番組『AbemaPrime』の司会進行を務める。海外在住経験もあり、TOEIC915点、スペイン語検定4級と語学堪能。趣味は映画・音楽鑑賞など。
  • 小川彩佳アナウンサー
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