公的年金の受給を開始した際、よく疑問に思うことの一つに「年金には税金がかかるの?」ということがあります。実は、年金は税法上の雑所得にあたり、所得税がかかります。しかし、中には所得税が免除される場合もあります。

今回は、こうした年金控除について解説します。

公的年金等控除とは?

公的年金等控除は、昭和62年度の税制改正において、老年者年金特別控除及び給与所得控除に代わる他の所得との間の新たな負担調整のための控除として創設されました。以前から、この公的年金等控除が、給与所得控除に比べて手厚く不公平では、という問題が指摘されていました。

これは、公的年金等控除は控除額に上限がなく、年金以外の所得がある高齢者も、年金だけで生活している高齢者と同額の控除を受けられるなど、一律に年齢だけが基準となっていることが原因でした。また、公的年金等とは以下の3つを指しています。

1:国民年金法、厚生年金保険法、国家公務員共済組合法などの法律の規定に基づく年金
2:恩給(一時恩給を除きます)や過去の勤務に基づき使用者であった者から支給される年金
3:確定給付企業年金契約に基づいて支給を受ける年金など
※国税庁HP参照

公的年金等の計算方法は、公的年金等にかかる収入金額から公的年金等控除を差し引いて計算することとなり、雑所得に区分されています。

現在の年金税制においては、「公的年金等控除は、公的年金などを受け取る納税者の担税力が比較的弱いことを理由に設けられている控除であるが、その割合は相当程度高く、金額的にも大きいため、実際に受け取る年金についての課税は、かなり軽いものとされています(租特41の15の3)。」

※出典:佐藤英明(2016)『スタンダード所得税法【第2版】』弘文堂

公的年金等控除の対象年齢とは?

公的年金等控除は年齢によって区分が分かれています。具体的には65歳以上か未満かで公的年金等控除額は異なっています。

年齢 公的年金控除の最低保障額
65歳未満 70万円
65歳以上 120万円

※平成32年より、それぞれ60万円、110万円と一律10万円が引き下げられます

但し、公的年金等の収入が400万円以下で、かつ公的年金等の雑所得以外の所得が20万円以下の場合は、確定申告手続きは不要です。また、確定申告手続きが不要な方でも、医療費控除による還付をうける時等には確定申告をすることができます。

公的年金等の計算方法とは?

現行では、公的年金等に係る雑所得の計算は以下の様になっています。

公的年金等の収入金額 公的年金等に係る雑所得の金額
65歳未満の方 70万円以下 0円
70万円超130万円未満 収入金額-70万円
130万円以上410万円未満 収入金額×0.75-37万5千円
410万円以上770万円未満 収入金額×0.85-78万5千円
770万円以上 収入金額×0.95-155万5千円
65歳以上の方 120万円以下 0円
120万円超330万円未満 収入金額-120万円
330万円以上410万円未満 収入金額×0.75-37万5千円
410万円以上770万円未満 収入金額×0.85-78万5千円
770万円以上 収入金額×0.95-155万5千円

注:平成30年分の所得税については、65歳未満の方とは昭和29年1月2日以後に生まれた方、65歳以上の方とは昭和29年1月1日以前に生まれた方になります。

わが国の年金税制において、公的年金の保険料(掛金)は、その支払時に「社会保険料控除」として所得から全額控除され、さらに年金受給時には「公的年金等控除」として年金収入の多くの部分が控除されることとなっています。

このように、保険料の支払いの段階で課税がなく、年金の受け取り段階でも軽い課税で済むことから、わが国の公的年金に対する課税は非常に優遇されたものとなっており、この状況を放置してよいのかということが、現在、所得税制における重要な問題として議論の対象となっています。

※出典:佐藤英明(2016)『スタンダード所得税法【第2版】』弘文堂

また、平成30年度税制改正において、公的年金等控除の見直しが行われ、控除額の引き下げが予定されています。※

1:公的年金等控除額が一律10万円引き下げ。
2:公的年金等の収入金額が1,000万円を超える場合の控除額に195.5万円の上限を設ける。
3:公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が1,000万円超2,000万円以下ある場合、1及び2の引き下げた控除額からさらに一律10万円引き下げ。
4:公的年金等に係る雑所得以外の所得に係る合計所得金額が2,000万円を超える場合、1及び2の引き下げた控除額からさらに一律20万円引き下げ。

※平成32年分以後の所得税及び平成33年度分以後の個人住民税について適用されます。

公的年金等控除の活用の注意点

公的年金等控除は、国民年金、厚生年金、共済年金等における老齢年金を対象として適用されます。そのため、障害年金や遺族年金は、公的年金等控除の対象にはなりません。但し、障害年金や遺族年金はそもそも所得税法においては非課税所得とされていますので、考慮する必要はありません。

また、民間の個人年金保険について公的年金等控除は適用されません。「個人年金の収入金額」から「必要経費」差し引いて計算されることとなっています。さらに、上述したように、対象者の年齢によって控除額も異なっていますので注意して下さい。

公的年金等控除と給与所得控除の併用

公的年金等控除は、収入が低額となる高齢者に対する経済的な優遇措置であるにもかかわらず、給与所得控除と併用することができます。つまり、年金収入と併せて給与所得がある高齢者だと、年金のみの高齢者に比べ相対的に所得が多い上、過大な控除を受けられます。

これは、世代間負担の不公平の観点からも問題となっています。社会の少子高齢化が進むと、年金受給者が増加し、現役世代の負担が増大します。高所得者の公的年金等控除については、早急に適用の見直しを行う必要性があると思われます。但し、働く意欲のある高齢者の勤労意欲を削がないよう一定の配慮も必要となってくるでしょう。

著者プロフィール

塚本泰久
ツカモト労務管理事務所 代表社会保険労務士・FP。
関西地区を中心に、地域に密着した事務所を目指しています。会計事務所出身であるという視点から、企業の宝である人財と企業会計のバランスに重点を置くことで、より強い企業の体制作りをサポートしています。「ツカモト労務管理事務所