住宅金融支援機構は7月26日、「マンションの価値向上に資する金融支援のあり方勉強会」の設立などの内容で、プレス向けにセミナーを実施。社会問題になりうるマンション老朽化問題に対応していくための試みや、ここ数年で利用が急増している「フラット35(保証型)」などについて解説した。

  • セミナー冒頭であいさつをする加藤利男理事長

    セミナー冒頭であいさつをする加藤利男理事長

住宅金融支援機構(JHF)とは、住宅建設などの際の資金融通を支援し、証券化、保険、融資などを行っている国土交通省住宅局と財務省管轄の独立行政法人。最近では、西日本を中心に発生した平成30年7月豪雨について、被災した住宅などについての相談窓口を設けるなど、住宅に関するさまざまな支援を展開している。

老朽化マンションの価値向上を検討する勉強会が発足

まずはじめに、「マンションの価値向上に資する金融支援のあり方勉強会」の設立について、まちづくり業務部まちづくり再生支援室の清水明室長と経営企画部経営戦略室経営戦略グループの楢崎智生グループ長が設立の狙いなどを発表した。

  • まちづくり業務部まちづくり再生支援室の清水明室長

    まちづくり業務部まちづくり再生支援室の清水明室長

  • 経営企画部経営戦略室戦略グループの楢崎智生グループ長

    経営企画部経営戦略室戦略グループの楢崎智生グループ長

現在、国土交通省によると既存の分譲マンション戸数は約644.1万戸。その中で築40年を超えるものは約11%の約72.9万戸となっている。この数字は10年後には約184.9万戸、20年後には約351.9万戸となる見込みで、二十年後には全体の約42%ものマンションが老朽化対策を必要とする築年数になる。

しかしながら、居住者の高齢化や工事費高騰などにより、適切な修繕を行うための修繕積立金が不足するような管理組合が増加する懸念があるという。修繕積立金を借り入れに頼らざるを得ない状況だが、今のところそのような相談をどこにすれば良いかも認知されていない状態というのが現状だという。

現在、共用部分のリフォームローン市場は年間約500億円。その業態別シェアは、ノンバンクが約60%、JHFが約30%、地域金融機関などはわずか約10%と見込んでいる。ノンバンクには、エレベーターメンテナンス会社がリフォームローンも提供しているというような形が多いという。

  • 共用部分のリフォームローンはノンバンクが大きなシェアを占める特異な市場

    共用部分のリフォームローンはノンバンクが大きなシェアを占める特異な市場

楢崎氏は「ローンでありながら、地域金融機関などのシェアがわずか10%ほどというのは、個人向けのローンと比較すると特異な市場。まだまだ未成熟だと考えている」と話す。

今回設立された勉強会は、適切な修繕工事等の実施によってマンションの価値向上を目的とし、共用部分リフォームローン市場における金融インフラの整備について効果的な取り組みを検討、実施していくという。

現在のところ、適切な修繕の必要性を認知させることなどを考える「管理組合と市場関係者の間の情報の非対称性の解消」と実績やノウハウなどのデータ共有などを検討する「管理組合向け融資への民間金融機関の参入支援」を大きなテーマとして開始する。

  • さまざまな組織が参加を表明している

    さまざまな組織が参加を表明している

マンション管理等の関係団体や民間金融機関、国土交通省などの行政や有識者などで構成し、JHFが事務局となって発足する。

「今後、単なる融資ではダメだと考えている。修繕計画の見直しなど、コンサルティングが必要。当初、民間金融機関についてはすぐに収益が見込めるような勉強会ではないので反応が鈍いと考えていたが、『未開拓で学ぶべき』と取り組むべきという反応を得ている」と、想定以上の反応があったと話した。勉強会は8月より開始していくという。

「フラット35(保証型)」はなぜ申し込みが急増しているのか

続いて、「利用が急増している『フラット35(保証型)』の現状と今後の展望」をテーマに、業務企画部保証型・融資保険グループの藤岡淳一グループ長が解説した。

  • 業務企画部保証型・融資保険グループの藤岡淳一グループ長

    業務企画部保証型・融資保険グループの藤岡淳一グループ長

「フラット35」には買取型と保証型の2種がある。基本的には、民間金融機関が証券化をおこなうことにより、買取型よりも低利な全期間固定金利の住宅ローンとなるのが保証型だ。

買取型では、債券プール組成がJHFであるのに対し、保証型では民間金融機関が債券プールを組成している。保証型においてJHFは、金融機関に対して住宅融資保険を引き受け、住宅ローンを担保として発行される債券等にかかる債務の支払保証を行っている。金融機関が住宅ローンを提供する仕組みを支えている形だ。

「フラット35(保証型)」は、平成18年度ごろから取り扱いが始まり、買取型よりも優位な商品性で多くの申請があったが、リーマンショックにより金融市場が混乱。保証型のメリットが消失してしまい、1件も申請が無い年度もあったという。

ところが、平成28年度から申請が増え始め、現在加速度的に増加を続けている。平成30年4月~6月の実績戸数は1484戸で、前年度同時期の914戸を大きく上回り、前年比162.4%と飛躍的に市場が成長している。

  • 「フラット35(保証型)」の申請はここ数年で飛躍的に増加している

    「フラット35(保証型)」の申請はここ数年で飛躍的に増加している

藤岡氏は、「『フラット35(保証型)』は、金融機関がさまざまな工夫ができることがポイント。融資率、返済負担率、団信などを独自に設定することで、商品性を上げることができる」と解説。住宅ローンを利用する側にとっては、低金利で各金融機関の団信などを比較検討して選択できることが大きなメリットとなる。

  • 商品性を充実させることで差別化を図り「フラット35(保証型)」を魅力的な商品としている

    商品性を充実させることで差別化を図り「フラット35(保証型)」を魅力的な商品としている

取扱金融機関も、団信の商品性を充実させることで商品の差別化を図ることができるなど、メリットが大きい。最近では地方金融機関である広島銀行が参入したことで、多くの地銀が興味を示しているという。JHFでは平成32年度までに3機関以上の取り扱い金融機関の増加を目指す。

高齢者住宅ニーズに応える住宅ローン「リ・バース60」

最後は「人生100年時代を見据えた高齢者住宅ニーズに対応する『リ・バース60』の現状」について、住宅融資保険部融資保険企画グループの高橋傑グループ長が話した。

  • 住宅融資保険部融資保険企画グループの高橋傑グループ長

    住宅融資保険部融資保険企画グループの高橋傑グループ長

日本は高齢化社会が進んでおり、2025年には総人口に占める65歳以上の割合が3割にも上る見込みだ。そして60歳からの平均余命は男性で約24年、女性で約29年と長寿によりセカンドライフの期間も長期化が進んでいる。

そんな中、60歳以上の世帯で7割以上が住宅を所有しているという現状がある。このようなシニア層には「古くなった自宅をリフォームしたい」「バリアフリー化したい」「子供が独立したので減築したい」「収入が減ったので住宅ローンの支払額を減らしたい」などのニーズが存在する。

  • 高齢者の多くが住宅を所有しているが、様々な住宅へのニーズがある

    高齢者の多くが住宅を所有しているが、様々な住宅へのニーズがある

しかしながら、一般的に退職後は年金収入が主な収入源となるため収入が減り、資産を切り崩して生活費をまかなうケースもある。そうなると、将来に備えて現金を確保しておきたいというのが実情だ。

そのようなニーズに応えたのが「リ・バース60」だ。「リ・バース60」は「リバースモーゲージ型住宅ローン」の愛称で、今年5月からJHFで使用を始めたもの。満60歳以上が利用でき、毎月の支払いは利息のみとなるため、一般的な住宅ローンよりも毎月の返済額が少なくなるため、年金収入のみであっても十分返済できるケースがほとんど。住まいに関するニーズに応えながらも、手元に現金を残すことができることもメリットと言えるだろう。

また、新たに取得した住宅を担保にするため、申し込み時点で住宅を持たない人も利用できる。死亡時に担保物件の売却による回収を行った後は、相続人に対して残債務を請求しない形にすることもできる。

資金使途も住宅建設・購入だけでなく、リフォーム、サービス付き高齢者向け住宅の入居一時金、住宅ローンの借り換えなどにも利用できるという。

「利用実績の規模は決して大きくないが、平成28年度と平成29年度を比較した際、付保戸数にして425%と大きく増加しており、今後増加が見込まれる。あくまで平均値ではあるが、申込者の年齢平均は72歳で、資金使途は新築マンションが40%、新築戸建て建設が31%と、新築で7割を超えている」と、セカンドライフとして新築購入を果たしている利用者がいるという。

  • 「リ・バース60」は都市圏以外でも利用実績がある

    「リ・バース60」は都市圏以外でも利用実績がある

また、高橋氏はもう一つの特徴として「首都圏だけでなく、全国各地で利用実績があることも特徴。都市圏だけのものではないこともアピールしたい」と話した。

マンション老朽化や高齢化に伴う住宅ニーズへの対応は、金融支援においても取り組んでいかなければならない問題。将来の備えのひとつとして、情報収集してみてはいかがだろうか。