トヨタ自動車がカローラシリーズに12年ぶりのハッチバックを復活させた「カローラ スポーツ」を発売した。同シリーズ初となる3ナンバーの車体サイズで登場したカローラ スポーツは、TNGA初採用によるデザインと走りにプラスして、コネクティッド機能を含む「クルマ本来の楽しさを追求」(小西良樹チーフエンジニア)することで若者世代の獲得に打って出る。
世界累計4,600万台! トヨタ最量販車の今
トヨタはカローラ スポーツ投入を先駆けとして、新型カローラシリーズにおけるセダン「アクシオ」、ワゴン「フィールダー」も3ナンバー仕様に変身させて来年、市場投入することにしている。カローラといえば、トヨタ大衆乗用車の代表として日本の最量販車であった。だが近年では、かつてのカローラのイメージが薄れており、12代目となる新型カローラシリーズは、車格をミッドサイズに上げて改めて“ザ・カローラ”の復権を狙う。
カローラ自体は、トヨタが世界戦略車として154の国と地域で累計4,600万台を販売し、世界16拠点工場で生産している。しかし、日本国内では近年、「プリウス」や「アクア」といったハイブリッド車がカローラに代わって量販車となってきている。プリウスやアクアは、国内トヨタ4チャネルでの併売車種だが、カローラはその名のとおり「カローラ店」の専売車種であり、新型カローラシリーズの登場は、トヨタ国内販売チャネルの方向性にも影響することになりそうだ。
シリーズ初の3ナンバーに
12代目カローラで最初に登場した「カローラ スポーツ」は、5ドアハッチバックでスポーティーなデザインにこだわった。走りにおいても5大陸で延べ100万キロの走行試験を実施。あらゆる環境下で走る喜びを追求した。
全幅は1,790mmで、カローラシリーズとしては初めて3ナンバー(全幅1,700mm超)の車格となった。パワートレインも1.8Lエンジン+ハイブリッドシステムと1.2L直噴ターボエンジンを用意している。
このクルマ、欧州では「オーリス」の名称で1.8Lハイブリッド車として販売している。ディーゼルエンジンに逆風が吹く欧州だが、トヨタのハイブリッド車は好調だ。日本でも、パワートレインにバリエーションを持たせて若者層にアピールしていくこととした。
初代「カローラ」開発者の思いとは
カローラの初代は1966年に登場したが、当時は日本のモータリゼーションが幕開け期にあり、トヨタが「パブリカ」に続く大衆量販車として開発した。日本の自動車市場が一気に花開く中、カローラはトヨタというよりも、日本の大衆車を代表するクルマとなっていく。1969年から2001年まで、実に33年間にわたって車名別販売で上位をキープし続けたのだ。
初代カローラの開発責任者で、日本自動車殿堂入りを果たしたレジェンドでもある長谷川龍雄開発主査の「80点+α主義」思想は有名だ。これは、その時代の基準から見て80点のものを確保しつつ、魅力的な最新技術を「プラスα」として導入するという考え方だった。筆者はトヨタの専務になっていた長谷川氏に「初代カローラの開発コンセプトの本音はどうだったのですか」と聞いたことがある。長谷川氏は「当時の日本で魅力的な大衆乗用車を開発するには、限りある原価の中で、80点だけでもダメだし、『プラスα』で新しいクルマの魅力を提供したいという思いが凝縮したものだった」と述懐されていた。
カローラは、初代の投入から50年が経過している。その間、日本の乗用車市場も主流はセダンからミニバン、そしてSUVへと需要構造が変化していった。大衆乗用車の代表としてのカローラも、派生車を増やしシリーズとしては生き残ったが、ライバルだった日産自動車「サニー」を筆頭に、マツダ「ファミリア」、三菱自動車工業「ミラージュ」といった大衆乗用車は無くなった。
日産「ノート」が2018年上半期に登録車の車名別販売で首位に立ち、日産車としてのトップは1970年のサニー以来、48年ぶりということで話題になった。「プラス100ccの余裕」をキャッチコピーとし、1,000ccエンジンを搭載するサニーに対し、カローラが1,100ccエンジンをアピールすれば、サニーも「隣のクルマが小さく見えまーす」のキャッチでカローラに対抗するなど、当時のカローラ対サニーの争いは激しいものだった。
今回、登録車の上期車名別販売には、「アクア」「プリウス」「ヴォクシー」「シエンタ」「ヴィッツ」と5車種のトヨタ車がトップ10入りを果たしているが、カローラはランク外に落ちている。一方、軽自動車を含めた車名別販売となると、軽自動車が登録車を上回っているのが現状だ。
コンパクトカーからの脱皮
トヨタはカローラ スポーツを先駆けとし、アクシオとフィールダーを来年にもシリーズ12代目の新型車として投入する。新型カローラの開発を担当した小西チーフエンジニアは、「これこそ“ザ・カローラ”の復活でして、若者層をつかんでいきたい」と話す。
1,100ccエンジン搭載車であったことから分かるとおり、50年前のカローラはいわゆるリッターカーの大衆車という位置づけだったが、今回の12代目でカローラは3ナンバー仕様となり、コンパクトカーから脱皮した。
カローラ50年の歴史は、カローラユーザーの高齢化にもつながり、カローラユーザーの主体は、団塊世代の70歳となっている。いかに若者層の買い替えに結びつけるのか。その答えとしてトヨタは、カローラの車格を上げ、スタイリッシュなデザインと走りにこだわり、同時に刷新した「クラウン」とともに、トヨタ初の本格コネクティッドカーに変身させた。
かつての最量販チャネル「カローラ店」の今後は
トヨタは今年1月、日本国内の営業組織を切り替え、4チャネル販売網ごとの「タテ割り」を地域ごとの「ヨコ割り」とした。また、来年4月には東京地区の4チャネル販売店を統合する。これは、日本国内自動車市場が縮小していく一方で、シェアリングビジネスなど、新しいモビリティ・サービスを提供するビジネスモデルへの転換が求められている今、それに対応していこうとするトヨタの考えを反映したものだ。
ただし、トヨタの全国販売店網は、東京地区を除いて地場有力店で占められている。かつては「1部店」(トヨタ店)、「2部店」(トヨペット店)、「3部店」(カローラ店)、「4部店」(ネッツ店)と呼ばれ、1部店と量販の3部店を中心にして各地域を守ってきたのがトヨタ国内販売の強さである。
トヨタの国内販売は、この4チャネルとレクサスチャネルで計5チャネル体制となっているが、すでに他社は単一チャネルに切り替わった。トヨタでもプリウス、アクアなど、併売車種が増えてチャネルの個性が失われつつあるともいわれる。トヨタ4チャネルの中で唯一、車名が販売店名となっているのが「カローラ店」だ。かつてはトヨタ最量販チャネルだったカローラ店が生き残っていくためにも、12代目となる「ザ・カローラ」の復活は大きな意味を持っている。
(佃義夫)